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僕等が求めたモノ  作者: 那泉織
第3章ー胸に秘める理想
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④衝撃

 

「ん……。でも、今までずっと『使うな』って言われ続けてたから使うの躊躇っちゃってさ……」

「あのさ、雪吹。お前はもう『自由』なんだよ。魔術を使うのも使わないのもお前の自由。けど、使うのに躊躇う必要なんてねーだろ」


 複雑そうな顔で笑う雪吹にオレは眉間に皺を寄せる。


「それに、天使術も魔術も大して変わらないよ。発動させる呪文が違うだけで、術の原理は同じだから」

「マジで!?」

「そうなの!?」


 癒既がオレに続くように言った言葉に驚いたら雪吹と声が重なった。


「うん、そうだよ。……知らなかった?」

「……この位常識だろう」


 アストが不思議そうに首を傾げる。


「まぁ、ほとんどの魔族は天使の呪文を知らないから使えないがな……」

「僕、何回か魔術を使ったことあるよ。魔術を使う方が都合のいい時あるし」

「「え」」


 癒既の発言はオレと雪吹の動きを止めるのに充分だった。


「……癒既、魔術使えるのか?」

「? うん、一応。僕、闇属性の術が得意だけど天使術にはあまりないからね。時々魔術を」

「……魔術の呪文は何処で覚えたの?」

「実家の書庫」


 オレの問いに答えてから癒既は雪吹の質問に微笑して応じる。

 その癒既の言葉にオレは疑問が浮かんだ。


「…………癒既の家って──どんな家だよ?」


 口に出した途端、癒既は困ったような顔をした。


 ──マズいこと訊いたかな? オレ。


「……ごめん。実はね。……僕には一部記憶がないんだ」

「え────!?」

「重罪を犯した天使は家族との繋がりを絶つために、牢獄に入れられる前、家族についての記憶が消されるんだよ。──罪を犯した天使だけじゃなくて、その血縁者の記憶も」


 癒既の言葉に衝撃を受けたオレに、雪吹は冷淡に言う。


「昔、天使殺しの罪で捕らえられた天使がいて、その天使をその親が助けようとして大きな騒動が起きたときがあったんだ。だからそれからは血縁の記憶を消してしまおうってことになったわけ。何で露華知らないの? これ、常識だよ? 全く……」

「……なあ、やっぱりオレって世間知らずなのか?」

「ちょっ……何でいきなりそんな顔するんだよ?」


 弱々しくうつむいたら、雪吹が慌てたように訊いてきた。


「……だって。オレ……昔から世間を知らない馬鹿だって言われてきたからさ……師匠に」

「……師匠?」

「ん……」


 今のオレがあるのはきっと主に師匠のお陰だと思う。師匠がいたから天界の歪んでいるところにも気付いた。


「オレは、十二歳になるまでずっと家の外には自由に出して貰えなかった。……だから学校とかも通ってなくて、その代わりに家庭教師がついてた。……そんなオレの家にやって来て、戦闘技術を教えてくれたのが師匠。魔法と弓術と剣術だな、主に」


 師匠から学ぶことが当時、オレの一番の楽しみだった。

 机に向かって問題を解くよりも、身体を動かす方がオレの性に合っていただけかもしれないけど。


「師匠は戦闘技術をオレに教える中で、同時に天界の現状について語り聞かせてくれた。……初めはその内容を信じることが出来なかったけどな。──でも、ある日。師匠がオレを家から連れ出してくれた時に、ようやく現実を知ったよ……」

 

