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18.空の写真

 広く青いキャンバスに、綿のような白いもこもこが湧いている。

 夏である。


「旅行日和だなー! サイコー!」


 空野家の四人と一匹は、今、県の西部にある温泉地へ向かってドライブの真っ最中だった。


「明さんにはお土産買ってかないとね」

「だな」


 車内は、運転席に藍、助手席に燈李、後部座席に紫苑と蒼汰が陣取っている。


「オレもはやく免許取ろ」

「私も。お兄ちゃん一人に運転させてごめんね?」

「いいんだよ。運転は嫌いじゃないからね」


 そう言って藍は、メガネの奥で目を細めた。

 黒いSUVは、高速道路を軽快に飛ばしている。

 窓の向こうを一瞬で通り過ぎる景色に合わせて、八雲の視線がキョロキョロと動いていた。

 



 一週間前、アルバイトを終えた燈李に渡された封筒が始まりだった。寄越したのは、アルバイト先の店長・明である。


「商店街の会長から旅館の宿泊券もらったんだけど、ちょうど四名様だし、お前達にやるよ」

「明さん行かねぇの?」

「オレはちょっと忙しくて行けそうにないんだわ」

「ふーん……んじゃ貰っとく」

「おう。たまには家族旅行でもしてこい。ま、県内一泊だけどな」

「兄貴も仕事あるし、そのくらいの方が都合つけやすいかも。サンキュー明さん」


 礼を言い素直に受け取った封筒には、聞いたことのある温泉旅館の名前がプリントされていた。

 家に帰ってから兄弟達に伝えると、片割れと弟は「行きたい」と即答だった。肝心の兄はというと、既に仕事に出かけたあとだったが、弟妹たちが揃って乗り気なことを知れば否とは言うまい。


「八雲は? 一人でお留守番させるのはまだ心配だよ」

「ペットホテルは?」

「それがな、この旅館ペット同伴可なんだと。別料金にはなるけど」

「なら一緒に行こ。キャリーはこの間買ったけど、お出かけなら念の為ハーネスも用意しといた方がいいかな」

「相変わらず八雲のこととなると前のめりだな……」

「八雲ー、旅行だぞー。お気に入りのおもちゃ持っていこうなー」

「んなぅ」


 こうして、空野家のプチ家族旅行が決まったのである。




「すごい、アイス三十種類だって」


 温泉というと冬の方が人出は多いだろうが、旅館がある温泉街は、夏でも賑わっていた。到着後すぐに荷物だけおいて、温泉街を歩いて、真っ先に紫苑が反応したのぼりが、それだった。周囲を歩く観光客も、同じような反応を見せている。

 全種類食べたいと言いかねない紫苑に、さすがに藍がくぎを刺した。


「さすがにお腹壊すよ、紫苑。四種類で我慢してね」

「オレたちも食うことになってるな」

「えー、じゃあオレはコオロギ味に……」

「却下」


 蒼汰の意見は紫苑によって即殺された。自身に関係のないところであれば気にもしないし、本当に蒼汰がそれを食べたいのであれば紫苑だって構わないのだろうけれど。


「みんなが食べられる味にしておこうか」

「はーい」


 藍に言われてにやにやと笑う蒼汰が、本気でコオロギ味を食べたかったわけではないと、全員が気付いていた。


 そんな末っ子の些細なイタズラ(未満)の行為には、姉によってささやかな仕返しがあった。最終的に紫苑が四つの味を選ぶことになったのだが、彼女に選ばれた四種類は、桃、柚子、ほうじ茶と、ワサビ味だった。


「私はワサビ好きだし」

「オレもいけるな」

「紫苑……」

「うー……まずくはないけどさぁ……」


 なんか鼻に抜ける、とぶつぶつ言う蒼汰を、八雲が不思議そうに見上げていた。




「温泉といえば卓球でしょー」


 温泉街をひととおり楽しんだ後、旅館に戻った一行は旅館の娯楽場にいた。二十畳ほどの広さの娯楽場は、まだ夕方ということもあり、人は多くない。そんな中、蒼汰は娯楽場の中央に鎮座する卓球台に目を付けた。

