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紫霧転生 ――その身体は霧――  作者: ビーバーの尻尾
 第二章 梟敵の巣窟 研鑽する獣心編
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第12話 初めての・・・ ――再生能力 VS 生ゴミ――

 努力し、苦労に苦労を重ね、何回も失敗し、そして最後にやっと手に入れたものが一日でなくなったらどう感じるだろうか?


 怒りを感じる。悲しみを感じる。素直に諦めて次へいく。人それぞれだろう。


 パンダが既にお腹の中という凄い納得力のある言葉を告げられた僕はショックのあまり何も考えることができず、放心してしまった。


(・・・・・・・・・)


 僕の脳裏を(脳があるかは分からない)駆け巡っていくパンダとの記憶。


 殴られ、蹴られ、潰され・・・別にいい思い出があるわけじゃないんだったな。

 でもあれはすぐに諦めるには惜しい。僕の試練の成果なのだ。ああ辛かったあの日の思い出、あの日の努力、勝利・・・。


 思いを馳せる僕。

 しかしいつまでもそうしているわけにもいかず、再起動する。

 そうだまず確認をしないと。


『いや、私は――』


(残ってますか?)


 何か言いかけたドラゴンの言葉を遮って言葉を、いや今気付いたけど言葉出てないなこれ。まあいいやどうせ例の魔法とやらだろう。


(少しでもないですか?パンダの肉体の一部。少しあればもしかしたら、もしかしたら、間に合うかもしれない、今ならまだ、)


『・・・すまないな。そこまで取り乱すとは・・・。今も言おうとしたのだが、私は最初は食べるつもりはなかったのだ』


(・・・いやでもさっき美味しかったって言ってませんでしたか?食べたんですよね。最終的に。いえ、でもそれはもういいです。だから残っているかを――)


 そうすると今度はドラゴンが僕の言葉を遮って言う。


『違うんだ!私はやめろって言ったんだが、姪たちが勝手に!』


 姪?ドラゴンて家族いるのか?

 まあいてもおかしくはないか。生き物だし。


『いきなり噛み付いたから慌てて離したんだが、そしたらお前があの大熊の身体から出てきたもんだから、もういいかなと。ピクリとも動かないし、先程は本体じゃないと言っていたし、どうせあの大熊の出血量だと死んでいただろうし・・・』


 言い訳を続けるドラゴン。その様はまるでこっそりお菓子を食べたのがバレた小学生のようだ。なんか最初にあった威厳が崩れていくように感じる。


 しかしここで下手にごねまくってまたあの咆哮を食らったらたまったもんじゃない。

 僕が起きてからの態度で僕にそこまで害意があったようには思えないが、逆に言えば害意なくあそこまで相手を痛めつけるということだ。


 それでもパンダのことはちゃんと聞いておかないとダメだ。あくまで下手に、刺激せずに、(もう遅い気もするが)丁寧に!

 僕は焦る気持ちを抑えると、口調をガラリと変えて喋りだす。


(いえいえ、大丈夫でございますよドラゴン様。アレは確かに大事なものではございましたがドラゴン様の御気を煩わらせる程の物ではございませぬ故。)


 なんという丁寧さだろうか、もはや慇懃無礼である。

 ちょっとあからさま過ぎたか・・・?


『うぬ、そ、そうか。良かった』


 違和感を感じるそぶりも見せず明らかにほっとするドラゴン。


 ・・・いやいや、こっちの言葉に違和感感じろよ。明らかに気を使ってんだろうが。納得するな。

 と、思ったが。でも今はいいんだこれで。聞きたいことを聞ければそれで。


(とは言いましてもやはりそれなりに思い出があるものではあるのです。供養をしたい、とでも言いましょうか。できれば形見か何かにできるものは無いかと思いまして、何でもいいのですが・・・)


 もみ手をしながら迫るような、しかしあくまで卑屈な雰囲気を出しつつドラゴンに尋ねる僕。


『・・・あることはあるんだが・・・。形見には・・・あまり見ない方が・・・』


 希望の光りが見えた。


(なんでも!なんでもいいのです!どんなものでも一目見れればそれで!それで諦めがつきますから!)


 ここぞとばかりに頭(霧)を地面に擦りつけドラゴンにお願いする。


『・・・わかった。いいだろう。では少し掴まれ』


 やった!



 ★★★




 そして今、僕の前にはパンダの成れの果てがあった。




 ドラゴンが僕を連れてきた。具体的には僕がドラゴンの手の中に入れられて連れてこられてた場所は、ドラゴン達のゴミ捨て場だった。


 ここにくる途中、空中に密集して浮かぶ島のようなドラゴン達の住処やその間を飛んでいる大小さまざまな白いドラゴン達を見てテンションが上がっていた僕だが、様々な動物の骨やガラクタが積み重なっているゴミ箱のような島に(これも空中に浮かんでいる)来てそのテンションはマックスを通り過ぎて一気に沈静化してしまった。


 といってもゴミ島を見てがっかりしたわけではない。逆だ。

 あちらこちらに見える恐竜の骨のような頭蓋骨に、長年の間で風化した巨大な鉄塊のようなオブジェに、その背景に見える大空に、雲に、吹く風に、視界を飛ぶドラゴンたちに、自分の少し後ろで途切れてあとは青空に続いていく地面に、僕は、異世界にいるということを感じた。実感した。そして感動したのだ。


 パンダ形態で跳んだ時も思ったが、なんか凄い好い景色、風景、場面。しかもこの竜の住処はあの時より遥かに高く、もはや地面など見えない。雲の上の大陸。なんと凄い好い景色、風景、場面!

