家出雷獣の顛末
「もういい! 雷神様の馬鹿野郎!!」
雷獣の雷太(らいた)はそう言って雷と共に地上へと家出した。
雷獣。それは雷神の使いであり、雷と共に地上へ落ちてくる妖怪。見た目はイタチのようであるが、尻尾が大きく膨らんでいるのが特徴だ。
そんな雷獣の雷太は日々、雷神の指示であちこちに雷を落としている。しかし、雷太はずっと腑に落ちないことがある。
「今日はあの大木に雷を落としなさい」
「……」
「雷太」
雷神は雷太をいさめるように名を呼ぶ。雷太は不承不承といった感じで口を開く。
「あの木はずっとあそこで生きてきた……。人間達だってあの木を支えに暮らしてる……。雷なんて落としたらあの木は死んじまう……」
「それが私達の役目なのだ」
雷神はあくまで冷静に告げる。
「役目ってなんだよ!」
「それは自身で考えること」
淡々と述べる雷神に雷太は頭に血が上った。
「もういい! 雷神様の馬鹿野郎!!」
雷太はそう言うと雷と共に地上へと家出した。
「いててて……しくったなぁ……」
雷太は森の中でうずくまっていた。地上へと降りる時に木の枝で怪我をしてしまったのだ。せっかく家出したのに、これではどこにも行けない。
「どうしたもんか……」
雷太が途方にくれていると、小さな足音が聞こえてきた。足音はこちらに近づき、女の子が現れた。
「あ、イタチだ」
女の子が雷太を見てそう言った。女の子は雷太に近づく。
「お前は逃げないねぇ。ああ、怪我してるんだ。治してあげたいけど、お父さんに野性動物に無闇に関わっちゃいけませんって言われてるしなぁ」
女の子はしゃがみこんで雷太を見る。雷太はこの機会を逃してはいけないと思い、女の子に話しかけた。
「なあ、お前」
「……イタチが喋った?」
「ふーん、それで家出したんだ」
雷太は女の子……稲(いね)の家に連れていかれ、手当てをしてもらった。どうやら寺の娘のようだ。
「見世物小屋に連れてくなよ」
「見世物小屋は古いよ。今は研究施設が妥当」
稲は縁側で足をぷらぷらさせている。
「雷神様とは仲直りしないの?」
稲が聞くと雷太はふい、と顔を反らした。
「だってひでーことばっかするし、言ってる意味わかんねーし……」
そんな雷太に稲は言った。
「あのね、私のお父さん、お坊さんなんだ」
「? まあそうだろうな」
雷太は稲が何を言わんとしているかわからなかった。
「私もよくお父さんに怒られる。その時は言ってる意味がわからないんだけど、後で気づくんだ。ああ、お父さんはこれを伝えたかったんだなって」
「……」
雷太は雷神の言葉を思い出す。
「だからね、雷太もいつかきっとわかる日が来るよ。雷神様の言いたいこと」
「そう……か……」
雷太は稲の言ったことを飲み込む。……今なら雷神のことを許せる気がした。
それから、雷太は怪我が治るまで稲の家にいた。稲と一緒にいるのは楽しくて別れの時は名残惜しかったけど、稲が
「またね」
と手を振るので雷太も
「ああ、またな」
といつかまた会える日を信じて天界へと帰った。
雷神は、何も言わずに雷太を迎えた。
そうしてしばらく経ったある日、雷神は雷太に指示を出す。
「あの子に雷を落としなさい」
雷神が指した先を見た雷太は目を丸くした。そこには稲がいたから。雷太は雷神に懇願した。
「それだけはやめてくれ!!」
しかし雷神は頑として何も言わない。雷太がどんなに頼んでも。
雷太はふと稲が言ったことが頭に浮かんだ。
『いつかきっとわかる日が来るよ』
雷太は目をつむった。その瞳からは涙が零れる。
「(稲……!)」
雷太は……稲に向かって雷を落とした。
それからの雷太は日々をぼーっと過ごしていた。雷神の指示に従って雷を落としながら、それ以外は何も考えず空っぽだった。
そんな時、雷神が雷太に向かって言った。
「今日から新入りがやって来るぞ。先の者としていろいろ教えてやりなさい」
「新入り?」
てとてとと、雷太より少し小さな雷獣が駆け寄ってきた。
その雷獣は雷太を見ると一目散に飛びついて頬を擦る。
「わ、わ、なんだよ……!」
「雷太、私だよ、私! 稲!」
稲。確かに雷獣はそう言った。
「稲……?」
「うん! 私、雷獣に生まれ変わったの! 雷太と一緒に雷神様のお手伝いしなさいって!」
雷太の顔に涙が伝う。
「稲……! 稲……!」
雷太は稲に必死に頬を擦りつけた。
「稲は……俺のこと恨んでないのか……? だって俺が稲を殺したんだ……。大好きなやつらと、これからの人生を奪ったんだ……」
そんな雷太に稲は優しく言う。
「私は、雷太のことが好きだから、恨んでなんかないよ」
「でも……」
「これもきっと何かの導きなの。いつかきっと……」
雷太はその先の言葉を知っていた。
「「わかる日が来る」」
二匹は笑い合った。そんな二匹を雷神は温かい眼差しで見ていた。
家出をした雷獣は、大切なものを手に入れた。大切な考えと、大切なパートナー。
今日も二匹は元気に雷神の使いをする。