 確かに古くからの定番といえばそうなのだが。紫苑が呆れたように眉を顰める。


「普通は温泉に入った後にするものじゃないの?」

「いいじゃん、順番なんて。晩メシのおかず賭けて勝負しようよ、燈李兄!」

「へぇ? 手加減しねぇぞ?」

「当然! オレだって本気でやるもんね」


 そうして始まった卓球勝負は、通りがかった他の宿泊客のギャラリーまでできて、白熱の試合となった。

 エアコンが効いた屋内だというのに、二人とも汗だくである。


「……すごい接戦。無駄に」

「二人とも負けず嫌いだから」


 藍はのんびり八雲を撫でている。初めこそピンポン玉に飛びかかりそうだったが、長丁場に飽きてしまったらしい。


「私お風呂入ってきていい?」

「うん、ごゆっくり」


 温泉旅館に来て、温泉にも入らずに卓球に興じる弟達をしり目に、紫苑は仕度をするためあてがわれた部屋へと戻っていった。藍がにこにこと楽しそうであるから、まぁいいか、と紫苑は自分を納得させた。




 夜には食べきれないほどの山の幸を堪能し、きょうだいたちに勧められて藍がお風呂へと出て行った頃。


「にゃうぅ。んなー」


 それまで、自宅と変わらずくつろいでいた八雲が、壁をかりかりとかき始めた。壁の向こうを気にして、一心不乱にかいている。


「八雲どした?」

「やたら隣の部屋を気にしてんな。空いてるって聞いてたけど」

「あぁ、隣にいるもんね」

「いるって……ユーレイ?」

「そう。別に嫌な感じはしないけど」

「んにゃあ」

「いつもはそこまで気にしないのに、今日はどうしたの?」


 燈李も蒼汰も、陽の力ゆえに普段から心霊の類を目にすることはない。紫苑が「いつも」という程に身近でもないのだが、かといって特別忌避感というものはなかった。むしろ視える紫苑の方が、避けているくらいである。


