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僕等が求めたモノ  作者: 那泉織
第4章ーそれぞれの戦い
18/29

④決断

 

(side 雪吹)



「エカロ・ヤクヌ・チリ・エイチ!」

「エア・コマル・イ・ワイ!」


 動きだしたのは同時。俺は光、紫希は闇。それぞれが生み出した二つの奔流は、ど真ん中で激突する。

 俺が放つ光は闇を突き破ろうとし、紫希の生み出す闇は光を喰らいつくそうとする。


「ネソラヘナティー・キニキクル!」


 均衡するその状態を破るべく俺はさらに、以前鑑達との戦闘で使った術を発動させた。

 呪文を唱え終わる直前に、光を放っている左手は目の前に伸ばしたまま、右手は剣を握り締めた状態で頭上に振り上げる。

 そして、詠唱が完成すると、剣先が指し示している宙で光の剣が数十本出現した。


 ────剣先を紫希に向けて振り下ろす。


「エタチー!」


 光の剣は雨の如く降り注ぐ。

 それに素早く反応した紫希は闇を放つのを止めずにバリアを形成し、それを防ごうとする、けど。


(甘い!)


 紫希が築いたのは通常強度の結界。

 時間的に上級結界を張るのが無理だったからだろうけど、紫希なら普通はこれでも上級魔法は防げるだろう。


 ────けど、俺は普通じゃない!


 暗示するように心の中で叫ぶ。


「アボノ・オクチア・ギキ・アクテ・エツ!」


 光の雨を降らせたまま、さらに詠唱。

 生み出したのは氷の槍。

 三つの術を同時使用するのは精神的にかなり疲労する。

 けど、これくらいじゃないと紫希には通用しない!


「────行けっ!」


 紫希へ向けたままの刃を勢いをつけ横に滑らせる。

 その瞬間、氷の槍は引き寄せられるかのように紫希へ走っていった。

 バリアに氷の槍が次々と打ち込む。


「っ……くぅっ……!」


 紫希が放っていた闇が消えた。

 攻撃と防御を同時にこなすのが不可能だと悟ったのだろう。

 闇が霧散した途端に、紫希の張るバリアが輝きを増す。


(攻撃に使っていた魔力を結界に回したか……でも)


「多少は補強出来ても無駄だよ!」


 叫んだ直後、紫希のバリアがピシリと鳴った。

 音を立てたバリアにひびが入る。


「観念しろっ!」


 残っている、生み出した光の剣と氷の槍を一斉に撃つ。


「っく……ぁあああああっっ!」


 暫くは耐えたもののついに限界が来たらしく、バリアが壊れた。

 二種類の刃は紫希を容赦なく襲う。

 頬を掠め、腕や足を切り裂き、胴を貫く────。


「エミ・モイワ・イ・キニイ・オ・コンマ・ラホサ!」


 紫希に対して慈悲を欠片も与えない俺は、ある魔術を使った。

 詠唱が終わると闇が生まれ、それは紫希の身体にまとわりつき、俺が与えた傷口から体内へと侵入していった。


「……ぅくっ…!」

「これであんたには治癒魔法が効かなくなった。あんたに助かる道はない。──このまま滅びろ、紫希!」


 ずっと握り締めていた剣を振りかざす。

 血塗れでコンクリートの上にうずくまる紫希はもう、動こうとしない──というより動けないはずだ。

 一振りで終わらせよう、と剣を動かしかけたその時、


「待ちなさい」


 それまでその場に居た誰のものでもない、凛とした声が響き渡った。

 そして、建物の入り口の方から足音が近付いてきて、俺達の前に銀縁の眼鏡を掛けた長身の青年が現れる。


(────誰だ?)


 このタイミングで現れるなら俺達の味方ではない。

 俺は警戒を強くする。


「羽丘……聖司…?」


 青年を見て、惚けたように露華が口を開いた。

 すると青年は微かに苦笑を零す。


「はい。……久し振りですね、露華」

「…………露華、誰?」


 声をトーンを低くして訊くと、怯えたように「ひっ」と露華は涙声を漏らす。


 ────原因は、“アレ”か?


