表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/32

【番外】藍の陰陽解説

 空野家のダイニングで藍、燈李、蒼汰が談笑している。紫苑は友達との約束がある、と出掛けて不在だ。八雲はリビングのソファで大の字になっていて、起きる気配はない。静かな昼下がりだった。


 カウンターを挟んでキッチン側に藍が立ち、カウンターのすぐ脇に置かれたテーブルに、燈李と蒼汰が座る。

 蒼汰希望の『藍先生の力のコントロール講座~陰と陽とは』の開催である。


「まずは入れ物を大きくするところから」

「はい、先生! 入れ物って何ですか?」

「黙って聞けよ。兄貴が話してんだろ」

「いてっ!」

「燈李、叩くのはよくないよ」

「へーい」

「なんで燈李兄がいるのさー。オレが藍兄に教えてもらってるのに」

「今日はバイト休み」

「遊びにでも行ったらいいじゃん」

「うるせ。オレも聞きたいんだよ」

「はいはい、燈李にもちゃんと説明したことは無かったからね。ケンカしないなら、二人に説明するよ」

「はいはーい! ケンカしません!」

「ケンカしません」

「よろしい」


 弟達のじゃれ合いは可愛いものである。

 先生、との呼びかけに応えるように、藍は食器棚から目的の物を取り出した。

 


「入れ物っていうのはね、これのこと」


 そう言って藍がカウンターに置いたのは、高さの違う二つのコリンズグラスだった。真っ直ぐ細長い、主に炭酸用に使われるグラスである。


「コップ?」

「グラスな」

「一緒じゃん!」

「二人とも」

「う」

「ごめん」

「よろしい」


 くすくす笑いながら、藍は両方のグラスにオレンジジュースを注いだ。嵩がだいだい同じくらいになっている。


「このオレンジジュースが陽」


 そう言って、次は冷蔵庫からアイスティーを取り出す。よく冷えたそれをそーっとオレンジジュースの上に注いだ。オレンジジュースの明るい橙色と、アイスティーの深く透き通った赤茶色が、グラスの中で半々の層を作る。


「おー」

「すご。なにこれ?」

「比重の違いで二層になるんだよ。さ、こっちのアイスティーが陰」

「いん…………あ、陰か」


 嵩はどちらも同程度、グラスの高さの違い分、片方はまだだいぶ容量に余裕があった。



「こっちの、容量に余裕の無い方が普通の人。それをこっちの、余裕のある方にするのが、コントロールのはじめの一歩」

「あぁ、なるほど」

「え、全然わかんないんだけど!? 燈李兄わかったフリしてない?」

「するか。オレはコントロール出来るから、ただの答え合わせなんだっての」

「ずりぃ」

「まぁまぁ。イメージの問題だから」

「むー。ま、いいや。この陰と陽をわざわざ作ったのはなんで?」

「陰と陽のイメージがしやすいかと思って。かき混ぜて飲んでね」

「飲んでいいの? ラッキー」


 差し出した細いストローをグラスにさして、二人とも素直をジュースを飲み干した。



「さて、さっきのジュースをもう一回作ろう。今度は蒼汰が作ってごらん。蒼汰の陰と陽の割合で」

「え、急に?」

「燈李もやってみようか」

「おっし」

「んーと、オレは陽が多いんだから、こんくらい?」

「ふふ」

「え? もっと?」

「さあ、どうかな」


 グラスに七割程オレンジジュースを注いで、蒼汰が藍の顔をチラリと見る。が、藍は微笑むだけだ。


「オレのはこうだな」

「うんうん、いいね」


 一方、燈李も蒼汰と同じくらいのオレンジジュースを注いで、藍からマルをもらった。


「蒼汰、もう少し…………そう、あとちょっと」

「え……え……? これじゃほぼオレンジジュースなんだけど!?」

「そうなんだ。蒼汰は九割がた陽」

「きゅっ……」

「とんでもねぇな」

「じゃあ、陰と陽の話をしようか」


 呆然とする蒼汰の肩をぽんと叩いて、藍が続けた。


「陽は活性、陰は鎮静っていうのはわかるかな」

「一応」

「活性は分け与え、鎮静は取り上げる、っていうのは?」

「……今知った」


「ならそこから説明しよう。蒼汰も燈李も陽だから、活性を説明する方がわかりやすいかな。まず、そもそも陰と陽っていうのは魂の質のことでね。合わせて100パーセントだと思ってほしい。グラス中身のことだね」

