第7話『襲撃』 (光)・後編
あれ?思っていた以上に早く終わった^^;
「「ハァァァッ!!!」」
マリーを守る俺と突然襲い掛かってきた謎の襲撃者との闘いは始まって数分で既に激戦となっていた。
俺達は互いの攻撃を避け、捌き、受け止めながら一歩も退かず刃を交える。
耳に響く金属音、互いの咆哮だけが薄暗く静寂なエントランスホールに響き渡る。
俺は左右の手に風迅と雷迅を、襲撃者は両手に鉤爪をその手に構え動き続ける。
しかし、皮肉な事にそれほどの激戦であるにも関わらず双方に目立った外傷は皆無だった。
無論、俺達はお遊びで闘っている訳ではなく手加減無しの本気の闘いだ。
俺は剛軟交えた刀の動きで、相手は野生の獣の如き動きで互いの攻撃を紙一重で回避しているのだが、なまじ実力が拮抗している為か互いに決定打が無いのが実情だった。
「カッティングクロー!!」
……ちなみにさっきから謎の襲撃者は何やら技名的なものを発しているが俺には然したるダメージとしては還元されてはいなかった。
何故なら最初の強襲の際に放ったストライククローなる技は空中からの落下速度を利用した技だし、カッティングクローなる技は上体を下にずらしたまま下から上へと鉤爪を振るっているに過ぎない。
(腕力と集中力ではコチラが有利だがスピードと反射神経はアチラが有利か……何とも歯痒いな)
しかし、いつまでも襲撃者とこんな闘いをしている訳にはいかない。
俺はマリーの専属護衛としてこのエントランスホールの何処かに隠れている彼女を一刻でも早く安心させる義務がある。
(悠長に構えている時間は…………無い!!)
改めて覚悟を決めた俺は左右の手に持っていた風迅と雷迅を鞘に戻す。
そして、自分の上体を前にずらしてから右足を前に出して風迅と雷迅をいつでも引き抜ける態勢を取る。
この構えは昔、風迅と雷迅をくれた友人が教えてくれた“抜刀術”という構えだ。
詳しくは知らないが鞘から刀剣を引き抜き、その動作から相手に一撃を加える技術で状況によっては二撃目を与える必要な場合もあるらしいが友人曰く「お前ほどの豪腕の持ち主なら二の太刀は要らない」と言っていた。
……ちなみにこれは余談だが当然ながらヒノモトの国にも二刀流の使い手は数多く居るが意外にも二刀流で抜刀術をマスターした人間は極少数らしい。
そういう訳で俺は短期決戦でこの闘いを終わらせる為に相手以上に馴染みの無い抜刀術の構えを意識して行う。
だが、謎の襲撃者も俺の変化に気が付いたのか両足をがっしりと地面に付け、大袈裟に両手を拡げた。
「「……………………」」
先程まで聞こえていた咆哮も耳障りな金属音は今は聞こえない。
今はただ、この張り積めた空気と重々しい静寂こそが全てだ。
「兄ぃ様、頑張って!!」
不意に何処からかマリーの声援が俺と謎の襲撃者の耳に響く。
次の瞬間。
「……っ!!!」
マリーの声の後、一瞬の刹那の輝きを持って互いの刃は降り下ろされた。
そして。
「俺の勝ちだ」
俺の勝利宣言と共に謎の襲撃者は膝を屈し、俺は風迅と雷迅を鞘に戻した。
「兄ぃ様っ♪♪♪」
膝を屈した謎の襲撃者を何処からか見ていたマリーはエントランスホールにあった柱からひょっこりと姿を現すと涙目になりながら俺に抱き付いてきた。
「ふぇぇぇぇん。兄ぃ様兄ぃ様兄ぃ様ぁぁぁぁっ」
余程、不安だったのか無事だった俺の顔を見た途端、マリーは遂に泣きだした。
「…………」
そんなマリーに俺は無言で彼女が泣き止むまで静かにマリーの頭を撫でる。
「……生憎と泣きてぇのはコッチなんだがなぁ……」
不意に今まで膝を屈したままピクリともしなかった謎の襲撃はゆっくりと立ち上がるとそう言葉を発した。
「見ろよ!俺のタイラントにヒビなんて付けやがって!!特注品なんだぞコレ!!!」
謎の襲撃者はそう言うと僅かにヒビが入った鉤爪付きの手甲タイラントを俺達に見せ付けてきた。
「いきなり卑怯な不意討ちを仕掛けてきておいて何を言う……自業自得だ馬鹿」
対して俺は先程とは異なり、普段のマリーと接する様なフレンドリーな砕けた口調で襲撃者と接する。
「……えっ?えっ??……えっ???」
ちょうど、俺と謎の襲撃者の間に位置するマリーは俺達の変化にあたふたしていた。
「何が卑怯だ。大体、その不意討ちに対して無表情で対応してきたヤツが何をほざきやがる」
「……っと。その前にソッチの女の子には一応、とっとと自己紹介しといた方が良いか……俺は“ウルムナフ・ライテウス”このライテウス家の一人息子で次期当主様だ。宜しくな“義妹ちゃん”☆」