 前に露華が大げさな幻影を使った時、俺はその術がやりすぎだと思ってそれを叱った。

 どうやらその説教の加減を間違えたらしく、俺が思っているよりも露華に恐怖を植え付けたようだった。


「せっ……聖司は光珠と、俺の兄貴と同い年で、結構家に来てたんだよっ……!!」


 低い声をちょっと出しただけでまさかここまで怖がられるとは。


(ちょっと傷付くなぁ……)


 震える声で答える露華を見て、俺は今後気を付けようと反省した。


「……さて、改めて名乗りましょう。僕の名前は羽丘聖司。管理局第四課のリーダーを任されています」


 彼の自己紹介を聞いて、眉を寄せた。


「……管理局のお偉いさんが何の用ですか? まあ、理由は分かり切ってはいますが────」

「取引をしませんか?」


 言われたのは、思いがけない言葉だった。 

 

「…………取引?」


 怪訝に思う。

 いったい何を取引すると言うのか。


「十六夜癒既に掛けられた呪術を紫希に解かせます。その代わり、貴方が紫希に掛けた術を解いて下さい。今回はこのまま撤退しますから……」

「…………紫希を──手駒を失うのがそんなに嫌ですか?」


 彼の言葉に眉をひそめた。

 今の状態では、先に命が尽きるのは紫希。紫希が死ねば癒既に掛けられた呪術は消えて、彼を治癒魔法で救うことが出来る。

 反対に癒既が先に死んだとしても、紫希に術を掛けたのは俺だ。

 俺が自ら術を解くか、または俺を倒さない限り紫希が生き残る術はない。


「…………貴方達の所に混沌の支配者がいるのなら、僕一人では勝ち目がありません。大人しく引き下がる他はないでしょう。それに、紫希は大切な僕の幼馴染みです。僕は彼を手駒と思ったことはありません。……今回のことに紫希を関わらせたのは僕なので、説得力は無いですが」


 聖司は少し顔を歪め、紫希に近付き、床に座り込んだ。

 そして汚れるのを気にする風もなく、傷だらけの紫希を抱き寄せた。


「どうしますか? 決めて下さい。早くしないと十六夜癒既が手遅れになりますよ?」

「っ…………!!」


 彼の言うとおりだ。

 癒既の怪我は酷い。止血をしたのはいいが、それまでに大分出血している。

 このままでは長く持たない。

 そして聖司が現れたことで、紫希を殺すのが容易ではなくなった。

 なら──────。


「っ……分かりました。取引に応じます」


 一刻も早く癒既の治療をしたい。

 苦渋の末に決断し、左手の指を二本立てて空を切れば紫希に取り付いていた闇が吹き出るように離れ、霧散した。

 それを確かめると素早く聖司は紫希に治癒魔法を掛ける。


「………ぁ、聖司……?」

「紫希。ごめん。ごめんね……」


 弱々しく声を漏らした紫希に、聖司は謝罪を口にした。


「……? なん、で……謝るの?」


 不思議そうに首を傾げる紫希の顔は、今まで見た彼の表情とは違い、異常さを感じない普通の表情をしていた。


「………すみませんが、早く約束を果たして貰えますか?」

「あ……はい。紫希……」


 このまま放っておけば本当に癒既が手遅れになると思って急かすと、聖司は頷いて紫希を見た。


「紫希。十六夜癒既に掛けた呪術を解いて?」

「………聖司がそう、望むのなら」


 あっさりと紫希は了承し、右腕を少し上げて、指を鳴らす。

 それを確認すると俺は二人から離れ、癒既の元に移動した。


「紫希。……帰ろう?」

「ん……」


 聖司達は短くやり取りをした後、姿を眩ませた。

 俺は手にしていた剣を消すと癒既へと両手を伸ばし、手から淡い光を発して癒既にそれを流し込む。

 すっ、と癒既の傷はたちまち癒えていき、俺は少しだけ安心した。


「俺達も帰ろう。……他の天界の奴らに見付かると厄介だ」

「……ここじゃ落ち着けねぇもんな」


 アストと露華の言葉に頷いて、俺達は帰宅することにした。

 血塗れの癒既の姿に罪悪感を抱きながら、俺は自分自身の覚悟がこの一戦で完全に固まっているのを感じる。


(露華、癒既……)


 ───君達の覚悟は、どうなの……?


 その疑問は心の内だけに留め、俺は転移魔法を使うべく、静かに詠唱に入ったのだった。







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