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僕等が求めたモノ  作者: 那泉織
第1章ー過去と現在と
3/29

③戦闘


「……やはり、四枚羽か」

「……マジで?」

「予想はしてたけど……」


 光珠さん、露華、雪吹の順でそれぞれが一言ずつ漏らした。


 初めて会った光珠さんは事前に予測をしていたのか驚きは少ない。

 むしろどちらかというと驚いているのは露華達の方だった。

 そういえば僕が四枚羽であることを彼らに言ってはいなかったなと思い出して僕は苦笑する。


 そして────。


「君達が力尽くで来るなら、僕は戦う。────今、僕は捕まるわけにはいかないんだ」


 鑑に向かって、そう言った。


 僕の性格が一番分かっているのは、この中では鑑だ。


「いくよ」


 鑑は一瞬哀しそうな顔をして、わざわざ宣言してから右手を僕の方に向けた。


「ネウオセ・モキモン!」

「ウウイリエセ・モキモン!」


 蒼い炎が鑑の手から撃たれた一瞬後に僕はその炎に向かって右手を伸ばして魔法を素早く詠唱し、水流を放つ。

 炎を打ち消しながら、左手の人差し指、中指の二本を立て、胸の前に引き寄せ───。


「エツオヲ・ノムサナ───」

「させるか!」


 新しく別の魔法を出そうと詠唱を始めると、剣を手にした宝剣さんが目の前に現れた。

 しかし、


「っ!!」


 宝剣さんは剣を振り下ろそうとした瞬間何かに気付き、バックステップを踏む。

 直後、僕の目の前を一筋の光が走って宝剣さんの左肩をかすめた。


「ちっ……露華か」

「……ダイネラ・オイラキーっ!!」


 視線を外した宝剣さんの隙をついて僕は呪文を締めくくり、指を立てた左手を頭上に動かして一気に前に振り下ろす。

 空から光の雨が鑑と宝剣さんに向かって降り注いだ。当たれば傷を負う凶器の雨。


「エ・ロマム!」


 しかし、それは光珠さんの声がしたと思えば鑑達を包むようにして出現した半透明のドームによって防がれた。


 光の雨が止んだと同時に、そのドームは粉々に砕け散る。


「っ……何とか保ったか」

「わりぃ! 助かった!」


 彼らが安堵しているのも束の間。


「どおおおぉぉぅりぃやああああっっ!!」


 相手に向かって、いつの間にか武器を弓から剣に変えた露華が突っ込んでいった。


「!」


 宝剣さんは露華の剣を自分の得物で受け止める。


「てめぇっ!! さっきはよくも邪魔してくれたな!」

「うっせぇ! 仲間を危険から守っただけだ!」


 言い争いながら、露華と宝剣さんは刃を交わし始めた。


「そういえば、雪吹は何処へ──」


 知らない間に雪吹が姿を消していた。それに気付いた光珠さんは周囲を見回す。


「ニズウ、ヘカシリケ!」


 そんな光珠さんに向けて、僕は風の刃を容赦なく放つ。


「っ!」


 光珠さんはハッとしたように風の刃を無理やり剣で弾くと、僕へと一歩、足を踏み出した。


 ──瞬時に数メートル離れていたはずの距離が詰められる。


「エ・ロマム!」


 振るわれた剣を、先ほど光珠さんが使ったのと同じ防御魔法で跳ね返し、即座に術を解いて、左足を軸に右足で回し蹴りを光珠さんの腹部の右側に叩き込んだ。


「っぐ!?」


 彼が呻いてすぐ、天から炎の塊が降ってくる。

 僕は身軽にトンッと後方に大きく跳び退いてそれを回避。

 炎を放ったのは鑑だろう。

 鑑を見ると、また何か呪文を唱えている。僕はそれを確認すると、急いで両手を前に。


 鑑に対抗するため魔法詠唱をしようとするけれど、態勢を整えた光珠さんがこちらに向かって来て相手をせざるをえない。


「オエア・コテーニジ・アキアル・コウィズ……」


 光珠さんを相手にする僕の耳に届いた鑑が紡いでいる呪文。それには聞き覚えがあり、ハッとした。

 それは鑑が使える魔法の中で、僕が知る最上級の魔法────。


 あれを発動されるとマズい!


