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紫霧転生 ――その身体は霧――  作者: ビーバーの尻尾
 第二章 梟敵の巣窟 研鑽する獣心編
18/40

第18話 だいたい非常食的な扱い ――霧 VS 序盤に出てくる村の村長――

 

 ・・・僕が目を開けると、そこにはまた人間形態になったネージュがいた。


 時間を聞いてみたらあれからそんなに時間は経っていなかった。今回は比較的早く起きれたようだ。


 文句を言おうかとも思ったけど、また咆哮されては敵わない。自粛。


 恐る恐るといった感じで再び謝ってきたネージュに、自分も言い過ぎた、悪かったと言って謝ると、二人で黙々と散らかった部屋を片付け始めた。


 ネージュの咆哮で砕け散った水晶や、人間用の食器、フラスコなどの実験用具をちり取りと箒で片付ける。


 ちなみにこの部屋の床は日本のように靴を脱いで上がるタイプではなく、外国によくある土足で上がるタイプだ。

 床が石なのでガラスや陶器のようなものは完膚なきまで砕け散っている。


 倒れた本棚を立て直し、本を入れ直し、割れたフラスコから零れた床の上でブスブスと煙を上げている明らかに危険そうな薬品の対処をネージュに聞く。


『うん?どれどれ・・・。ああそれはこうして』


 煙を上げる黒い液体に手を向けるネージュ。

 液体が小さく震えたかと思うとひとりでに宙に浮き上がり、球体となる。


『このままこうして・・・』


 ぶつぶつと何事かを言うネージュのもう片方の手のひらに光が集まり、小さく弾けるとそこには新たなフラスコが!