 隣にいるという霊と、それを気にしているらしい八雲の様子に、燈李と蒼汰は顔を見合わせた。


「悪いものじゃないなら、ちょっと行ってみる? オレ最近ちょっとだけコントロール出来るようになってきたんだよ。だからたぶん大丈夫。たぶん」

「んー、このまま八雲が落ち着かないのもなぁ」

「……私は行かない。お兄ちゃんに怒られたくない」

「じゃあ、オレらだけでちょっと覗いてくるか」

「おー」

「八雲に危ないことさせないでね。あと二十分くらいで花火が上がるらしいから、お兄ちゃんもその頃には戻って来ると思うし」

「ちょっと覗いてくるだけだって。すぐ戻るよ」

「ん」


 まぁ何も見えないだろう。

 その程度の気持ちで、燈李は八雲を抱き上げた。




「お邪魔しまーす」

「さすがに空き部屋でも綺麗だな」

「別に開かずの部屋って訳じゃないもんね。ユーレイはどの辺にいるんだろ。八雲わかる?」


 蒼汰が燈李の腕の中にいる八雲に問いかけたが、アーモンド形の目を見開いて、八雲はじっと部屋の奥を見つめている。


「お……あれ?」

「へ?」

「マジか。なんでだ、視える」

「ユーレイが?」

「おう。婆さんがいる」

「なんで? 燈李兄視えない人じゃん!?」

「ばか、でかい声出すな! オレだってわかるかよ。……八雲抱いてるから、か?」

「うわー、八雲すごいな」


 八雲の視線の先に、老婆の霊らしきものがいて、なぜかそれが燈李にも視えていた。


 老婆は薄ぼんやりと今にも消えそうな程儚げだった。確かに紫苑が言うように、嫌な感じはしないが、部屋の気温は閉め切られていた割に低い気がする。


 燈李はそうっと近づいてみることにした。蒼汰も少し体をちぢこませて、後ろをついてくる。

 老婆の近くまでくると、抱っこされたままの八雲がちょいちょいと前足を伸ばした。老婆に八雲が触れた瞬間、燈李の聴覚を聞きなれない音が刺激した。


「写真……? を、探してる、のか?」

「そうなの? 燈李兄、声まで聞こえるんだ?」

「んー……ノイズが酷くて、頭痛くなりそうだな……」

「ノイズ……ってどんな?」

「耳元でハウリングしてる感じ」

「あちゃー。そりゃキツイ…………、ん?」


 その時、蒼汰が部屋の奥に何かを見た。さわさわと肌を粟立てる感覚には、覚えがある。


「なんだろ……なんか、やな感じが……」


 蒼汰が目を凝らしてみると、部屋の奥に子供がじっと座っていた。幼稚園児くらいの子供が、体育座りでこちらをうかがっている。こちらを見る目に白目はなく、眼球すべてが闇で塗りつぶしたように真っ黒だった。


「え……あいつ」


 ずるりと、子どもの下から影が伸び、二人の足元に広がる。


「な……んだ、こりゃ」


 足が床に縫い付けられたように動かなかった。燈李に抱かれた八雲が、足元をにらんで唸り声をあげている。


「ヤバい、燈李兄! あいつ」

「影……っ」


 そのまま影は風船のように膨らんで、二人と一匹を飲み込んだ。

 薄ぼんやりとした老婆の霊は、起きたことも消えた二人も何もなかったかのように、ただそこに佇んでいた。




 目の前の闇が晴れても、広がっていたのは暗く何もない空間だった。月も星もない夜空に放り出されたようだ。


「ここは……?」


 上下左右もよくわからない場所であるが、足が地を踏むような感覚はある。隣を見れば、ともに影に飲み込まれた蒼汰も、落ち着きなく周囲を見回している。暗い中でもお互いの姿は見えるようで、それだけでも少し安心できた。


「なんだったんだ……。八雲、大丈夫か?」

「にゃあ」


 見渡す限り何も無く、屋外なのか屋内なのか、それすらもわからない。暑さ寒さは感じず、風もなく、何も匂わず、音もしない。感覚が麻痺しているのかと思う程に、何も感じられない空間だった。しばらく歩いてみたけれど、出口らしきものもない。


「どうやって戻るんだ、これ」

「うーん……スマホも部屋に置いて来ちゃったしなぁ」

「紫苑か兄貴が気付けばいいけど」


 いつかの桜が咲いていた場所からは、どうやって戻ったのだったか、と考え、ふと隣の蒼汰を見る。


「蒼汰、お前の光で救難信号みたいなの出せねぇの?」

「えー、どうだろ。やってみようか」


 蒼汰が目を瞑り、もごもごと呟いたけれど、残念ながら何も起きなかった。


「あれ?」

「ダメか……」


 その時、二人の背後から近づく気配があった。


「どうして、こんな所にいるんだい?」

「!」


 声を掛けられ二人が振り向いた先の、先ほどまでは何もなかった空間に、一人の人物が現れた。


「……親父?」

「父さん!」


 現れたのは父・透だった。

 最後に会ったのは双子の卒業式のころで、それ以来母と二人旅行に出たきりの父である。

 グレーのポロシャツに黒いパンツと、藍程は黒一色ではないものの、ほぼ似たり寄ったりの格好は、燈李と蒼汰の知る父の背格好と一致する。


「父さんこそなんでこんなとこに? 母さんは? 旅行は? つーかここどこ?」

「ここは普段生きてる世界とはちょっと位相のズレたところだから、陽子さんはいないよ。見てのとおり」

「位相のズレたって……?」

「うーん……、夢の中、みたいなもの……かな」

「夢だぁ?」

「それより、二人はどうやってここに来たの?」


 二人は顔を見合わせ、燈李がかいつまんで経緯を説明した。

 透は神妙な面持ちで燈李の話を聞き終えると、溜息とともに「幼い個体でよかった」と呟いた。


「なんか言った、父さん?」

「いや」

「で、ここからどうやったら戻れるのかわからなくて、うろうろしてたら親父がいた」

「なるほどね……、それなら僕が二人を元の場所に送るよ。探し物の写真はきっとすぐ近くにあると思う」

「なんでわかるんだよ」

「……ここは夢の中だからね」

「そうやってはぐらかす……」

「ごめんごめん」


 緩く微笑む様子も肝心なことを言わないのも、兄貴にそっくりだ、と燈李は思う。実際は藍が父・透に似ているのだが、性格も見た目も、藍と話しているようである。そんな感覚が懐かしい気がして、燈李は首を傾げた。


 親父ってこんなだったろうか?

