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24 一緒にいる未来


 寒い冬の間に、空良の住所は変わった。

 叔父さんと住むために、今よりも駅に近い一戸建ての貸家に引っ越したのだ。

 冬の間、私達は滅多に外で会えなかったが、その分頑張ってお互い勉強していた。

 高校生になるまでは、私達は二人の関係を秘密にしようと決めたのだ。

 高校に入れば、人間関係も変わる。

 それまでの空良のことなんて誰も気にしなくなる。

 それまで待とうと、空良が言ってくれた。

 だから、今は勉強を優先させた。

 不安はなかった。


 会える回数が減っても、気持ちは前よりも繋がっていると信じられたから。


 私達は三年になった。

 空良は、学校を休まなくなった。

 技能教科をさぼることもなくなった。

 顔に殴られた痕を残すこともなくなり、相変わらず学校では滅多に誰かと話すことはないが、穏やかな雰囲気をみんなは感じ取るようになっていた。

 叔父さんは、いい人らしい。

 空良のことを気にかけながらも、適度な距離を保って接してくれるという。

 まだ大人の男の人が怖い空良には、いい距離感なのだと思う。

 最初の頃の頑なな緊張が薄れて穏やかな雰囲気になったのは、きっと叔父さんのおかげでもあるのだろう。

 私は、相変わらずピアノに通い、学校に通い、時間の許すかぎり昼休みには音楽室でピアノを弾いている。

 傍で聞いている空良のために。

 穏やかで優しい時間が、美しい音楽とともに流れていく。

 来年の春には、私達は晴れた空の下で堂々と出逢えるだろう。

 そして、花がほころぶ頃には、二人で並んでずっと歩いていけるだろう。






 それでも。

 時々私達は真夜中に会う。

 誰もいない境内で、そっとよりそってそこにいる。

 他愛もないおしゃべりをして、星を見て、月を見て、そうして二人だけで過ごすのだ。


「俺さ、こうして花音と一緒にいるほうがずっといい。こうやってしゃべってるほうがずっと気持ちいい。きっともう少ししたら、絶対それだけじゃすまなくなると思うけど、それまでは、こうしていたい」


 そうして、空良はそっと私の手をとる。

 境内を出るまでの短い間、私達は寄り添ったまま石段をおりていく。

 そんないつも通りの帰り道、空良は私の耳元で短く言う。

「ずっと、一緒にいよう」

 私も、短く答える。

「ずっとね」

 空良はというと、本当に嬉しそうに笑ってくれた。

 彼の頭上に輝く、優しい満月のように。






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