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僕等が求めたモノ  作者: 那泉織
第3章ー胸に秘める理想
13/29

③詠唱

 

(side 雪吹)



「オ・イェザケイ!」


 癒既が風を集めて弾丸にし、それを鑑達に向かって放つ。


「エ・ロマム!!」


 光珠さんが両手を前に出して障壁を張り、風の弾丸を弾いた。


 光珠さんはあの三人の中で最も結界に関しては秀でている。

 簡単に癒既の攻撃を防いでしまったのは流石だ。

 けど、癒既も負けていない。


「オ・ユジム、オイラキー、ウオ・ノホニ・マワイ!」


 動じた様子もなく、癒既はさらに魔法を撃つ。

 ───今度は三つ。氷の槍、光の刃、闇色の炎弾を光珠さんの形成するバリアにぶつけた。

 これには耐えきれないと判断したのか、光珠さんはその後ろの鑑達に指示してバリアから離れた。

 そのバリアは彼らが離れてすぐに砕け、さっきまで光珠さん達がいた場所を癒既の魔法が通過して消滅する。


「…………癒既」

「何?」


 癒既は微笑して首を傾げた。


「えっと……もしかしてこの結界って」


 先程癒既が使ったのは全て低級魔法。

 だけど連続して使用すれば低級とはいえやっぱり疲れるわけで、でも癒既にそんな様子はない。


「ああ、うん。この結界には僕と、僕が仲間だと認識している相手の術式変換効率を上げる補助魔法を掛けておいたんだ。──つまり、僕と雪吹と露華は少ないエネルギーで魔法が使えるってこと」

「でも……この結界を維持しているなら────」

「大丈夫だよ。僕、四枚羽だから」

「……」


 ───そういえば、四枚羽の持つ魔力の量って、普通の天使よりかなり多いんだっけ。


「低級魔法の連発ぐらいはこの結界無しでも平気なんだけど……有利にしておくのは悪い事じゃないから」


 笑顔を浮かべて俺に説明しながら、癒既は光珠さんや宝剣が放つ炎や雷撃を簡単に障壁で防いでいた。

 ………って、いつの間に防御魔法の詠唱してたんだろう?


「露華!」


 癒既が障壁を張ったまま叫んだ。

 直後、光が一閃し、宝剣へと向かう。


「エ・ロマム!」


 素早く鑑が障壁でそれを防ぎ、彼らは地上付近で弓を構える露華を見た。


「お前……紅梨はどうした?」

「姉貴? ちょっと眠って貰った」


 露華は尋ねた宝剣に向かって不敵に笑って、地上で横たわる紅梨さんを指差した。


「癒既! この結界の中なら少ない力で術使えるんだよな!?」

「うん! 上級の術なら中級レベルの力で……」

「なら……」


 露華は何か思い付いたような顔をしている。

 それは例えるなら子供がいたずらをする時のような悪だくみしている顔───。


 …………何だろう。

 露華がそんな表情をしてる時って、本当に怖いことを企んでそうで不安なんだけど。


「っ……露華、まさかてめぇっ……」


 宝剣が何か思い当たったようだった。

 露華はにっと笑うと弓を消して、呪文を詠唱し始めた。


「イアケソ・ニエ・ネグス・オズオサ・ガ・ウィソロバメム・ヤホコ───」

「ちくしょっ……やっぱそれかよ! 鑑、光珠!」


 宝剣の号令で鑑達が動き始める。

 三人が狙うのは──露華。


 ────やらせるか!


 露華が何をしようとしているのか分からないけれど、俺は剣を出現させて露華と三人の中間地点に移動した。


「雪吹! そこをどけえええぇぇっっ!」

「露華の邪魔はさせないっ!」


 宝剣が振り下ろした剣を、俺は自分の剣で受け止める。


「ネソラヘナティー・キニキクル!」


 そして唱えた言葉は今まで俺が使うのを躊躇っていた術の呪文。


 詠唱を締め括ると同時に光の刃が雨のように宝剣の後ろに追い着こうとしていた鑑達に降り注ぐ。


「うわっ!」

「くっ……!」


 鑑と光珠さんは同時に障壁を張り、それを遮った。


「っ……雪吹! その魔法は────」

「ウオ・ノホニ・マワイ!」


 鑑がハッとしたように俺を見た瞬間、今度は癒既の放った闇色の炎が鑑を狙った。

 鑑は言いかけた言葉を呑み込んで再びそれを耐える。


「……イア・ケサガ・アワホコクザラ・イヌチズ────」

「っ! やば……」


 宝剣の表情に焦りが満ちた。


「────ネガ・ホ・コケイ!」


 露華の詠唱が締め括られる。

 その直後。宝剣、鑑、光珠さんの三人の姿は俺達の前から消えた。




 ***


(side 露華)



