突然の告知
キーンコーンカーンコーン。
二限の終わりを告げるチャイムが、金聖高校に響き渡った。
一年三組では、チャイムがなると同時に授業を教えている教員が、前のドアから教室を出た。
そして俺は、教員が出ると同時に後ろのドアから、何事もなかったかのように教室へと入り自分の席に座った。
「おっ! 竜也お前が遅刻なんてめずらしいな」
俺の席の前で、怪しい会話をしていたやつが俺に近づいてくる。
彼は俺の友人の烏山 雄大だ。雄大はとても女子の情報力が強く、この学校の女生徒のちょっとキュアな情報から、スリーサイズまでを記録したマル秘ノートを所持しているとゆう噂がある。
「そうだよ、寝坊したんだよ」
「へえ~。椿さんは、犯してくれなかったのか?」
そう言って雄大は、右側一番前の席にすわっている女生徒へと視線を送った。
彼女は俺と同じ寮に住んでいる、赤城 椿だ。
現在は多くの女子生徒に囲まれ、楽しそうに女子トークをしている。
「ああ……ったく、気づいたらもういねえんだもんな~。……おい雄大。お前今最後にしれっと、変な単語を出さなかったか?」
「言ってねえよ! 俺はただ、椿さんに犯してもらわなかったのか、て言ったんだよ」
「な~んだ、そうかそうか……ってなんだよ犯すって! お前は恐らく起こすと言いたいのだろうが、「こ」と「か」で随分な違いだぞ! 「か」にするだけで、犯罪臭がプンプンだぞ、こらっ!」
つい俺は席を立ち、大声で叫んでしまっていた。当然クラスの視線は現在、俺が独占している。雄大はクスリッ、と笑っていた。
そして椿もこちらに一瞬だけ視線を向け、俺と一瞬だけ目があった。
「やっと終わった~」
俺は今日最後の授業の物理が終わると、席で背伸びをしていた。いつも元気な雄大も物理の授業の後は、机にぐったりしていた。これは物理の教員が厳しく、授業中は神経を研ぎ澄ませて授業に取り組まねばならないからである。
「は~い、みんな席ついて~。ホームルーム始めるわよ」
は~い、みんな席について~と、言っているが、みんな物理の授業のあとで机にぐったりしている。
彼女は一年三組の担任の黒峰 翼だ。みんなからはつばミンと呼ばれ、生徒からたくさんの信頼を得ている。つばミンの授業がわかりやすいとゆうのは、金聖の中では有名な話だし、生徒とも親身になってくれる。だが、つばミンはめんどくさがり屋で、ホームルームなどはまともにやった試しがない。
「今日は連絡なし! はい終わり~。帰ってよし!」
ついでにこれはいつものことで、重要な連絡がない場合はいつもこうだ。
『一年三組、三山 竜也君。赤城 椿さん。至急校長室まで来てください』
放送が教室中に鳴り響く。
「なんだ~、三山呼ばれてるぞ! ついに下着ドロでもやったか?」
つばミンが、なんだかときめいたような顔をして話しかけてくる。
「やってませんよ!」
クラス中のみんなが笑っていた。恐らく尾ひれがついて、変な噂として広がるのは安易に予想がつく。
俺は椿が教室にいないことに気づき、教室を飛び出した。そして俺は、廊下にいるたくさんの生徒の中から、椿を見つけた。
「おい待てよ! 椿」
俺は椿の近くに行き、肩を叩いた。
「下着ドロボーさんが、何か用?」
俺が肩を叩くと、椿は俺の方に振り向いた。
「いやいや、俺下着ドロじゃないからね! 全てつばミンの嘘だからね!」
「もしかして、同じ同居人の私の下着を狙ってるの!?」
「妄想膨らみすぎだろぉぉぉぉー」
くすくすっと椿が笑った。今日見る、椿の初めての笑顔だ。
「それにしても、竜君なにか心当たりはある?」
「う~ん、しいて言えば夜中うるさいとか……かな」
「やっぱり下着ドロね……」
