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メキシコの恐怖伝説とその他の物語  作者: Rocket_Ghost


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ナイカの魔女

夜の砂漠は、名を呼ぶ。


ナイカでは、地下で声を聞いても振り返ってはならない。

それが誰の声であってもだ。


この地には、忘れられた女がいる。

殺されたのではない。

――置き去りにされたのだ。


彼女は追わない。

ただ待ち、呼び、思い出させる。


これは、

砂漠が記憶している恐怖の話である。

メキシコ北部――

砂漠が空の延長のように広がり、大地が塩と水晶の傷口を晒すその地に、地図でさえ慎重に示す場所がある。

ナイカ。


それは鉱山のためでも、富のためでもない。

山脈の奥深くに眠る水晶洞窟の存在ですらない。

もっと古く、もっと深いもの――

掘り起こされたのではなく、目覚めてしまった何かのためだ。


老人たちは言う。

砂漠は空っぽではない、と。

――見ているのだ、と。


ナイカは、沈黙の長い村だった。

昼は耐え難い重さで太陽が照りつけ、夜になると、風がどこからともなく嘆きを運んでくる。それは、この土地のものではない声だった。


鉱夫たちはすぐに学んだ。

一人で坑道に入らないこと。

地下で口笛を吹かないこと。

そして、日が沈んだ後にある名前を口にしないこと。


その名は、囁くように語られた。

ほとんど恥じるように。


――魔女。


彼女には固有の名がなかった。

あるいは、かつてはあったが、人としての顔と共に消されたのかもしれない。


治療師だったという者もいれば、裏切られた女だったという者もいる。

最初から人間ではなかった、と断言する者もいた。


ただ一つ、誰もが一致していたことがある。


彼女の声だ。


呼ぶ声。


「……来て」

夜風に紛れて、そう囁く。

「……一緒に来て」


第一章 呼び声


ルイス・トレビーニョがナイカに来たのは、鉱山の仕事を求めてであって、怪談を集めるためではなかった。

若く、体力があり、そして自分でも気づかないほど懐疑的だった。


酒場では噂を聞いた。

血を抜かれた家畜。

砂漠に浮かぶ光。

見えない歌声に導かれ、そのまま消えた子供たち。


ルイスは笑った。

伝説では腹は満たせない。


最初の一週間は、何事もなかった。

だが、二週目に入ってから――声を聞いた。


最初は坑道を抜ける風の音だと思った。

次は、誰かの悪ふざけだと考えた。


しかし、声は消えない。

柔らかく、女の声で、やけに近い。


「……ルイス……」


なぜ、はっきりと自分の名を呼べるのか。

それを知る者はいなかった。


ある夜、長い作業の後、彼はその声を追った。

村を出て、最後の灯りを越え、開けた砂漠へ。


月は白く、病的な光で道を照らしていた。

一歩進むごとに、人の安全から遠ざかり、本能が拒絶する何かに近づいていく。


そして――彼女を見た。


第二章 砂漠の女


白い服を着た女の後ろ姿。

黒髪は腰まで伸び、風が吹いても揺れない。


彼女は歩いていなかった。

砂に触れるか触れないかの高さで、浮かんでいた。


「……誰だ?」

喉を乾かしながら、ルイスは問いかけた。


女は、ゆっくりと振り返る。


美しかった。

――不自然なほどに。


濡れた黒曜石のように輝く大きな瞳。

血の気のない肌。

喜びを含まない赤い唇の微笑み。


「私も、独りだった者」

彼女は言った。

「この大地の下に、忘れ去られた者」


背筋を凍らせる寒気。

だが、逃げられない。

足が、動かない。


女が近づくたびに、姿が歪み始める。


首が、異様に伸びる。

腕が、長すぎるほどに垂れる。

影が、身体と一致しない。


「彼らは、私をここに置き去りにした」

囁きが耳を打つ。

「だから今度は、私が呼ぶの」


ルイスは叫んだ。


第三章 真の姿


ナイカの魔女を生き延びた者たちは、決して同じ姿を語らない。

それは、二度と同じ形では現れないからだ。


鳥の脚を持つと言う者。

コウモリの翼を見たと言う者。

後頭部から口が裂ける逆さの顔を語る者。


首が胴体から外れ、笑いながら空を舞ったという話もある。


だが、ルイスが見たものは――さらに酷かった。


腰から上は人の女。

下半身は、焼け焦げた根のように乾き、捻じれた異形。


皮膚の亀裂から、水晶のような光が漏れていた。

まるで鉱山そのものが、彼女の内側で生きているかのように。


「……お腹が空いた」


魔女は、そう言った。


ルイスは走った。

どうやって逃げたのか、覚えていない。


夜明け、村から数キロ離れた場所で彼は発見された。

胸には深い痕。

何かが、心臓を引き抜こうとしたかのような傷。


彼は二度と、鉱山に戻らなかった。


第四章 契約


村の長老たちは、真実を知っていた。


ナイカの魔女は、彷徨う存在ではない。

大地に縛られている。

鉱脈に。

熱と圧力が現実を歪める、深い洞窟に。


遥か昔、鉱夫たちは契約を交わした。

富と引き換えに、血を。


最初は獣。

次に旅人。

そして最後に――一人の女。


彼女は、死ななかった。


何かが、彼女を持ち去った。


それ以来、一定の時を経て、魔女は目覚める。

怒りではない。

均衡のため。

飢えのため。

記憶のために。


鉱山が、深く掘られすぎた時。

人が、必要以上に奪った時。

そして――忘れた時。


第五章 警告


今も、ナイカは存在している。

鉱山は稼働し、観光客は水晶洞窟の異界の美しさに魅了される。


だが、地元の労働者たちは、一つの掟を守っている。


地下で、自分の名を呼ぶ声に答えるな。

砂漠で、白い服の女について行くな。

そして、もし夜に――

孤独を約束する囁きを聞いたなら。


決して、振り返るな。


ナイカの魔女は、追わない。

――待つだけだ。


そして、

自分を捨てた者たちを、決して忘れない。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


本作を通して、メキシコに伝わる怪異や土地に根付いた恐怖を、少しでも感じていただけたなら幸いです。


もし、

冒険のある世界観や、

物語性を重視した重厚な設定、

そして成長や葛藤を描く物語がお好きでしたら、

ぜひ私のライトノベル 『Netherworld』 にも目を通していただけると、とても励みになります。


この作品とは異なる世界ですが、

物語を大切にする姿勢は、変わりません。


改めて、

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

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