『こうすればいいんだよ』


 球体となった液体の玉が此方に近づいてくるとポチャンとフラスコの中に落ちる。


「いや、こうすればいいんだよと言われても僕魔法使えないですが」


 あいかわらずどうなってんだその仕組み。


『ああ、そうだったね。でもそうするとああいう薬品には触れないから気をつけたほうがいい』


「触るとどうなるんですか?」


『触った部分が溶けるね』


「溶ける!?」


『ああ、大抵の金属もあれの中では融解してしまうからね・・・。

 もしシムの手のひらに雫を垂らしたら落ちていく勢いのまま貫通して通り抜けるだろう。

 ああ見えて高温なんだ』


 怖っ、そんなものを部屋の中に置いておくなよ。


 そしてそのままテーブルの上に置くな、専用の保管庫とかで厳重に管理されるべきだろうそれ。


「あれ?でもじゃあなんで床は溶けてないんですか?」


 金属を融かすのなら床を溶かせぬ道理がないだろう。

 しかし見た目普通の大理石の床には傷どころか痕跡さえ一切見当たらない。


『それはこの部屋が魔宝具で出来た特別性だからだよ。この【百間の扉ハンドレッド・ドア】を使って作ったね』


「ははあ、なんかよく分からないけど凄い・・・」


 本当に凄い。

 聞いてみたところやはりネージュが僕と戦う前に見せていた魔法は意図的に単純で弱そうに見せていたらしい。


 あれらは初歩の初歩の初歩の初歩で、僕を油断させるためだけにデモンストレーションしたらしい。

 そうして僕を不意打ちしたのか・・・。


 咎めるように視線を送ると、あっちの方を片付けてくるよといって逃げるネージュ。

 察しがいい。

 ・・・まったく。それにしても騙されたのは悔しいな。


 一通り部屋を片付け終わると、今日はもう寝ることにした。

 朝から戦ったり気絶したり、言い争いをしたり気絶したりで大忙しだったからな。

 今夜はぐっすり眠れるだろう。ベットはないから絨毯の上だが。


 寝る前にネージュがどこからか持ってきたイノシシのような動物を夕食代りに頂く。


 ネージュはドラゴンの姿に戻ってバリバリと、僕はいつもの様に霧で消化する。

 ネージュの前でこれをするのは初めてだったからか、彼女は興味深そうに此方を見ていた。


 普通の料理はしないのかと聞いたら、気が向いたらするけど普段はめんどくさいからやらないとのご返答。


 食べ終わったら二人ともそれなりに疲れていたのか、すぐに就寝することにした。


 絨毯の上で寝そべるパンダに、そのパンダの上に乗っかる少女。


 いつもは竜形態で部屋の外で寝るらしいが、今夜は僕と一緒に寝たいそうだ。もちろん大歓迎である。

 パンダのお腹の上で気持ちよさそうに寝るネージュ。


 明るく光っていた部屋の天井が色を変え、オレンジ色の暖かい光がぼんやりと灯る。

 これはだんだんと明度を下げていき、最終的には消えるそうだ。朝には再びつくそうだが。



 竜の住処に着てから早二日目が終わる。


 色々と大変だったが、寝る時に話し相手がいる、これだけでも今までの生活と比べて格段に素晴らしい。

 今の状況は、なんだかんだ言ってもいいものだ。



 ★★★



『今日はちょっと長老の所に行ってこようと思う』


 朝、部屋の外に出て洞窟の中の湖で顔を洗っているとネージュがそんなことを言って来た。


「長老?ああ、ここにいる竜達のリーダーのことですか・・・」


『まあ、まとめ役みたいなものさ。といっても何もしてないと思うのだけどね』


「なにもしてない?」


『うん、基本は放任主義で、なにかしろって言われたことがないんだよ。いつも洞窟の奥で眠っているから滅多に会わないし』


「何しにいくんですか?」


『そりゃもちろん、シムの事を聞きに。私にはシムの種族が全く分からないけど、長老なら知っているだろうからね。

 あとシムを私の客人として迎えることを伝えておけば後々面倒がないだろう?』


 なるほどね。

 昨日寝る時に話したが、今日からネージュは僕に色々とこの世界のことを教えてくれるらしい。

 その過程でこの洞窟の外にも出るそうだから、他の竜達に事前に話を通しておくのは必要なことだろう。


 出会い頭にエサと間違えられてパックリいかれるのはごめんこうむる。

 ここに来た時にも身体パンダが寝ている間に食われてたしね・・・。


「わかった、じゃあいってらっしゃいませー」


『はーい、行ってきます・・・ってシムも来るんだよ!紹介するんだから!』


 やっぱりか、分かってはいたけど気が進まない。

 竜の長老とか普通にコエーよ。ゲームだったらだいたい終盤辺りで出てくるキャラだよね。


 最初の村人に出会ってから三日後とか早すぎるなんてレベルじゃない。

 まあ最初の村人までも月単位の時間が掛かったわけだけど。

 村人も人というか竜だったわけだけど・・・。


 ・・・他の竜達がネージュみたいに優しいといいな、うん、そう信じよう。


 きっと長老も優しいお爺ちゃんみたいな感じに違いない。



 ★★★



「ふむ・・・いいじゃろう許可しよう。ただしネージュ、お前がソレを全く管理するのだ。ソレが勝手な行動をとった時などは諦めてもらおう」


「もちろんです、おさよ。感謝します。久しぶりに面白いものを見つけたのです。もちろん他のもの達に壊されないように気を付けますよ」


 僕の目の前で巨大な2匹の竜達が会話をしている。竜の言語で話しているので何を言っているのかはわからないが、内容は僕のことを話しているはずだ。


 ここはネージュの家から離れた長の住処。ネージュの家がこの空に浮かぶ島々の中ではだいぶ外側の方にあったのに比べ、長の住処である島は内側の中心、空に浮かぶ竜達の住処のど真中にあった。


 その島の中の巨大な洞窟の中、天井は例によって僅かに穴が開いてあり、そこから零れる太陽光が洞窟の中を神秘的な光で満たす。


 ネージュの家があった島も僕からしたら十分大きかったが、この場所はあれよりもずっともっと広く、大きい。

 この島が最大というわけでもないが、ネージュの家があった島の軽く数倍くらいの広さはありそうだ。


 ちなみに最大の島は主に竜の子供たちの遊び場になっているらしい、他の竜達が共同で使える公共の場所でもあるそうだ。


 ここに来る際にも遠目に見たが、大きかった。

 竜が住むだけあってとてつもない広さで、無骨な岩々が大半の面積を占めていたが、他にも超でかい湖や超でかい山や超でかい洞穴が遠くからも容易に確認できた。


 なんでこんなものが空に浮いているか疑問は尽きないが、どうやらそろそろ考え事も終わりにしなくてはいけなさそうだ・・・。


 長老がさっきから僕のことをガン見している。


 本能的な何かが警鐘を鳴らしていたから、視線を合わせないように明後日の方向を見続けて気付かない振りしていたが、もう限界だ。


 気分的には拳銃の銃口が頭の横にゴリゴリ押し付けられているに等しい。

 動くなよ、動いたら死ぬよと本能が言っているが、これ以上は我慢ならん。


 いかにも今気付きましたみたいな感じで爽やかに挨拶しようそうしよう。


「こ、こここ、こん、こんにちゎぁ・・・」


 ・・・・・・・・・なんで僕は重要な場面だといつも緊張してしまうのだろうか。

 初めて竜に会った時ならしょうがないかもしれないが、竜と既に三日もいるのにこれは情けない。


 しかし言ったぞ。言ってやった。

 声は震えていて情けないかもしれないがちゃんと長老の目を見て言ってやったのだ。


 はたから見るとマジで竜に捕食されるパンダ五秒前といったような感じだが、僕はちゃんと挨拶したんだ。


 文明人として(竜だが)返答がガブリみたいなことはないだろう。ないと信じたい。


「・・・なるほど、確かに魂の形が通常の魔物ではない。身体から溢れているこのかすみ・・・これは・・・」


 長老が僕を見ながらなにかを呟く、が、意味がわからない。竜の言語である。


 え?いま挨拶返されたの?それとも無視されたの?