「だから、ちげえぇぇよぉぉぉー」
一年三組の教室は北校舎三階に存在する。対して校長室は南校舎三階にある。南と北を繋ぐ連絡橋のようなものがあれば楽なのだが、そんなハイテクなものはこの学校にはない。よって校長室に行くには、一度一階まで下りて、そしてもう一度南校舎で三階までのぼらなくてはならない。
俺たちは七~八分くらいの時間をかけ、校長室に到着した。そしてコンコン、とノックをして、校長室へと入っていった。
校長室の真ん中には、応接用のソファー机をはさんで二つあり、その片方に校長は腰をかけていた。
そして校長は、ここへきた俺たちを見てつぶやいた。
「君たちも座りたまえ」
そう言い、校長は対になっているソファーを指差した。
「いえ、お構いなく。それよりもご用件は何ですか」
「では、はっきりと言おう。翠静荘は今年度をもって廃寮となることが決定した」
……!? 俺は一瞬目の前のじじい、もとい校長が何を言っているのかわからなかった。だがすぐに、俺の頭の回転が追いつく。
「ちょ、ちょっと待ってください! いきなり廃寮ってどうゆうことですか」
「いきなりではないのだ。度々職員会議では話題になっていた。二人しかいない翠静荘は我が校にとって不要なのではないかとね」
「そ、そんな……、翠静荘が……」
椿は顔を覆い、うずくまった。
俺はそんな椿を見て、拳を握った。
「なんとか……なんとかならないんですか!」
「もうなんともならん。これは決定事項だ」
そして校長はうつむきながら続けた。
「私とて、廃寮とすることには反対だ。寮生がいるかぎり、翠静荘は存続すべきだと思っている」
「じゃ、じゃあ」
俺の言葉を遮るようにして、校長の言葉が飛んでくる。
「ダメなんだ! もう決まってしまった事なんだ。もう翠静荘には寮生はとらず、君たちには早急に翠静荘から、通常の金聖荘に移ってもらう。君たちが出て行ったのを確認した後、随時取り壊しを行う。言っておくが、署名活動等は一切無駄だ。どんなに多くの署名が集まろうと、二人しか寮生がいない翠静荘を学校側は存続を許可しない」
翠静荘が……取り壊し。……そんなのダメだ! あそこには俺たちの……いや、みんなの思い出がたくさんある。近所の人たちとの思い出、先輩たちとの思い出。それが全部なくなっちまう……。そんなの絶対にダメだ!
なにか、なにかあるはずだ。この絶望的な状況を打開する策が……
待てよ。寮生……
「生徒手帳10ページ、校則第四条四項。学校に属する寮は、学校規定の人数を超える場合、これを独立させる。学校側の意思で動かされることは一切ない。と記入されています。これは規定の人数が集まれば、廃寮は免れるってことじゃありませんか?」
校長は困ったかのように顔を潜めた。
「翠静荘には、たくさんの思い出があり、歴史があります。たくさんの先輩方が、翠静荘から世界へと羽ばたきました。翠静荘を取り壊すとゆうことは、そんな方々の思い出を壊すことにもなるんですよ。でもそんな事をしていい理由なんて……この世界には存在しない!」
「……竜君」
椿は覆っている手を離し、下から俺を見上げた。
「……五人だ」
「……えっ?」
「今年の全校生徒の比率からして、規定の人数は7人だ。だからあと、5人集めることができればなんとかなるかもしれん」
「本当ですか!」
「ただし、秋の理事会までに規定の人数が集まらなくては意味がない。このリミットだけは絶対に忘れるなよ」
やった、まだ翠静荘の未来は閉ざされちゃいない。
奇跡的にも、一筋の光が見えてきた。
五人だけならなんとかなるかも。
「もう一つ、重大な条件がある」
校長は重々しい雰囲気で、最後の条件を語っていった。