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一割の思いやり

「眠い……」


 四限の授業が終わり、俺は眠る事を欲している体を強引に起こした。

 昨日はあれから、2時間口論を続けてしまった。そして部屋に戻り、宿題を終わらせたのが、深夜の二時だ。


「おい、おい、どうしたよ。今日はいつもより眠そうに見えるぜ。ハハ~ン、さては昨日、赤城さんが寝かせてくれなかったんだろ~」


 雄大が俺の席に来て話しかけてくる。

 ……ダメだ。突っ込む気が全くおきん。


「ねえ、竜君。約束、ちゃんと覚えてる?」


 笑顔を輝かせながら、椿が俺の席に近づいてくる。


「ああ……ちゃんと覚えてるよ」

 

 椿が言っているのは、昨日の口論でつい結んでしまった約束のことだ。

 椿との口論の結果、俺は昨日の椿のアイデア(?)を全校放送する羽目になってしまった。

 しかもしなくてもよい約束まで結んでしまった。

 それは一ヶ月以内に入寮者が1名でもくれば椿の勝ち。誰も入らなければ俺の勝ち、とゆう約束だ。

 ちなみに勝った人は負けた人に、なんでも一つ言うことを聞いてもらえるとゆう商品が用意されている。なんでこんな約束結んでしまったのやら……


 ……ハァ~。俺はなんて約束をしてしまったんだ……。第一俺がもし勝っちまったら……グヘヘ。……て、ダメダメダメ。考えるな、考えるな、俺! 

 ま、適当な言い訳つけて、勝負をうやむやにでもすればいいか。

「じゃあ、竜君。ゴートゥー放送室」 

「ちょっと待てよ! いきなり放送室に行ったら迷惑だろ」

「問題ないよ。放送委員の許可はもらってるし」

「で、でもよ。教員の許可が」

「大丈夫。つばミンから、許可はもらってる。校長室と職員室に流さなければ問題はないらしいよ」


 どうやら、逃げ場はないようです。



 放送室に着くと、放送委員と思われる女生徒二人が、俺を出迎えてくれた。

 どうやら話が通っている、とゆうのは本当らしい。


「君だよね? 翠静荘の竜也君って」

「あ、はい! 三山 竜也です。よろしくお願いします!」


 俺はペコリ、と頭を下げる。


「話は椿ちゃんから聞いてるよ~。私は蒼井 美咲。今日はど~んと、ぶちまけちゃってね~」

 

 椿はいったい、美咲先輩に何を吹き込んだのだろうか……

 そして、時計が十二時五分をさした時だった。美咲先輩がシィィーと、俺に向けてサインを送ってくれた。

 美咲先輩ではない女生徒が、マイクの正面にあるイスに座り何かのスイッチに手をかけていた。そして、左手で三本の指を立て、一秒経つごとに一本ずつ指を折っていった。

 そして三秒後、すべての指が折れた。


『はい、今日も楽しい昼の放送の時間がやってまいりました。今週は、二年三組桂木 香織と』

『蒼井 美咲で、お送りしちゃうよ~』

 いつもハイテンションな美咲先輩に対して、桂木先輩はまったく正反対の性格の持ち主のようだ。となりで聞いていると、二人の性格の違いがよくわかる。


『今日はゲストが来ちゃってるよ~。じゃあ、大ゲストの三山君! いっちょ、でかい花火といこうか!』


 桂木先輩が、マイク正面の席を空けてくれた。

 俺は呼吸を整え、第一声を発する。


『みんな! 聞いてくれ。この学校は……魔物によって支配されている!』


「ぷっ、ぷぐ」


 後ろを振り向くと、蒼井先輩が口に手をあて必死に笑いをこらえていた。

 俺だってやりたくてやっているわけではないんですよ……わかってください。

 ちなみにこの放送は校長室と職員室以外、絶賛放送中である。



「どうゆうことかな? 校長。翠静荘は今年で廃寮になることが決定しているのに、うるさいハエがうろついているみたいじゃありませんか」


 全校放送された放課後、校長室にはある客がきていた。

 客人は応接用の高級ソファーに座っており、机の上に足をのっけていた。


「彼らは生徒手帳に記載されている校則を元に、行動している。いくら君といえどこればっかりはどうしようもあるまい」

「私は彼らの意見を重視しろとは言っていませんよ。私は彼らに立ち退きをお願いするように言ったんですよ。なのに変な活動をしているみたいじゃありませんか。ねえ、元翠静荘の校長先生」


 客人はにやついた表情で校長を見ていた。

 しかし校長は表情一つ変えずに返事を返す。


「別に私が翠静荘出身だから、翠静荘をかばっているわけではない。あそこはもともと、自由を尊重するための寮である。経済的に厳しい生徒のために作られた寮として今でも活躍している。取り壊す理由などあるわけがないだろ。私は中立の立場からジャッジを下したつもりなのだがな」

「そうですか。残念ですがこのままだと来年度、この学校にあなたの居場所はありませんよ。今からでも遅くありません、彼らを説得してください」

「…………構わんよ」


 客人は校長の言葉に一瞬驚くような素振りを見せ、疑るような目で校長を見た。

 まるで信じられないものでも見たかのように見ていた。


「……はい?」

「聞こえなかったのか。私は来年度、この学校の校長を辞めることになっても構わないと言ったのだ」

「あなたは! ……あなたはたった一つの寮の存在を守るためだけに、自分の身を捨てるとゆうのか! 自分の身よりも、翠静荘の方が大事だと言うのか!」


 客人は立ち上がり、ものすごい剣幕で校長に向かって怒鳴り散らしていた。

 しかし校長は表情一つ変えない。


「私は教育者の立場からして、正しい方を選択しているだけだ。それ以下でもそれ以上でもない」

「もうこれ以上あなたと話すことなどない。覚えていろよ。来年度この学校には、お前のイスは無いからな!」

 

 最後に捨て台詞なようなものを吐き捨て、客人は出て行った。

 そして一人残った校長は一言つぶやいた。


「一割くらいは情が入ってしまったかもしれんな」


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