罰ゲーム
放課後の図書室には、勉強をする者や、本を読む者で溢れていた。
わざわざ放課後に図書室に来るとは、金聖高校には暇人がたくさんいるらしい。
……まあ、その中の一人に俺もいるのだが。
だが俺は図書室に本を読みに来たわけでも、勉強をしにきたわけでもない。
俺が図書室に来た理由は一つ。……罰ゲームだ。
五日前に俺たちは部活を作った。そして、ちゃっかり教頭は部室までくれた。雄大は協力してくれたお礼に、部室を自由に使わせわせてくれている。
……まあ、部室に怪しげな物質がいくつか存在しているが。
そして少し前まで美咲先輩と椿と俺の三人で、北校舎二階にある部室で大富豪をしていたわけだが……
『よ~し、次の勝負で一番負けの人は罰ゲームね~』
俺が四連敗した直後のことだった。美咲先輩のテンションは、一勝する事にどんどん上がり、ついに四勝目で大爆発してしまった。
『いきなりなんですか!? 罰ゲームなんていりませんよ!』
くっ、罰ゲームなんて入れてみろ。俺がビリになるのが目に見えてるじゃないか。美咲先輩は四回やって四回大富豪。俺は四回大貧民。実力の差は歴然すぎる……
『私は賛成~』
椿が美咲先輩の案に賛成する。
『このまま楽しくいきましょうよ。楽しく!』
『よ~し! 多数決の原理により、罰ゲーム実施する!』
『俺の意見はスルーですか!? 少数意見も尊重してくださいよ!』
美咲先輩が考える罰ゲームなんて、生半可なものではないことは確かだ。ちょっとパシられる程度ではすまない……きっと、犯罪ギリギリのものがくるに違いない……いや、下手をすると、警察に捕まるレベルのものが……
『よ~し、罰ゲームは何にしよっか』
完全に少数意見はスルーみたいです……
『決めた! 罰ゲームは図書室にいる文学少女を、部室に連れてくるだよ~』
『な~んだ、そんなことだったのかよ。ハッハッハッハッハッ……て、んなわけあるわけないでしょ! なんですか、美咲先輩は俺に犯罪者になれって言ってるんですか!」
『まだ、竜也がビリになるとは決まってないよ?』
『……決まってますよ』
そして今にいたるとゆうわけだ……
文学少女……か。適当に本を読んでる女子を連れてこいってことだよな……
いっそのこと、誰かを女装させて……ダメだ、俺の命が危うい……
絶望の淵に立たされていた俺だが、図書室の隅っこで見覚えのある顔を見つけた。
……水城か?
近づいてみるとはっきりわかった。あの美しい黒髪を持つ人物は一人しか心あたりがない。
「やあ、水城さん。今日は読書?」
俺は水城の隣の席に座り、小声で囁く。
相変わらず水城は、本を読むだけだった。
「ああ、そうだ。水城さんのことは、普通に水城って呼んでいいか?」
「構わないわ。それよりも、あなたが近くにいると読書の邪魔になる。どこか他の所へ行ってくれる」
水城は本を読みながら、表情一つ変えずにつぶやいた。
「水城が……水城がしゃべってくれた!」
滅多にしゃべらない水城が、口を開いたことに俺は驚きつい、席を立ち大声で叫んでしまった。もちろん周りは、何事!? とゆう視線をこちらに向けている。
俺は周りに頭をペコペコし、席に座った。
「水城、お前もうちょっと愛想よくしたら、モテるぜ! 絶対」
「別にモテたいとは思わないので」
「そうだ、もしよかったら翠静荘に――」
「入りません」
くっ、気まずい。でも前よりは進歩してるんじゃないか? 前は口も聞いてくれなかったわけだし。
「そうだ! 今部室でトランプしてるんだが、水城も来るか?」
水城は何も答えず、ただ本を読んでいた。
否定しないってことは、来てくれるってことだよな……
「よし! じゃあ行くぞ!」
俺は強引に水城の腕をつかみ、部室へと連れて行った。
「まっ、まさか本当に竜君が女を連れてくるなんて……」
部室に入ると椿が口に手をあて、驚く素振りを見せた。美咲先輩は、まさか本当に連れてくるとは、と言わんばかりに笑いをこらえていた。
「竜也よくやった! 君のあだ名は性犯罪者に決定だよ!」
「俺はまだ何もしてませんよ!」
「まだ……ね~」
椿の冷たい視線が俺に突き刺さる。
言葉の綾だよ……言葉の……
「で? そちらの美少女ちゃんの名前は、なんとゆうのだい?」
水城は美咲先輩の問いに答えず、ただ手元の本を読んでいた。水城は俺に連れて行かれている時も、ずっと本を読んでいた。
「もしかして、水城さんじゃない?」
横から飛んできた椿の言葉に、水城はゆっくりとうなずいた。
水城も人の話はしっかりと聞いているみたいだ。
「よ~し、水城ちゃん。今日は何する? 野球拳? それとも脱衣麻雀?」
そう言い美咲先輩は、道具一式を掲げた。
「先輩、そうゆうハレンチなのは抜きでいきましょう」
「え~でも、椿ちゃんは、竜也の下のほうが見たいって言ってたよ」
「なっ、なに!? 椿、本当か!?」
「そ、そんなわけないでしょ! 誰があんたなんかのし、下の……」
ほっぺを赤らませながらしゃべる椿は、実に可愛い。常にこの状態が続けば、ミス金聖も夢じゃない!
「先輩、やっぱりそうゆうのは抜きでいきましょう。あくまで、全年齢対象ゲームでいきましょうよ」
「え~でも、水城ちゃんもイケナイ遊びがしたいって」
「帰ります」
「…………えっ!?」
水城はパタンッと本を閉じ、部室から出ようとした。
「ちょっと待てよ、水城! 少しくらい、遊んでいけよ」
「もう、自分の欲望のために、他人を傷つける人間には飽きています」
その言葉を残し、水城は部室から出て行った。
俺はこの時見た水城の背中が、どことなく悲しげに見えた。
さっきの水城の言葉は、どこか俺の心に重くのしかかった。
「竜君……」
椿の俺の近くでつぶやく。
「わかってるよ、椿……」
俺はポケットから携帯を取り出し、あるところへ電話をかけた。
『はい、もしもし』
『おい、雄大! 今から教室に来い!』