1 出会い
雨は、音もなく降っていた。
街灯の光が濡れた路面に滲んで、夜はどこか現実感を失っている。コンビニのドアの前に立ちながら、彼女はまだ温かい缶コーヒーを手の中で転がしていた。
別に、寒いわけじゃない。
ただ、何かを握っていないと、自分がここにいることを見失いそうだった。
――余命、一年。
その言葉は、思ったよりも静かに彼女の中に沈んでいる。悲鳴を上げるわけでもなく、涙が出るわけでもなく、ただ、ほんとに終わりがあるんだと感じた。
スマートフォンの画面には、送られていないメッセージがひとつ。
「今日、会える?」
短い一文。けれど、それを送る意味はもう、どこにもない気がしていた。
指を止めたまま、彼女はそっと画面を消す。
そのとき、コンビニのドアが乱暴に開いた。
反射的に顔を上げる。
入ってきたのは、一人の男だった。
足取りは不安定で、アルコールの匂いがかすかに混じっている。荒れた呼吸からは何かから逃げてきたような、そんなふうに見えた。
彼は前を見ていなかった。
そのまま、彼女にぶつかりかける。
「……すみません」
短く言って、立ち止まらない。
そのまま通り過ぎようとした背中に、彼女はなぜか手を伸ばしていた。
理由は、自分でもわからなかった。
ただ――
この人は、どこか“終わりに近い”。
そう思った。
「ねえ」
声をかけると、彼は苛立ったように振り返る。
「……何?」
その目は冷たくて、他人を拒む色をしている。
普通なら、ここで引く。
けれど彼女は、ほんの一瞬だけ彼を見つめてから、静かに言った。
「少しだけ、一緒にいてくれない?」
自分でも、おかしなことを言っていると思った。
男は眉をひそめる。
「……は? 誰だよ。オメェ」
「さぁ」
「意味わかんねぇ」
「うん、知ってる」
彼女は小さく頷く。
「俺ら、今初めて会ったよなぁ?」
「だから、いいかなって」
意味のわからない答えだった。
雨音だけが、二人の間に落ちる。
彼はしばらく何も言わなかった。ただ、目の前の少女を値踏みするように見ている。
逃げるべきか、それとも無視するべきか。
そんなことを考えている顔だった。
それでも、足は動かなかった。
「……少しだけ、だからな」
諦めたようにそう言う。
彼女は、ほんの少しだけ笑った。
「うん。それでいい」
その“一瞬”が、どれくらいの長さになるのか。
このときの二人は、まだ知らない。
それが、たった一年で終わる物語だということも。
初めて書いた作品です 誤字脱字があったら申し訳ございません。 続きは近いうちに載せます。




