『ハルマゲドンに全王招集したカエル悪魔、神が「泥棒スタイル」で秒殺しに来て完全に詰む ~裸の王さまと干からびる僕ら~』
赤黒い空の裂け目から、三つの汚れた息が這い出した。
竜の口から。野獣の口から。偽預言者の口から。
それらはカエルのように見えた。ぬらぬらと濡れた姿で跳ね、胸の悪くなるような霊気をまき散らす。
「ケケケッ! 聞け、地の王どもよ!」
三つの息は、世界中の王たちに向かって呼びかけた。口元では、欺瞞に満ちた奇跡の火花が弾けている。
「全能の神を討ち滅ぼし、お前たちの永遠の覇権を築くのだ!」
それは甘く、威勢のいい嘘だった。
王たちは、次々とその言葉に耳を傾けた。奇跡を見せられ、力を約束され、神に逆らうことこそ勝利への道だと信じ込まされていく。
やがて彼らは、全能の神の大いなる日の戦争に備え、ハルマゲドンへと集まり始めた。
「見ろ、集まってきたぞ!」
「戦車も軍旗も、あんなに並んでいる!」
「これだけの王が力を合わせれば、神にだって勝てる!」
三つの息は、カエルの姿をしたまま、得意げに跳ね回った。
荒野は軍勢で埋め尽くされていく。王たちは兵を整え、武器を並べ、勝利を疑いもしない。自分たちがどんな嘘に導かれているのか、考えようともしなかった。
そのとき、声が響いた。
「私は泥棒のように来ます」
王たちには、それが誰の言葉なのか分からなかった。だが、その言葉を聞いてもなお、目を覚まそうとする者はいなかった。
やがて、ハルマゲドンに集められた王たちの上に、沈黙が落ちた。
空を覆っていた雲が割れ、天の裂け目から圧倒的な輝きが差し込む。目を奪うほどの光ではない。嘘も、権力も、軍勢の数も、すべてをあらわにする「義」の輝きだった。
王たちは、武器を持つ手を止めた。
自分たちが頼みにしていた力は、神の前では何の支えにもならない。三つの息が見せた奇跡も、約束した勝利も、ただの欺きだった。
彼らはようやく気づいた。
神に逆らうために集められたのではない。自分たちが欺かれ、愚かな企てに加担していたのだ。
豪華な軍服も、王冠も、胸を張るための権威も、何ひとつ彼らを守らない。目覚めず、外衣を守らなかった者たちは、いまや自分たちの恥を覆うものさえ持たないように感じた。
「撃て! 早く天に向かって撃つんだ!」
三つの息が叫ぶ。
しかし、王たちの手は動かなかった。兵たちも、指揮官たちも、もはや誰の命令に従えばいいのか分からない。さっきまで勝利を信じていた軍勢は、ひとつの矢も放てぬまま、立ち尽くしていた。
「話が違うぞ! お前たちは、神に勝てると言ったじゃないか!」
王たちの声に、三つの息は答えない。いや、答えられなかった。
天から注ぐ光が、彼らの姿を照らしている。世界中の王を動かした奇跡も、巧みな嘘も、いまでは一片の力もなかった。
「待て! 俺たちは、言われた通りにしただけだ!」
「そうだ! 竜や野獣が――」
言い訳が終わる前に、三つの息はかき消された。
王たちを集めたのは、彼ら自身の野心だった。神に逆らう決断をしたのも、彼ら自身だった。嘘に導かれたとしても、責任まで消えるわけではない。
荒野に残ったのは、武器を手放した王たちと、欺きの消えた空だけだった。
何千年もかけて仕組んだはずの陰謀は、主が来ると告げた一言の前に、あっけなく崩れ去った。
最後に、赤黒い空の裂け目から、かすかな音が聞こえた。
「……ゲコッ」




