怪異:おかえり
19時57分
「あと3分! 全員、保存!」
課長の叫び声と共に、キーボードを叩く音が激しさを増す
このオフィスは、戦場だ。ただし、敵はクライアントではない
19時58分
空気がじっとりと重くなり、どこからともなく生臭い水の匂いが漂い始める
19時59分
「グググ……」という低い唸り声が、サーバー室の奥から響く
「来るぞ! 離れろ!」
20時00分
プツン
一斉に、全てのPCモニターが、まるで水底に引き込まれるように暗転した
「……ふぅ、間に合った」
社員たちは安堵の息を吐き、足早に荷物をまとめる
社員が去り、静寂と闇に包まれたオフィス。
誰もいなくなったフロアに、ペタン、ペタンと、濡れた足音だけが響き渡る
この会社には「おかえり」がいる。
彼は労働者の味方ではない。ただ、夜のオフィスを自分の湿った沼地として独占したいだけの、縄張り意識の強い怪異だ。
【怪異診療所よりお知らせ】
当診療所では、お疲れの皆様からのご相談をお待ちしております。
「どうしてもやめられない癖がある」
「苦手な人がいて困っている」
「最近、不運続きだ」
そんな症状をお持ちの方は、コメント欄にてお知らせください。
あなたの悩みを綺麗さっぱり食べてくれる、「とっておきの怪異」を処方(執筆)いたします。
(※ただし、副作用として予想外の事態が起こる場合がありますが、当院は一切責任を負いません)