 ・・・語彙力の少なさを恨む。


 そして感動していたらドラゴンが指し示すゴミの山の端、つまり僕の前に何らかの液体に濡れてグッショリしてるパンダの残骸を見つけたのだ。


『肉は美味しいし、骨も噛み応えがあって良かったんだがな。毛皮はちょっと食べにくくて、ここに捨てたんだ』


 なるほどね。つまりこれは唾液か。うへぇ、バッチイ。

 しかしそうは言っていられない。

 パンダを見つけた僕は一瞬ためらったあとパンダの毛皮の中を探り、乗り移る。


 ・・・うーん、・・・これは・・・ん、・・お、あった!イけるっ!


 地面にベチョっとなっていた薄汚れた白黒の塊を紫の霧が上から覆い隠し、何かを探り、見つけた。

 何をしているのかと様子を見守っていたドラゴンが驚きに目を見開く。


 打ち捨てられた雑巾のようにボロイそれが、まるでその毛皮の下にこびり付いている肉片が蠢いているかのように不規則に動き、持ち上がる。


 事実パンダの肉片は動いていた。紫の霧がその動き出した肉片に触れたところからパンダの身体が再生していく。


 爆発的な速度で肉が、骨が、神経が同時に再生されていく。背筋が粟立つような光景と共に霧の中で盛り上がっていく肉塊。

 紫色で遮られ、その様子は時折見える霧の切り間からしか確認できないが、傍から見ているドラゴンには、何が起こっているのかを理解するには十分だった。


 時間にして僅か数秒。霧が晴れるとそこには確かにドラゴンが食べて、腹に収めたはずの生き物がいた。わなわなと震えるドラゴン。


「あー良かった、まだ生きてる細胞がいました。あとちょっとでも遅れてたらまずかったですよ。ありがとうございますドラゴンさん」


 唾液でテカッた姿で僕はドラゴンにお礼を言う。まあ食ったのもこいつなんだけど。


『馬鹿なッ!あそこまで損壊していた身体を・・・!種族能力か?・・・というかそもそも種族は何なんだこれは?・・・』


 どうやら僕の出自に御関心がありそうな御様子。ところがどっこい僕も知らないのです。

 あと種族能力?なにそれ?


「むしろ聞きたいのは僕なんですけどね。この世界のことを教えてくれませんか?お願いします」


 なんとなくだがこのドラゴンは人が(ドラゴンなのに)いい気がする。たぶんこの世界においての案内人的ポジの人に違いない。

 ドでかい顔を見上げて頼み込んでみる。あといい加減上を見て話すのが落ち着かないからどうにかして欲しい。顔下げるとか。


『交換条件でならいいだろう。私の元に滞在し、いろいろおまえ自身のことを話してくれ、竜にここまで無遠慮に話すものを私は見たことが無い。面白そうだ。もちろんこちらの言うことには従って、勝手な行動は慎んでもらうが、いいな?』