「ふう……」


 オレはちゃんと術を発動できて一息吐く。


「さんきゅ。雪吹、癒既。助かった」

「どういたしまして」

「……で、何の術使ったの?」


 礼を言うと、癒既からは笑顔が、雪吹からは質問が返ってきた。


「ん? 幻想結界」


 癒既の笑みにつられて笑いながら雪吹に答えると、雪吹は溜息を吐いて頭を押さえた。


「……あの悪だくみ顔はそういう訳か」


 幻想結界は結界内に取り込んだ相手に幻を見せる結界だ。

 何処か納得したように雪吹は呟いてから、オレをじとっと見る。


「……露華がああいう顔した時って、結構物騒なこと考えてるって思うんだけど──どんな恐ろしい結界の中に鑑達を取り込んだの?」

「よくぞ訊いてくれた! 今回のはすげーぞ! まず今回の幻は精神に働く幻で────」


 オレは意気揚々と今回の幻の説明を始めた。簡単に言うと割とえげつないトラウマものな幻が結界の中でうねっていたりする。


 ─────うん。まあ、調子乗って説明したことは後で後悔したけどな。


「っ……へえ……。それはそれは素晴らしい結界だね」


 雪吹の表情は笑顔。

 だけど纏ってるオーラは何というかどす黒いような……。

 オレは首筋に何か冷たい物が這ったような感覚を覚え、後退りする。


 ………やべ、やりすぎたか?


「い…雪吹……落ち着い…「俺は十分冷静だよ?」は……はいっ!」


 癒既ですら雪吹に一瞥されただけで震え上がる。


 ────ちょ、これ……マジでやばいっ……。


「露華……。ちょーーーっとお話しようか……」

「……は、はい」


 …………そして、雪吹からの“お話”が終わった後オレはしっかりと反省しました。

 今後、やりすぎには気を付けます…………。



 ***



「そうか……。管理局が……」


 帰宅してから、オレ達はアストに宝剣達と戦ったことを話した。


「それで、どうする? このままでは埒があかないだろう」

「……うん」

「……その前に、露華。教えて欲しいんだけど」


 オレは雪吹ではなく癒既が話を切り出してきたかと思いながら頷く。


「……何?」

「……露華が天界から逃げ出した本当の理由って──何?」


 嘘や隠し事は許さないとばかりの鋭い眼差し。オレは苦笑して癒既を見た。


「今まで言ってきたのも嘘じゃねーよ? ……まぁ、それ以外にも理由はあるけどさ。……丁度いい機会だし、少し話すよ」


 いつかは話すと決めていたとはいえ思ったより早く話すことになった。ここはやっぱり家のことから説明するのがいいだろうな……。

 オレは話す順番を考えて決める。


「……オレは天界で有名な騎士の家系である望月家の現在の当主の息子──四人兄弟の末っ子だ」

「望月って名前の天使はたくさんいるから……まさか露華がその望月家の子だなんて全く気付かなかったよ。でも、よく考えたら……今更だけど引っかかることはたくさんあったね」


 雪吹は眉間に皺を寄せて小さく呟いた。


「……悪い、雪吹。いつか言おうとは思ってたんだ。でも、今までそれを知った奴は態度が急に変わったからさ……言えなくて」


 ずっとツルんでた奴にオレがあの望月家の子供だとバレたら、いつも急によそよそしい態度をされる。

 望月家は高位の天使を出してきたいわゆる名門の家柄だから周りはオレの顔色を伺ってくることが多い。

 何度もそういう事があって、それが嫌だったからオレはずっと言えずにいたんだ。


「それに、オレはあの家が嫌いだからあまり言いたくなかったんだよ」

「……露華」


 雪吹が何を言おうか迷っているのが分かる。オレは笑顔を浮かべた。

 

「オレは家の規律に縛られて、天界に縛られて──見えない拘束に縛られて生きるのなんてまっぴらごめんだ。決められたレールの上を走らされるくらいなら、何処に辿り着くかは分かんねぇけど脱線して自由に走り回りてーもん」


 そう言ったら、癒既がくすりと笑った。


「……なんか、露華らしいね」

「だろ?」


 にやっと、オレは笑ってみせた。


「でも、こんな風に考えてる馬鹿を天界に連れ戻そうなんて、親父達も何考えてるんだか……」


 さっさと諦めて欲しいんだけどな。


「……オレは兄貴達みたいな色付きでもないし、アホだし、あの家にとっちゃ異端だろうに」

「……そう言えば紅梨さん、紅い羽だったね。……お兄さん達もそうなの?」

「んー。一番上が水色でー、二番目が黄色。でオレだけ一応白」


 普通の天使の翼は白。

 だけど稀に姉貴達みたいに色付きの翼を持つ奴が生まれる。

 白以外の色の翼を持つ天使を、多くの奴は「色付き」と呼んでいる。

 色付きの天使の特徴はとある属性の力に秀でているということ。


「姉貴は紅だから炎属性の術の威力は半端ねーんだよー」


 オレはテーブルに突っ伏す。


「でも、露華は色付きじゃないけど幻影魔法は得意だろ。自信ある特技があるならいいじゃないか」


 雪吹に呆れたように言われた。


「俺なんか天使術は補助魔法が少し得意なだけで自慢出来る程じゃないし」

「……その代わり、魔術に関しては普通の魔族が使う術よりも威力は強いが」

「…………」


 雪吹はアストの言葉に複雑そうに微笑んだ。







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