 ふと浮かんだ燈李の疑問を知る由もなく、蒼汰が口を開いた。


「父さん元気?」

「え?」

「久しぶり会ったんだし、もうちょっと話そうよ。母さんも元気?」

「あ、あぁ……元気だよ。二人も元気だったかい?」


 蒼汰の唐突な質問に面食らったようだったが、素早く周囲を見回して蒼汰に向き直る。ほんの一瞬のことだったけれど、まるで何かに追われているかのような、そうでなければ誰かに見られるのを警戒するような仕草だった。


「うん、藍兄に力のコントロールのこと教わったりしたんだ」

「そうか……。藍も、紫苑も元気かな?」

「元気だよ。まぁ、いつもどおり」

「いつもどおり、か。ならよかった」

「猫飼い始めたんだよ。ほら、燈李兄が抱っこしてる。八雲っていうんだ」

「おや、可愛い。まだ子猫なのかな。でも手が随分大きいね。体も大きくなりそうだ」


 透の手が八雲の頭を優しく撫でる。八雲はゴロゴロ喉を鳴らしてご機嫌だった。


「紫苑が猫バカ発揮してるよ」

「はは。紫苑は猫が好きだもんね」


 ふつりと途切れる会話。父が何かを気にするような様子は、蒼汰も気付いているようだった。


「本当は…………いや、今はやめておこう。花火が始まっちゃうよ」

「あ! 姉ちゃん怒ってるかも」

「…………」

「じゃあ送ろう。二人とも、もうここには来ちゃいけないよ」

「え……?」

「藍にもそう伝えて。何があっても、って、念を押しておいてね」

「ちょ……、ここって……」

「またね、燈李、蒼汰。会えて嬉しかった」


 透の声が遠くなり、視界がぼやける。

 目の前にいたはずの透の姿が見えなくなり、気がついたら、元いた旅館の暗い部屋の中だった。老婆の霊は消えたのか見えなくなったのか、部屋の中にはいなかった。


 部屋の奥にいた子供の影も姿を消していたが、影がいた場所に一枚の写真が落ちている。


「なん……だ、よ。どうなってる……?」

「夢……じゃない、よね、燈李兄? 父さんに会ったよね?」

「…………会った、けど」


 燈李は落ちている写真を拾い上げた。随分古いが、老若男女数人が並んで笑顔を浮かべている。家族か、親戚か、それとも年の離れた友人か。その写真の中央にイスを置いて座っていたのは、この部屋に佇んでいた老婆だった。