 僕にはいやだと答える理由がない。せっかく言葉を話す人に(※ドラゴンです)会えたのだ。是が非でもこの世界の情報を引き出させていただこう。

 ・・・しかし心配が無いわけではない、出会い頭に僕にぶっ放された咆哮。


 ドラゴン、いや竜か?どちらでもいいが、とりあえず慎重に行動しなければ。

 自分の心配などおくびにも出さず、パンダは満面の笑み(獰猛な表情で牙を剥き出している。)で言った。


「ありがとうございます!よろしくお願いします!」



 ★★★



 再び空の島と島の間を飛ぶと、僕達はこのドラゴンの住処へ行った。

 そうやらさっきまで僕が気絶していた場所は物置のようなところらしい。


 頻繁に人(※ドラg略)が通りかかるし、子供たちが時々入ってくるからで自分の家に行くようだ。


 じゃあ何でさっきあそこにいたんだと聞いたら一回自宅に戻って僕のために家を片付けていたそうな。几帳面系女子か。


 そして空中浮遊する島々の群れの端の方にある比較的小さな島に到着。


 小さいながらもしっかり木々が生え、草花がある。話では湖もあるらしい。というか、普通にでかい。

 話と光景にいちいち驚く僕、少し演技もはいるが。


 その反応を楽しそうに聞くドラゴン。どうやらこのために僕を物置で介抱したそうだ。そんなに自慢したかったのかよ。


『驚いてくれると思ってな!』


 少し大げさだけど本当に驚いているし、相手が嬉しそうなので悪い気はしない。


 そしてその島の中の中心に行くとなんと洞窟があった。

 小さい方だと言っているが、ドラゴンが住むことができるぐらいの大きさだ。普通にでかい。人間で言ったら王様のお城ぐらい大きそうである。


 ただの洞窟だけど。

 こんな場所の何を片付けるって言うのだ。何も無いじゃないか何も。


『こっちだ』


 洞窟の中に見つけた天井から光り差す幻想的な風景の湖でここに飛んでくるまでにカピカピになっていたドラゴンの唾液を落としていたら早くしろと促される。

 しょうがない。びしょ濡れで行かせてもらおう、タオルとかあるのかしら。


 ドラゴンが洞窟の奥の奥にこちらを案内する。光りも届きにくいし視界が悪く、洞窟の壁の凹凸に隠れていてよく注意しないと死角になるところだ。

 そしてその場所の壁に向かって一言。


『開け』


 灰色だった壁になにか僕に理解できない文字が浮かび上がる。そして四角形の光りの扉のようなものが現れた。




 人間(パンダ)サイズの。


「・・・」


『開いたな、入れ』


 いやあんたどうするんだよ。これは明らかにパンダ用だ。絶対にその巨体は入らないだろう。


 客人を招いておいて一人だけ別の場所に行かせるのか?・・・一人で?


 先に相手のためにドアを開けて、自分は後から入るのとは違うことはドアのサイズを見れば一目瞭然。


 確かにこのドラゴンはぼくを一旦物置に放置するほどの所業を平気でしていた奴だが、アレには一応理由があったようだし、パンダの身体がなくなってからは霧の状態だったぼくを容易に触ることができないという理由もあった。

 すり抜けちゃうし、下手したら風に飛ばされちゃうからね。


 しかしこれは理由が見えない、僕だけこの中に入れというのか。自分は入らずに?


 瞬間、僕の頭の中を嫌な考えがよぎる。毛皮を滴る水滴がやけにゆっくりに感じられた。

 思考が加速するような感覚。




 コイツ、僕を騙そうとしているんじゃないだろうな・・・?




 僕が珍しい生き物らしいことは、コイツと話していて分かった。そしてその珍しい生き物にコイツが興味を持っていることも、しかしどのように・・・・・コイツが僕に接するのかはまだ分からないのだ。騙して、閉じ込めて、強制的に研究材料にされないとどうして言い切れるというのか。




 僕は、コイツのことも、竜のことも、この世界のことも、まだ、何も知らないのに。




 硬直してしまった僕を前に白い竜が首をかしげる。いかにもどうしたのだろうかとこちらを気遣うような目線を向けてくるが、僕はその目の奥に冷徹な光りを垣間見てしまったような気がして、一気に恐怖が襲って―――




 ―――・・・こない。怖くは、ない。気を許して相手の領域テリトリーにここまでのこのこ付いてきたことを反省するのは後だ。そうだ今はそれよりもこの場をいかにして逃げ切るかを考えるべきだ。このトカゲ野朗がこちらに対して絶対的な攻撃手段を持っているのはこの身で経験済み。ここはとりあえず先制攻撃で隙を――


『ッ!?す、すまない!待ってくれ、私としたことが少し気が急っていて気が付かなかった。そちらが考えていることは分かる、少し待ってくれ。今、変わる――』


 いきなりドラゴンが慌てたように一歩パンダから離れると何か此方に弁解するようなことを言い始めた。

 全力で攻撃してから死に物狂いで逃げる直前だったが、一旦踏みとどまる。

 距離は離れたが、まだまだ一瞬で追いつく程度の距離だ。もし奴が咆哮を放とうとしたら、その前に喉を攻撃して脱走する。

 前回はポカンと眺めていただけだったが、息を吸い込む時に攻撃するタイミングはあったはずだ。


 ・・・・・・それに僕の誤解ならそれに越したことは無い。言うまでもなく僕だって初めての話し相手を攻撃したくなぞ、ない。


 心で少し迷いつつもいつでも対応できるように油断せずにドラゴンを見ていると、いきなり相手が淡い光に包まれた。

 しまった!別に相手が使える技が咆哮だけなわけではないことを失念していた!

 物語の常識的に考えても、先程の光る扉を見ても、今までの経験から言っても、ドラゴンの取れる攻撃手段が咆哮ただ一択のはずがなかった。


 油断しないようにと思った次の瞬間にこれである。まったく自分の愚かさ加減に嫌気が差す。

 未知である以上、どう対応すればいいのかなんて分からない。

 しかしただ同じ場所に留まって何もしないのは論外だろう。

 もはや全力で逃げてこの島から飛び降り、何とか逃げ延びれることを祈るしかあるまい。


 パンダはまだ光っていて、何故か徐々に体積が小さくなっているように見えるドラゴンから一番離れているところを駆け抜けようとして地面を蹴っ――


「ま、待って待って待って!待ってッッッ!!!」


 ――瞬間、流れる視界の端におかしなものを捕らえた気がして全身をフルに強化していた霧を少しだけ身体から出すと、ドラゴンを確認し、止まる。


 地面を抉り砂埃を巻き上げ、それでも止まりきれずに右腕を地面に突き立ててやっと止まる僕。

 土煙の中、地面に刻まれた三本の荒々しい線の横に見えるのは・・・。




「・・・人・・・間・・・!?」

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