「うん」

「その中から、陽でも陰でも、魂の素の一部を相手に移すことが出来る。それが陽の活性だよ」

「あれ、陽だけじゃねぇの?」

「あくまでも分け与えるのが陽の質だから、分けるものは陰でも構わないんだ。一応ね」


「へー。でもそしたら100パーじゃなくなっちゃうんじゃないの?」

「そうなんだよ。だから容量を増やすのが先なんだ。分け与えるための原資とでもいうかね」

「100パー切るとどうなるの?」

「疲れる、苦しくなる、立っていられなくなる。減りすぎると意識を保てなくなるかな。最悪死んじゃうこともある」


「怖っ! え、オレ今までどうなってた……って、あれ? とっちかっていうと調子良くなってたような……?」

「蒼汰はなんというか……100パーセントが普通のところを、増やしちゃうんだよね。陽を。でも入れ物を大きく出来ないから、溢れてるの」

「洪水みたいな?」

「そう。その溢れた分が自分を活性しすぎて、逆に疲れちゃうんだよ。見た感じ、三割くらい増えると具合が悪そうかな。その増えた分を消費するから、調子が良くなる……というか、元に戻る」

「ほぇ~……」

「燈李はコントロールが上手でね。植物相手はそのあたりの適量が難しいはずなんだけど、割と初めの頃からできてたね」

「難しいはずって?」

「母さんがね、苦労したって言ってたんだよ」

「へ、へー……」


 思いがけず褒められたような形になって、燈李は口をモニュモニュさせた。


「だから、まずは容量を増やすところから。容量の増やし方を覚えて、やりたい事に対しての陰陽の適量を判断できるようになれば、コントロール出来てる、と言っていいと思うよ」

「なるほど~」

「じゃあ陰は? 取り上げるっての」

「あぁ、それはね、陽の逆だよ。相手の陰か陽を取り上げる……奪うことができるんだよ」

「え、でも100パー切ると……」

「そう。だから生きた人間相手に使うのは、ちょっとコントロールが難しいけど……怒ってる人とか興奮してる人から陽を1パーセントくらい奪うと、冷静になってくれたりはするかな」


「ん? じゃあオレが具合悪い時は、藍兄に奪ってもらえば……」

「そうだね。蒼汰が小さい頃は僕や父さんがそうしてたんだけど、最近顔を合わせない日も多いから、気付けなかったりするんだ。ごめんね、蒼汰」

「兄貴が謝ることないだろ。こいつがいつまで経ってもコントロール覚えないのが悪い」

「そうだよ、オレが悪い!」

「いやいや、悪くはないよ……」


「あ、なら姉ちゃんも出来る?」

「紫苑はね、陰しか奪えないんだよ。自分以外の陽を受け入れられなくて」

「ふーん? ……受け入れるって?」

「陰の場合、奪った気は自分に取り込むことになるんだけど、そのために入れ物を大きくするのは陽と同じなんだ」

「持ってきた分を入れとく場所か」

「そう。紫苑は作った入れ物に陰は入れられるけど、陽を入れることが出来ないんだよ。これも体質みたいなものだろうね。蒼汰が自分の陽を増やしちゃうのと同じかな」

「姉ちゃん、そうだったんだ……。燈李兄、知ってた?」

「詳しいことはわかんねぇけど、蒼汰をどうこうできないのは知ってた」

「だよね……」


「……霊は、陰しかないんだ。元々持っていた陽も、時間とともに陰に変わってしまう」

「…………」

「…………」


 藍の声音が先程までと変わったことで、二人は神妙に耳を傾ける。


「そうするとね、陽が欲しくなるんだよ。生きているものにしか無い陽を、ね」

「あ……」

「あれか」


 奪われる感覚は、二人ともつい最近体験したばかりだった。


「これは悲しい事なんだけど、そうして奪って吸収した陽は、すぐに陰に変わってしまうんだ。だから彼らが満たされることは無い。それどころか、陰が増えるから余計に陽が欲しくなる」

「うわー……悪循環……」

「彼らに陽を与えられるのは、陽の活性の力だけなんだ。奪うのではなく、分け与えられた陽は、彼らの陰を相殺する。だからね、蒼汰。蒼汰はコントロール出来ないと言っていたけど、全くできてないわけでもないんだよ」

「え?」

「紫苑に言われて、溢れた陽を分けてたんでしょう? 意識してやっていたんじゃないかもしれないけど。大丈夫、すぐにコントロール出来るようになるよ」

「藍兄……」


 思い詰めていた弟を気遣うように微笑んで、藍は空いたグラスを洗い始めたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