 あの時の衝撃は、今でも忘れられない。


「……何を、見たの?」


 雪吹に問われて、オレは情けなく微笑んだ。


「……混血の天使が売買されてるところ」

「っ……!」

「……そんなことする奴、本当にいるんだ?」


 癒既は思いきり顔を哀しげに歪め、雪吹は怒りを含んだ声で呟く。


「混血の天使は珍しいから……そういう趣味の奴らの間で集められてたり、使い捨ての道具として取引されているって噂は聞いてたけど……」

「普通、混血は管理局に管理されてるからね。……ただの噂でしかないって思ってたのに」


 ショックを受ける癒既の隣で、嫌悪感露わに悔しそうに歯噛みする雪吹。決して混血として許せないに違いない。


 ────混血じゃなくても、オレはその事実に怒りしか覚えなかった。


「その売買に関わってた奴らは師匠が通報して全員逮捕された。……けど、そいつらを逮捕しに来た管理局員の面倒そうな顔といい……。オレの中で天界に対するイメージが崩れていった瞬間だった」


 ガキの頃から親父達から語り聞かされてきた天界はどの世界よりも正しくて、美しい、誇り高い世界────。


 ────これの何処が正しくて、誇り高いんだ。


 表面ばかりだけは美しく見える。だけど中身は汚く、醜い世界じゃないか。


「……だから、オレは人間界に降りようって決めたんだ」

「……どういう、こと?」

「……天界での現実から逃げ出したのか?」


 不思議そうに癒既が首を傾げた後、アストが嘲笑気味に笑う。

 オレは首を横に振ってアストの言葉を否定し、テーブルに肘をついて顔の前で組んだ両手に視線を落とした。


「……オレは時を待ってるんだ」

「時を……?」


 組んだ両手に額を当てながら、頷く。


「……師匠の知り合いの予言者が予言したんだ。『地に新たなる光を持つもの現れる』って」

「…………成る程。そういうことか」


 納得したような顔つきでアストは溜め息を吐く。


「?」

「どういうこと?」


 意味の分かっていない二人に、アストは苦笑する。


「つまりはこういうことだ。この人間界に新しく神になる資格を持つ者が現れる。……露華、お前はその存在を見付けるために人間界(ここ)にいるのだな?」


 その説明で癒既と雪吹が驚愕の表情を浮かべた。


「────そう。オレの一番の目的はそれ」


 組んでいた両手を解き、癒既達にオレは視線を向けた。


「オレの目的を改めて教える。一つ、新しい神を見付けること。一つ、天界に足りないモノを人間界で学ぶこと。そして、いずれは天界に戻って現在の神を玉座から引きずり降ろす」


 順に指を立てながら、オレは語る。


「────新しい神にオレは願いを託す。──天界の現状を変えるための力を貸して欲しいってさ。神が何か望めば、ほとんどの天使はそれに従うしな。……心の奥までは分からないけれど」


 表で取り繕っていても、裏で不満を抱くだろう奴らがいるのは承知している。

 いきなり意識を変えろなんて言われても簡単には出来ないのだから。


「────生まれ持った血なんて関係ないって誰もが言える天界をオレは見たいんだ。……叶えるのは難しいかもしれないけどさ」


 不可能かもしれない。

 けど──オレは少しでも賭けてみたいんだ。


「……仕方ないなぁ」


 くすり、と雪吹が呆れたように笑った。オレは雪吹に視線を向ける。


「俺も手伝う」

「え……?」

「だから、手伝うって言ってるんだよ! そんな理想を聞かされたら見たくなるだろう?」


 雪吹は可笑しそうに笑ってからオレの前まで来てオレにデコぴんを放った。


「いってぇ……」

「僕も力を貸す。天界に立ち向かうなら戦力は必要でしょ?」

「面白い話だ。俺も力になってやる」


 弾かれた額を右手で擦っていると癒既、アストまで雪吹と同じように頷いた。


「……お前ら」


 三人の言葉が嬉しかった。

 ────情けないところを見せたくなかったから、何とか涙は堪えた。


「…………ありがとう」


 オレは笑顔を浮かべて、礼を呟く。


 ────オレは、一人じゃない。

 今、オレの瞳には酷く眩しく仲間の姿が映っていた。








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