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メキシコの恐怖伝説とその他の物語  作者: Rocket_Ghost


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11/14

**二つの火山の伝説 ――イスタクシワトルとポポカテペトル――**

遥か昔、

まだ山々が人の言葉を理解し、

大地が人の感情に応えて形を変えていた時代。


メキシコ盆地には、幾つもの都市国家が栄え、

戦と祈りが日常と隣り合わせに存在していた。


その地に、

イスタクシワトルという名の王女がいた。

彼女はトラスカラの強大な皇帝の娘であり、

白く澄んだ肌と穏やかな眼差し、

そして何よりも静かな気品を持つことで知られていた。


彼女の美しさは谷を越え、山を越え、

多くの貴族や戦士たちが彼女の手を求めて宮殿を訪れた。

だが、イスタクシワトルの心は、

すでに一人の男に捧げられていた。


その名は――

ポポカテペトル。


彼は若くして名を馳せた戦士で、

剣よりも誓いを重んじ、

勝利よりも忠誠を尊ぶ男だった。

数多の戦場を生き抜いたその背中には、

恐れではなく、覚悟だけが宿っていた。


二人は密かに、

しかし確かに愛し合っていた。


やがて皇帝はその想いを知り、

ポポカテペトルの忠誠と勇気を認め、

二人の婚約を許した。


谷は祝福に満ち、

未来は穏やかに続くはずだった。


――その時までは。


アステカとの戦が始まったのだ。


国を守るため、

ポポカテペトルは戦場へ向かわねばならなかった。

別れの日、

イスタクシワトルは彼の胸に顔を埋め、

震える声で言った。


「必ず、戻ってきて。

 私は、ここで待っています。」


ポポカテペトルは彼女の額に口づけ、

静かに誓った。


「勝利と共に帰る。

 それまで、この命は君のものだ。」


戦は長く、苛烈を極めた。

月が幾度も満ち欠けする中、

ポポカテペトルは傷を負いながらも戦い続け、

ついに敵を退け、勝利を手にした。


だが――

敗北を悟った敵は、

最後の悪意を残していった。


彼らは虚偽の噂を宮殿へ流したのだ。

「ポポカテペトルは戦死した」と。


その言葉は、

刃よりも深く、

毒よりも速く、

イスタクシワトルの心を貫いた。


彼女は涙を流すことすらできなかった。

声も、祈りも、届かなかった。


深い悲しみの中で、

彼女は静かに眠りについた。


――二度と目覚めることのない眠りに。


勝利の凱旋と共に戻ったポポカテペトルは、

宮殿で横たわる彼女の姿を見た瞬間、

世界が崩れ落ちる音を聞いたという。


彼は彼女を抱き上げ、

誰にも言葉を残さず、

最も高い山へと歩き出した。


風が吹き、

空気は薄くなり、

夜は冷たく閉ざされていった。


彼は山頂に彼女を横たえ、

決して離れぬよう寄り添い、

炎のような想いで彼女を守り続けた。


やがて、

二人の身体は雪と氷に覆われ、

時は静かに流れていった。


そして長い年月の後、

その地に二つの巨大な山が現れた。


眠る女性の姿をした山――

イスタクシワトル。


白い雪に包まれ、

今もなお、

静かに眠り続けている。


そして、その傍らにそびえる山――

ポポカテペトル。


その頂から立ち上る煙は、

彼の胸に燃え続ける愛の証だと言われている。


人々は語り継ぐ。


イスタクシワトルの心臓は、

今も氷の下で微かに鼓動していると。


そしてポポカテペトルは、

その鼓動を感じるたびに、

再び煙を吐き、

彼女を目覚めさせようとしているのだと。


今日でも、

メキシコ盆地の地平線には、

二つの火山が寄り添うように佇んでいる。


それは、

死によっても引き裂かれなかった愛。


時によっても風化しない誓い。


人々はその姿を見上げ、

静かに思い出すのだ。


――真実の愛は、永遠であり、決して滅びない。

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