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僕等が求めたモノ  作者: 那泉織
第1章ー過去と現在と
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④追憶


 ***



 ────僕ハドウシテ人間界(ココ)ニ居ルノ?



 僕自身が決めたから。

 だから僕は暗闇の牢獄から逃げ出した。



 ────僕ハ何故、彼等ト戦ッタノ?



 再び牢獄に閉じ込められないようにするため。

 そして──生きるため。



 ────何故、僕ハ生キタイノ?



 彼の言葉に教えられたから。

 死ぬことを受け入れれば、逃げていることと同じだって。



 ────僕ハ罪人ナンダヨ?



 分かってる……そんなこと。

 一生僕は許されない。

 僕の罪は──あまりにも大きすぎる。



 ────許サレナイト分カッテイテ、生キルノ?


 ────僕ハ死ヌベキデハナイノ?


 僕ハ───────……。



 ……───それでも、生きるよ。

 今、ここで僕はやるべきことを探して、探して………。



 瞳を閉じた僕の脳裏に浮かぶのはあの日の記憶。

 大地を覆い始めた白に、にじむ赤。

 まるで僕の愛しい人を思い出すような舞い積もる雪の中で、僕は神によって傷付けられた自分の身体よりも、周囲の景色を呆然と眺めていた。


 僕が殺した同族達。

 彼らから流れる鮮やかな(いろ)


 そして───……。


 僕から少し離れた場所で地に横たわる彼女の胸からも…………。


『っ………りっ……か』


 頬を伝い落ちるのは体温で溶けた雪の雫だったのか。

 それとも瞳から流れる涙だったのか。


 僕はあの時、全てを拒絶して────。


 ────気が付いた時には、暗闇の牢獄の中に全てを忘れた僕はいた。


 僕は一度現実を拒絶し、記憶を自ら封じ込んだ。

 だけど、些細なきっかけで思い出してしまうほど、それは脆いものだった。


 ────罪を犯した過去からは、決して逃れられない。

 改めてそれを突き付けられた瞬間だった。

 故に、一度は受け入れた死。

 僕は独り、暗闇の中で裁かれる時を待っていた。


 眠りと目覚めだけを繰り返す毎日。

 何度も、何度もあの日の記憶は夢の中で再生されて、僕はその度に涙を堪えられなかった。


 苦しくて、苦しくて────。

 そんな毎日を終わらせたのは僕の前に現れた彼らだった。


 いつものように眠っていた時、耳に届いた音。


 ────誰かが、いる。


 物音に眠りを妨げられ目を覚ますと、檻の外に誰かがいた。


「誰…………?」


 紡いだ声はとても小さくなってしまった。

 僕は彼らに目を凝らす。


 ────檻の外にいる彼らは明らかに牢獄の監視をする兵の服装ではない。


「見張りの兵ではなさそうだね。どうして君達はこんな所にいるの?」


 これが初めて露華と雪吹に掛けた言葉だった。


「────────僕は大きな罪を犯した。その罪は決して償うことが出来ないだろうけど……、死ぬことが罰だというのなら、僕はそれを素直に受け入れる」


 僕は彼らに自分の犯した罪を語り聞かせた。

 語る間、僕はずっと瞳を閉じてあの日のことを思い出していた。


「何それ。馬鹿じゃないの?」


 語り終えた後、露華が最初に発したのがこの言葉だった。

 僕は閉ざしていた瞳を開いて、彼を見る。


「露華……」

「だってそうだろ」


 侮辱ともとれる言葉を口にした露華をたしなめようとした雪吹を遮り、彼は眉尻をつり上げて────。


「そんなの逃げてるだけじゃん。死ねば後悔に苦しむことはないしな」

「違うっ!! 僕は……」


 露華の言葉を即座に否定しようと自然と声に力がこもる。


 僕は罪人なんだ。

 たくさん天使を殺し、六花の命も奪ったんだから。

 こんな僕が生きていくのは許されない。

 許されたとしても僕自身が許せない。


 だから否定しようとしたのに、露華はそれを言わせてくれなかった。


「何処が違うんだよ。お前はちゃんと命がすごく大切だって分かってるのに、お前自身の命がどーでもいいってのがオレは気に入らねーんだよ!!」


 僕が言おうとした言葉をさえぎって、露華は苛立ちを隠すことなく大声を出した。


 露華は先程の様子からは想像もつかないくらい怖くて、真剣で、怒った顔をしていた。

 僕は彼の言葉をすぐには受け入れることが出来なかった。


 ────彼は何を言っているのだろう?


 すぐに理解出来なかった僕を気にすることなく、露華は彼自身の考えを述べていく。

 そして、その話を一緒にいた雪吹がまとめた。


「露華……。言ってること分かんない。何? つまりはもう少し自分に優しくしろってこと?」

「ま、そうだな。……こいつは十分苦しんでるよ。苦しみ続けたまま死ぬなんて、哀しすぎる」


 ────自分に優しく。


 そんなこと、無理だよ。

 僕は罪人なんだから。


 そう思っても、露華の話を聞いてしまったことで、僕の中の「何か」が変わり始めた。


 …………生きていきたい。

 そんな思いが、沸き上がる。

 でも────……。


「───でも、僕はここから出られない。君が言うようなことは出来ないよ……」


 この牢にはどんな魔法も寄せ付けないバリアが張られている。

 物理的な方法ならこの牢の扉を壊せるかもしれないけど────。


「出たいんだったら出してやれるよ」


 露華はポケットからヘアピンを取り出した。


「オレ達と一緒に来るか?」


 露華は満面の笑みを浮かべて、僕を誘った。

 その笑顔は温かくて、眩しくて………。

 だから僕は自然と迷わずに頷いた。


 まさかヘアピンなんかで開いてしまうような牢だったなんて……と、思いながら僕は露華達についていった。


 暗闇の牢獄から逃げ出して、一体僕は何をすればいいのだろう……?

 そんなことを考えながら、僕は彼らと人間界へとやってきた。


 この罪に対して僕が行うべきことは未だに分からないけれど、今、僕はこれだけは言える。


 許されなんかしないけど、僕はまだ生きていく──……。


 それが今の僕の想い。

 そして僕は探し続ける。


 ────僕が、やるべきことを。





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