「ナノヨ・オノハ・アルケアルケス…………」

「露華!」


 僕は叫んだ。


 露華は焦りが混じる僕の声に気付いてくれたのか、宝剣さんの剣をわざと大きく弾くことで打ち合いを中断し、僕の前にいる光珠さんへと勢いよく跳んで、そのまま蹴り飛ばす。

 その露華の急襲に光珠さんは見事、数メートルほど吹っ飛ばされた。


 光珠さんの相手から解放された僕は急いで両手を前に掲げる。


「クチカヨウェテブス・サナ・ダイネラ………」

「エアマチ・ロマモウィ・トニアナ───」


 鑑の呪文詠唱が終わろうとしていた。


「ヲオノ・ヒコア!」

「シイティー!」


 鑑が詠唱を締めくくった瞬間、僕も先ほどより強度が上の防御魔法を完成させた。


 鑑が生み出したのは蒼い炎の龍。

 龍は僕が作ったバリアを破ろうと体当たりし、牙をたてる。


「っ…くぅ………」


 龍が暴れるたび、その衝撃がビリビリと腕から伝わる。

 そのあまりにも重い感覚に顔をしかめながら、なんとか耐えようと身体中の魔力を両腕に移動させた。


「癒既!」


 今にも衝撃の勢いで吹き飛ばされて倒れそうな僕の背に、露華が両手を当てて支えてくれる。

 その支えてくれている手を伝って、僕に温かい力が流れ込んできた。


 ────おそらく、それは露華の魔力だ。


 僕は受け取った露華の魔力も使って、防御魔法を必死に維持する。


 ────二人分の魔力で耐えしのいだ結果、龍はようやく消滅した。


「はぁっ……はっ…」


 猛攻に耐えて疲れ果てた僕の身体からは、魔力だけでなく体力、精神力まで奪われていた。


「……露華、大丈夫?」

「……怪我はない。けど、……あいつらの相手をするのは無理だ。動けない」


 露華は僕にありったけの力を送ってくれたらしく、僕同様にとても疲れた様子で地面にへたり込んだ。


 ──はっきり言って、僕も限界だ。


 それは強力な魔法を使った鑑も同じらしく、彼は僕みたいに息を整えていた。

 だけど、宝剣さんと光珠さんはまだ余裕そうだ。彼らは僕のバリアの外で、それぞれの剣を構えている。


 限界が近い僕が力尽きて、このバリアが消えるのを待っているんだろう。

 そして、動けない僕らを捕らえようとしている。

 次第にゆっくりと、僕らを守る防御魔法が消えていく──。


 ……限界が、来た。

 もう駄目だと僕が諦めかけたその時。


 パリン


 ガラスが割れるような音がしたかと同時に、青い景色の色が元に戻った。


「なっ……!?」

「結界が……」


 鑑達三人が驚いたように、僕もびっくりした。


 ────結界が、解けた?


「やってくれたな。雪吹」


 僕の後ろにいた露華が呟くのが聞こえた。

 その声はまさに「待ってました!」というような響きが含まれているようだった。


 そして突然、僕と露華の足元で複雑な紋様が浮かび広がる。

 一瞬の内に鑑達の姿が目の前から消え、僕と露華は何処かのビルの屋上みたいなところにいた。


「ごめん……。時間かかった……」


 声のした方を向くと、そこには苦笑を浮かべた雪吹がいた。


「謝るんだったらもっと早くしろよ!」

「無理言わないでよ! けっこう大変だったんだから!」

「……え? えっと…? ………どういうこと?」


 露華と雪吹が言い争う中、僕は疑問符を大量に浮かべて訊いた。

 どうして雪吹は戦闘中に姿を消したのか、何をやっていたのか。露華は何を知っているのか……色々知りたかった。


「あー…悪い、言わなくて。実は………」

「露華に命令されて、かなり無茶して結界を壊すの頑張ってたんだ」


 露華の言葉の続きを、雪吹は少し苛立ったように口にする。


「……結界破壊」


 なるほど、その手もあった。

 僕らを逃がさないよう閉じ込めていた結界さえ壊してしまえば転移の術で逃げることが可能になる。

 情けないことに僕は全く思いつかなかった。


「あの結界を構築してたのが光珠さんでよかったよ。鑑のだったら絶対に無理だった……」

「戦闘が始まる直前に雪吹に頼んでたんだ。結界壊せって。雪吹は戦闘に不向きだから」

「……どうせ俺が使える天使術の攻撃魔法は光と風、二つの属性しかありませんよ。悪かったね」


 露華によって雪吹の機嫌は下降していく。


「でも、こいつは治癒魔法とか補助魔法には強いんだ。頼りにはなる」

「……なんか、その言い方だとどこか問題があるって言ってる感じがするんだけど」

「べっつに~?」


 フォローなのか、そうではないのか。

 露華は言葉を付け加えたけれど、その言い方が気に入らないのか雪吹は眉間に皺を寄せ、露華は誤魔化すように話を流した。


「……それで、雪吹が結界を壊すために戦闘中にいなかったのは分かったよ。けど、どこに姿を隠してたの? そんな場所、どこにも……」

「ああ、それはオレが魔法で雪吹を隠してたんだ」


 露華はなんてこともないように笑う。


「オレさ、幻影魔法が得意なんだよね。それで雪吹の姿を周囲の景色と同化させて、雪吹を見えないようにしてたんだ」

「…………………幻影?」


 たっぷりと間を置いてから、僕は驚きを顔に浮かべて呟いた。


 ………ちょっと待って。

 僕は頭の中を整理する為にこめかみを数回軽く叩く。

 幻影魔法って確か、かなり難しい魔法だったはず。四枚羽でも使えないのがほとんど。僕でも幻影魔法は使用不可能だ。


「…………雪吹。露華のすごいところって、思考回路だけじゃなかったんだね」

「ちょっ……癒既! それ、どういう意味だ!!」

「あ……あははははは…………」


 雪吹の方を向いて言った僕の言葉に、露華と雪吹はそれぞれ反応したのだった。







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