表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/18

罰ゲーム

 放課後の図書室には、勉強をする者や、本を読む者で溢れていた。

 わざわざ放課後に図書室に来るとは、金聖高校には暇人がたくさんいるらしい。

 ……まあ、その中の一人に俺もいるのだが。

 だが俺は図書室に本を読みに来たわけでも、勉強をしにきたわけでもない。

 俺が図書室に来た理由は一つ。……罰ゲームだ。


 五日前に俺たちは部活を作った。そして、ちゃっかり教頭は部室までくれた。雄大は協力してくれたお礼に、部室を自由に使わせわせてくれている。

 ……まあ、部室に怪しげな物質がいくつか存在しているが。

 そして少し前まで美咲先輩と椿と俺の三人で、北校舎二階にある部室で大富豪をしていたわけだが……




『よ~し、次の勝負で一番負けの人は罰ゲームね~』


 俺が四連敗した直後のことだった。美咲先輩のテンションは、一勝する事にどんどん上がり、ついに四勝目で大爆発してしまった。


『いきなりなんですか!? 罰ゲームなんていりませんよ!』


 くっ、罰ゲームなんて入れてみろ。俺がビリになるのが目に見えてるじゃないか。美咲先輩は四回やって四回大富豪。俺は四回大貧民。実力の差は歴然すぎる……


『私は賛成~』


 椿が美咲先輩の案に賛成する。


『このまま楽しくいきましょうよ。楽しく!』

『よ~し! 多数決の原理により、罰ゲーム実施する!』

『俺の意見はスルーですか!? 少数意見も尊重してくださいよ!』


 美咲先輩が考える罰ゲームなんて、生半可なものではないことは確かだ。ちょっとパシられる程度ではすまない……きっと、犯罪ギリギリのものがくるに違いない……いや、下手をすると、警察に捕まるレベルのものが……


『よ~し、罰ゲームは何にしよっか』


 完全に少数意見はスルーみたいです……


『決めた! 罰ゲームは図書室にいる文学少女を、部室に連れてくるだよ~』

『な~んだ、そんなことだったのかよ。ハッハッハッハッハッ……て、んなわけあるわけないでしょ! なんですか、美咲先輩は俺に犯罪者になれって言ってるんですか!」

『まだ、竜也がビリになるとは決まってないよ?』

『……決まってますよ』


 そして今にいたるとゆうわけだ……

 文学少女……か。適当に本を読んでる女子を連れてこいってことだよな……

 いっそのこと、誰かを女装させて……ダメだ、俺の命が危うい……

 絶望の淵に立たされていた俺だが、図書室の隅っこで見覚えのある顔を見つけた。

 ……水城か?

 近づいてみるとはっきりわかった。あの美しい黒髪を持つ人物は一人しか心あたりがない。


「やあ、水城さん。今日は読書?」


 俺は水城の隣の席に座り、小声で囁く。

 相変わらず水城は、本を読むだけだった。


「ああ、そうだ。水城さんのことは、普通に水城って呼んでいいか?」

「構わないわ。それよりも、あなたが近くにいると読書の邪魔になる。どこか他の所へ行ってくれる」


 水城は本を読みながら、表情一つ変えずにつぶやいた。


「水城が……水城がしゃべってくれた!」


 滅多にしゃべらない水城が、口を開いたことに俺は驚きつい、席を立ち大声で叫んでしまった。もちろん周りは、何事!? とゆう視線をこちらに向けている。

 俺は周りに頭をペコペコし、席に座った。


「水城、お前もうちょっと愛想よくしたら、モテるぜ! 絶対」

「別にモテたいとは思わないので」

「そうだ、もしよかったら翠静荘に――」

「入りません」


 くっ、気まずい。でも前よりは進歩してるんじゃないか? 前は口も聞いてくれなかったわけだし。


「そうだ! 今部室でトランプしてるんだが、水城も来るか?」


 水城は何も答えず、ただ本を読んでいた。

 否定しないってことは、来てくれるってことだよな……


「よし! じゃあ行くぞ!」


 俺は強引に水城の腕をつかみ、部室へと連れて行った。




「まっ、まさか本当に竜君が女を連れてくるなんて……」


 部室に入ると椿が口に手をあて、驚く素振りを見せた。美咲先輩は、まさか本当に連れてくるとは、と言わんばかりに笑いをこらえていた。


「竜也よくやった! 君のあだ名は性犯罪者に決定だよ!」

「俺はまだ何もしてませんよ!」

「まだ……ね~」


 椿の冷たい視線が俺に突き刺さる。

 言葉の綾だよ……言葉の……


「で? そちらの美少女ちゃんの名前は、なんとゆうのだい?」


 水城は美咲先輩の問いに答えず、ただ手元の本を読んでいた。水城は俺に連れて行かれている時も、ずっと本を読んでいた。


「もしかして、水城さんじゃない?」


 横から飛んできた椿の言葉に、水城はゆっくりとうなずいた。

 水城も人の話はしっかりと聞いているみたいだ。


「よ~し、水城ちゃん。今日は何する? 野球拳? それとも脱衣麻雀?」


 そう言い美咲先輩は、道具一式を掲げた。


「先輩、そうゆうハレンチなのは抜きでいきましょう」

「え~でも、椿ちゃんは、竜也の下のほうが見たいって言ってたよ」

「なっ、なに!? 椿、本当か!?」

「そ、そんなわけないでしょ! 誰があんたなんかのし、下の……」


 ほっぺを赤らませながらしゃべる椿は、実に可愛い。常にこの状態が続けば、ミス金聖も夢じゃない! 

「先輩、やっぱりそうゆうのは抜きでいきましょう。あくまで、全年齢対象ゲームでいきましょうよ」

「え~でも、水城ちゃんもイケナイ遊びがしたいって」

「帰ります」

「…………えっ!?」

 

 水城はパタンッと本を閉じ、部室から出ようとした。


「ちょっと待てよ、水城! 少しくらい、遊んでいけよ」

「もう、自分の欲望のために、他人を傷つける人間には飽きています」


 その言葉を残し、水城は部室から出て行った。


 俺はこの時見た水城の背中が、どことなく悲しげに見えた。

 さっきの水城の言葉は、どこか俺の心に重くのしかかった。


「竜君……」


 椿の俺の近くでつぶやく。


「わかってるよ、椿……」


 俺はポケットから携帯を取り出し、あるところへ電話をかけた。


『はい、もしもし』

『おい、雄大! 今から教室に来い!』


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