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彩彩年年  作者: K+
12/12

跋――白い絶景

 森は、秋へ向かっていた。

 静かに落葉樹が葉を落としていく。

 屋根裏部屋の小窓から、琉志央(るしおう)は色つきの雪が降るような眺めを楽しんでいた。

 こんにちは、と階下から澄んだ声が聞こえた。

 時計に目を走らせてから、琉志央は殆ど開いていただけの医術書を閉じた。素早く立ち上がる。

 階段を飛行術で一気降りすれば、玄関を入ってすぐの広間に琴巳(ことみ)が居た。軽く膨らんだ腹に手を添えている。師の話だと、もうすぐ臨月らしい。大変だろうからと誘って、このところ、毎日昼食を一緒にとっている。

「早いじゃないか」

「えへへ、お腹空いたのー」

 えくぼが浮かんだ顔に意識を切り替えて目を凝らすが、何も見えない。

 内心で舌打ちしつつ、琉志央は椅子を引いてやる。

 厨房から、師が毎度気持ち悪いくらいにニコニコしている顔を覗かせた。

「本日も母子共に健康ですね」

 一瞬で判断してしまう。

「ありがとうございまーす」

 琴巳は琉志央と蒼杜(そうと)に交互に可愛らしい顔を向け、椅子に腰かけた。琉志央は円卓を囲む斜め隣の席に落ち着く。

 もう一度、妊婦に目を凝らす。

「琉志央、怖いよ」

 唇をすぼめて訴えられて、琉志央は口を曲げた。

命帯(めいたい)が見たいんだよ」

『貴男はあまり闇魔術に染まってないので、診察は無理でも見ることはできるようになるかもしれません』

 師はそう言った。だから修練する。

「蒼杜さんはそんな風に凝視してこないよ?」

「俺には俺のやり方がある。あんな風にへらへらして見れるか、冗談じゃない」

〈やれやれ、これだから青二才なのじゃ〉

「うるさいぞ、氷」

「変な意地張ってないで、先ずは上手な人の真似をすればいいのにね」

「やかましい、黙って座ってろ」

 琉志央はむくれて初恋の女を必死に注視する。

 琴巳の命帯の色は、微かに桜色を溶け込ませたような白なのだそうだ。

 見たい。どうしても見たい。未練と言われようとも、とにかく見たい。

 蒼杜が盆を手に厨房から出てきた。

「少し早いですが、できたので昼餉にしましょう」

 温かな炊き飯や蒸し野菜、吸物が、手分けして円卓に並べられた。

 和やかな食卓。

 これが例え一部でも白い光に包まれているとしたら、想像しただけでも夢のような光景じゃないか。

 いつか、見てやる。

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