「…………」


 以前見た影とは違う様子だったけれど、影は願いを叶えるものだと藍が言っていたはずだ。


「あの婆さんの願いは写真で……」


 その時、窓の外がぱっと明るくなり、大きな破裂音と共に窓ガラスがカタカタと振動する。


「あ! 花火始まっちゃった!」


 大きな音に驚いた八雲が、燈李の腕の中で硬直していた。




 隣の部屋に戻ると、藍と紫苑が窓側に置かれた椅子に座っていた。

 窓の向こうには大きな川が流れていて、その川岸から花火が打ち上げられているらしかった。

 この旅館の夏の名物である。


「おかえり。目的は達成かな?」


 二人がどこに何をしに行ったのかは、紫苑が報告済みらしい。


「まぁ、一応」

「え、そうなの?」

「そうか、お前結局見えてなかったな。婆さんいなくなってたわ」

「そっかー。写真は父さんが言ったとおり部屋にあったし、オレよくわかんないや」

「父さん?」


 藍がわずかに首を傾げる。脈絡のない父の登場に、紫苑も怪訝な顔をしている。


「後で話すよ。オレ達もよくわかってないんだ」

「…………そう」


 特に追求されずに済んだことにほっとするが、藍は考え込んでいるようだった。

 ジロリ、と紫苑が睨んでくる。


「ま……まぁ、花火見ようぜ。せっかくだしさ」

「そうそう! オレの光も、あのくらいでっかくて派手にならないかなー!」

「してどうするの」

「え、キレイじゃん。いつでも自前で花火出来るよ?」

「オレらにしか見えないだろ」

「いいじゃん、家族だけの花火大会。花火師・オレ!」

「はぁ……疲れる」

「えー、なんで!?」


 蒼汰のあっけらかんとした物言いに、双子は呆れ顔だったけれど。


「ふ……ぁははは、いいね、それ」

「でしょー? ほらほら! 藍兄は賛成だって!」

「マジかよ、兄貴。蒼汰を甘やかしすぎじゃねぇ?」

「お兄ちゃん、蒼汰が調子乗るから!」

「ふふ……ははは、いやいや、花火師・蒼汰。かっこいいと思うなぁ。ふふ、ふふふ」

「ほーらほーら!」

「……お兄ちゃんが……あんなに笑うなんて……」

「すげー珍しいもん見た……」


 得意気な蒼汰をスルーして、双子はくつくつと肩を震わせる藍を見る。藍はいつも柔らかく微笑むくらいで、声を上げて笑うだなんて何年も見た記憶がなかった。

 そんな兄の笑顔が見られただけでも、今日ここに来た甲斐があるとさえ思えてしまう程だった。


「蒼汰のバカもたまには役に立つ」

「なんか……悔しい……」


 霊のこととか、影のこととか、父のこととか、いろいろあったけれど。

 ひとまずは花火を楽しもうと、燈李は深く椅子に身を沈めたのだった。




 翌朝、旅館の朝食と朝風呂を堪能して、帰途に着く直前。


「写真撮らねぇ?」


 旅館の前で、燈李がボソッと呟いた。


「あらあら、では私がお撮りしますよ」


 耳敏く聞きつけた旅館の女将の厚意に甘え、燈李がスマートフォンを手渡す。

 藍、紫苑、燈李、蒼汰の順に並び、紫苑が八雲を抱き上げた。


「はーい、何枚か撮りますー! 笑ってー!」


 手馴れた感じで撮影する女将に促され、各自が笑みをうかべる。スマートフォンの画面の中に、楽しかった時間が四角く切り取られた。


 帰りの車中では、賑やかなきょうだいの会話が繰り広げられている。車移動になれたのか、八雲はおとなしく紫苑の膝で丸くなっていた。


「さっきの写真、全部データ送ってくれる?」

「おう。全員に送っとく」

「せっかくだし部屋に飾ろうかな」

「なら私がプリントしとくね」

「ありがとう紫苑、お願い」


 昨日から一転して、今日は午後には雨が降るらしい。今はそんな気配はないけれど、昨日よりも雲が広がっている。


「近すぎて旅行って感じしてなかったけど、行ってみると楽しかったね」

「うんうん、オレまた行きたい。今度は父さんと母さんも一緒に行こうよ」

「確かに。オレらだけで行ったって言ったら、いじけそう……って、そうだ、兄貴」

「ん?」

「昨日さ、父さんに会ったって言っただろ?」

「あぁ……うん、気になってたんだ」

「それがさ――」


 燈李が昨日の、透と会った話をしようとした矢先、藍のスマートフォンが鳴った。


「ごめん燈李、ちょっと待ってね」


 鳴動するスマートフォンと連動して、車のナビ画面に発信者の名前が表示される。


「明さんじゃん」


 表示されていたのは、【都築つづき あきら】の名前だった。

 藍が画面上の受話ボタンに触れると、車内のスピーカーから電話口の音声が流れる。


『藍、いまどこだ? この時間なら家か? 話せるか?』

「運転中ですけど、スピーカーなので話せますよ」


 燈李も紫苑も蒼汰も、話せば会話に参加できるのだが、明の声音に焦りを感じ取って一様に黙っている。そんな車内に明からもたらされたのは、全員が衝撃を受けるのに足る爆弾だった。


『運転中……なら手短に言うぞ。――陽子さんが入院した』


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