「本体はそのかすみだそうです。本人も自分の事がよく分かっていないらしく、名前も私が不便だからと付けるように促して自ら付けさせました。紫の霧を意味するシム=ミストという名前です」


 ネージュがなにか言っている。長老に答えているように見えるがこれも竜の言語なので何を言っているかわからない。


 でも今シム=ミストって聞こえた。やっぱり僕のことを話しているのだ。

 お願いだから僕にもわかるように話してくれ。自分の事が話されているのに内容が理解できないとか不安すぎる。


『・・・シム=ミストよ』


 こっそりネージュに視線で訴えようかと思っていたらその前に長老が話しかけてきた。

 どうやらようやく僕にもわかるように魔法を使ってくれたようだ。ありがたい。


「はい」


 今回はハッキリと答えられた。「はい」の後になにか言おうかと思ったが何を言えばいいかわからなかったのでやめる。


『ネージュから話は聞いた。ひとまずお前がこの白の竜の里に滞在することの許可を出そう。ただし常にネージュと共に行動せよ、他の竜達に獲物と見られて襲われたくないのであればな』


 え、マジですか。ネージュがいないとエサと間違われてしまうのですか。

 滞在の許可がもらえたのは嬉しいがそれはちょっと怖い。


『あとお前は転生者で元人間だということもネージュから聞いた。魔物に転生するものなど初めて見たが、転生者自体は他にもいる。それはいいのじゃが・・・』


 ここで長老は少し言いよどみ、スッと瞼を閉じる。

 そして数秒の間目を瞑って何かを考えるように沈黙すると、ゆっくりと目を開けた。


『・・・お前の種族がわからないのじゃ。聞いた話だけでは心当たりがなく、眺めるだけ眺めてみたがやはりよくわからない。その身体から一回出てみてくれぬか?』


 一旦、霧だけの状態になれということか。


 うーん、正直乗っ取った身体から出て本体だけになると無防備な気がして落ち着かないからあまり出たくないんだけど・・・。


 だけどここで従わないというのは相手を信頼してないとあからさまに告げるようなものだし、得策ではないだろう。


 ネージュを見ると無言で大丈夫だと訴えかけてきた。


 ・・・仕方がないか。


 敵意は無さそうだし、大丈夫だろう。

 それによくよく考えてみれば、もし敵意があるのならこの身体パンダがあろうがなかろうがどうせ僕はこの竜に勝てまい。


 ならば出るも出ないも同じということだ。気にする必要はない。


「わかりました。今、出ます」


 パンダの身体を離れ、霧だけの状態になる。空中に浮かぶ人型の(かすみ)

 ドサッと、力を失ったパンダの身体が地面に静かに転がった。


 長老と相対する僕。

 改めてその壮大な姿を見つめる。


 身体は白、輝く白銀のうろこで覆われている。

 ネージュよりも二回り以上大きいその身体や翼に、何倍も太く逞しい四肢と爪。

 宝玉のような白金の瞳には僅かに黄金色の金箔が混じっている。


 洞窟の奥に鎮座して此方を悠然と見下ろすその威風は、まさに長年の時を過ごして来た竜の長にふさわしい。


 僕をジッと見つめるその視線に圧力を感じる、凄まじい眼力だ。

 僕も視線を逸らさず長老をジッと見つめ返す。(目は無いが)


 一歩も引かないその姿勢に長老が僅かに感心したような気がしたが、これは意地とか勇気ではない、外そうとしても視線が外せないだけである。


 霧である僕の本体は汗なんてかかないはずなのに、なぜか汗だくになっているような錯覚を覚える。ひんやりとした洞窟の冷気が心地よい。


 街中にいるラブラブカップルでさえこんなに長時間は見つめ合わないだろうというほどにお互いを見詰め合う僕と長老。


 無言で僕を見つめる長老と緊張で何もいえない僕。

 ・・・間が持たない、長老何か喋ってくれよ。


 ネージュも気を使っているのか何も言わないし・・・、それともここは僕が何か言うべきなのか?

 でも何を話せというのだ。


 僕の種族わかりましたぁー↑??

 とか聞いてみるのか?なんか馬鹿っぽくないか?


 それ別にわざわざ聞かなくてもいいというか、今まさにそれを考えているんだろうから邪魔しないほうがいいというか・・・、でもそれ以外今聞くことは特にないというか、そもそも何も喋らないほうがいいのではないかというか・・・。


 いつ終わるとも知れない沈黙の空気。

 軋んでいくマイガラスハート。


 僕のメンタルにだんだんとヒビが入り、ヒビの入ったところから少しずつ欠けてゆき、欠けた破片が磨り潰され、粉末状にされ、次は風に流されようかどうかといったところでようやく長老が口を開いた。

 その口から告げられた言葉は単純にして明快、長老はただ一言。





『・・・わからぬ』



 ・・・と言った。

 おいジジイ、そりゃねーだろ。


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