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恋愛奇譚 ~盲目的な愛のカタチ~  作者: 足利 士郎
第2章『サイアーム帝国編』
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第5話『旅路』 (闇)

 ちょっと風邪を引いてしまい更新が遅れてしまいましたがようやく回復したので更新を再開します。



 兄ぃ様と二人っきりで馬車に揺られること三日目のお昼頃、私達はようやくラグレリアとサイアームの国境に辿り着きました。


 「御苦労様です」


 残念ながら今までの兄ぃ様との蜜月の時間は私が望んだ様な二人の愛が狂おしくも激しく燃え上がる様な展開には全くならず、むしろ非常に穏やかなモノでした。


 「いよいよ……いよいよサイアーム帝国ですね兄ぃ様♪」


 しかし、ようやく念願のサイアーム帝国領内に入れると言う事で私のテンションは思わず再び舞い上がりました。


 国境を警備していた人に王族専用の通行書を手渡し、数分後に私達は遂にサイアーム帝国の土を踏む事が出来ました。


 そういった気持ちがあったせいかソワソワしていた私を見かねた兄ぃ様は私に問題を出してきました。


 「まずは簡単なモノから……サイアーム帝国は水源の国と言われる程に水が溢れているがそれが何故だか判るか?」


 これ位は簡単です。


 私は今まで王宮の座学で学んだサイアーム帝国に関しての知識を思い起こしながら理想的な回答を行いました。


 「では二つ目だ。枝分かれした水脈は土地によって水の効能や色合いが違うがそれは何故か?」


 二つ目の問題は少しだけ難しいモノでしたが私だって兄ぃ様がホルスヤードに行っている間、一生懸命に様々な教養を身に付けていたのです。


 今度は書物で知った知識を思い返し、答えと思しき回答をしました。


 すると、予想外の正解率だったのか兄ぃ様は少しだけ考え込むと次の瞬間、不気味な笑みを浮かべました。


 対して私は二つ目の問題も難なく答えられた私は少しだけ嫌な予感がしつつも得意気に兄ぃ様を見つめました。


 「ならば最後の問い掛けだ……サイアーム帝国で最も美しいとされる場所は何処だ?」


 最後に来たこの問題、どうみても王宮の座学や図書館の書物には無い種類の問題です。


 「一番美しい場所……ですか?……うぅ~~ん」


 有名な場所を幾つかの候補として絞る事は出来ますが一番美しい場所となると難問です。


 (もぅ……兄ぃ様のイジワル)


 そう言えば幼い頃から兄ぃ様は意外と負けず嫌いで、よくこの手の問題で自分が負けそうになると決まってイジワルな問題を突き付けてきていたのを私は不意に思い出しました。


 (こういう所は本当に変わってないんですね兄ぃ様……)


 何処か懐かしいこのやり取りに私は内心、とても暖かな気持ちになりました。


 「すみません……少しの間だけ馬車を停めて貰えませんか?」


 そんな時、不意に兄ぃ様が馬車の手綱を引いていた人を急に呼び止めました。


 「……兄ぃ様?」


 いきなりの事で兄ぃ様の真意が分からなかった私は小首を傾げて兄ぃ様を見つめました。


 「宜しければ少々、私とご一緒に散歩でも致しませんかマリーシア様」


 おまけに今まで兄ぃ様は普段から私と気兼ねなく接してくれていた砕けた口調だったのがいきなり仕事用の丁寧で他人行儀な口調へ変わってしまったせいで私の頭は更に混乱してしまいました。


 「……はい……?」


 しかし、そこは流石の私。


 疑問と疑念を持ちながらも兄ぃ様に付き従い、草が生い茂る道なき道を突き進みました。


 「……やっと着いたか」


 それからおよそ十分後、私の前を歩いていた兄ぃ様はようやくその足を止めました。


 「マリー……先程の問いの正解は此処“オリビエ湖”だ」


 刹那。


 私の前に笑顔を見せた兄ぃ様と例え様の無い美しさを見せる湖が広がりました。


 「……凄い……水が透き通って湖の底まで見えてる……」


 しかも兄ぃ様が連れてきてくれたこの“オリビエ湖”の水は透明度が非常に高く、湖を泳ぐ魚は勿論の事、湖全体の底の部分までもが見渡す事が出来たのです。


 (こんな綺麗な場所、初めて見た……)


 その光景に漏れるのはただ感嘆の吐息だけ。


 「……そう言えば、昔に此処を教えてくれた友人が言ってたんだが」


 吸い込まれそうな美しさにただただ見惚れていると不意に兄ぃ様が何かを思い出したかの様に何かを語りだしました。


 「満月が湖を照らす月明かりの夜に愛の告白をすれば生涯離れる事は無いらしいぞ」


 …………えっ?


 「生涯離れる事は無いっ!!!」


 そ、そそそそそれってもしかしてもしかしなくてもそういう意味ですよね!?


 今はお昼過ぎだし、満月の夜でもないですけど……大事なのは二人の想いですよね兄ぃ様!?


 「……マリー……」


 「ひゃ、ひゃい!!?」


 つ、つつつつつ遂に!遂に夢にまで見た瞬間がっ!!!


 神様女神様天使様……今日という日をありがとうございます。


 駄目!気を強く持ってマリーシア!!兄ぃ様の一世一代の愛の告白を一字一句逃さぬ様に魂に刻んで「お前もいつか素敵な男性に巡り合えると良いな」
















 ……………………えっ?


 次の瞬間、私の中で消えゆく興奮と湧き上がる憤怒が同時に渦巻きました。


 私は兄ぃ様を深く、そして誰よりも愛しています。


 兄ぃ様の愛の為なら王位継承権なんてかなぐり捨てて、何処までも何処へでも兄ぃ様に付いていきます。


 でも、今だけは今だけは……。


 「兄ぃ様の……兄ぃ様の馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 貴方のその鈍さを憎んでも良いですか?



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