第十一回イベント-白熱する戦闘
カナとグレイスが相対していた敵のアーマードスーツが緑色に輝きだした。
「まさか、コイツらもシンギュラリティってわけじゃないよな」
グレイスが焦りを隠せない。
「まさか、ここにきてそんな安売りしないでしょ」
カナはあくまで平静を保ったまま戦闘を続ける。
一方、ハナサギ達が対応していたアサルトシップも三機に呼応するように緑色に輝き出していた。
「緑に光ってる、シールドか?」
俺はシールドを貫こうとアサルトシップに突進する。
エナジーソードと緑の光がぶつかって眩い光が迸る。
「貫通出来ない!」
俺は直ぐにアサルトシップから距離を取った。
「シールドなのか?」
《こっちの敵も緑に光ってるよ》
カナが報告する。
《飽和攻撃だ、シールドだって無限じゃない。最大火力で叩くぞ!》
エレンが指示し、味方のプレイヤー達が後に続いて破壊的な火力をアサルトシップに撃ち込む。
アサルトシップが炎に包まれていく。
《このまま畳み掛けるぞ!》
誰かがそう言ってアサルトシップに突っ込んでいく。
《うおおおおお!》
大勢のプレイヤーもエナジーブレードを手にアサルトシップに突撃する。
《まて、無闇に突っ込むな!》
エレンが急いで忠告するが遅かった。
緑色の半透明な球体がアサルトシップを覆うように展開される。
近くにいたアーマードスーツはもれなく巻き込まれて撃墜された。
「あちゃー、これまずいね」
ヴァリュートが青ざめて言う。
ミネーも頷く。
「あれだけいた奴らが一瞬で」
その声には恐怖が滲んでいる。
《くっ、本体は全くの無傷か。飽和攻撃ですらシールドを破れないなんて》
エレンが忌々しげに唸る。
「シールドを消す方法は.....もしかして」
俺は緑色の光を見て閃いた。
「何か分かったのか?」
ミネーが尋ねてくる。
「確証は無いけど」
《いいわ、話して》
エレンが促す。
「カガリさんやチーターの人が戦ってる敵と同じ色なんだよ、このシールドは」
《言いたいことは分かった》
「ボクも」
エレンとヴァリュートが攻撃目標をまだ残っている赤蛇に変更する。
「な、何やってんだ?」
ミネーが困惑する。
《あの三機が緑に光ってる時、あのアサルトシップのシールドが発動するんじゃないかって仮説よ。ユカ、スキャンしてもらえる?》
《分かったわ》
ユカはレーダーを操作してアサルトシップ周辺のエネルギーを探知する。
するとハナサギの仮説を裏付ける反応がみられた。
《三つのエネルギーがアサルトシップに流れ込んでるわ。出所はユカ、グレイス、カガリが交戦してるアーマードスーツからの》
ユカからの報告を受けたエレンがハナサギを褒める。
《でかしたわよ、ハナサギくん!》
《つまり、そのはんぺんみたいなやつに勝てるかは私達次第なんだね?》
カナが通信に乱入する。
《案ずる事はない、敵はエレンぐらいの実力しかない。苦戦することもないだろう》
グレイスもナチュラルにエレンを見下したかのような発言をする。
《苦戦することないんだったらさっさと墜としてくれない?》
エレンが嫌みったらしく言う。
《まかせろ》
《了解》
カナとグレイスはそう言って改めて緑色の光を帯びた敵と向かい合う。
「ロイ、シンギュラリティを消そうなんて本気で思ってないよね」
カナがそう言いながらロイのアーマードスーツに斬りかかる。
「約束は守るって言ってたしな、アイツに言ってやったんだ、『スペースウォーリャーズ2』で頂点に君臨するのはこの俺だ!ってな」
「約束ぅ?捨て駒ごときの約束を運営が守るとでも?最悪のチーターの右腕だぞ?」
「反故にされたらされたで解らせればいい。誰が頂点かを」
カナの搭乗機であるエリアルバレルディがミサイルを放つ。
「そんな実力ねぇな、お前には」
カナがロイを嘲る。
「お前はブルーファイターズより上のステージに行ける器じゃ無いんだよ!」
「んだと.....言わせておけば!」
ロイのアーマードスーツからファンネルが射出される。
「はたき墜とせ!ファンネル!」
「結局自分で動かねえんだな?ああ?」
エリアルバレルディがファンネルを全て切り裂いた。
「お返ししてやるよ」
今度はエリアルバレルディからファンネルが射出される。
その数三十。
「なんだその数は!」
ロイが憤る。
「正々堂々やりやがれ!」
ファンネルを操りながらカナが嘲る。
「マヌケ、チーターが正々堂々やり合うかよ!」
ロイのアーマードスーツがファンネルの激しい攻撃に曝される。
「舐めんじゃねえぞ!」
その攻撃ももろともせずロイはエリアルバレルディに肉薄した。
「耐久値を弄ってるのか、お前の入れ知恵か?」
エリアルバレルディの眉間からレーザーが発射された。
「ちっ!」
ロイは機体を回転させて避けた。
「まだまだ!」
エリアルバレルディがライフルをありえない速度で連射する。
「テメェ、チート使ってんじゃねぇ!」
「分かったよ、チートなしでやってやるよ!その舐め腐った根性叩き直してやるよ!」
ライフルをパージし、エナジーソードに換装する。
エリアルバレルディとロイのアーマードスーツが激しくぶつかり、エナジーブレードで斬り合う。
グレイスの方も激しい戦闘を繰り広げていた。
敵はプライマルクランのグレンダと言うらしい。
機体名エリアルグリューン。
相対した時律儀に名乗っていた。
「君はプライマルクランを裏切ったのか?」
「裏切る?そもそもあいつに忠誠を誓ったことはない」
「なんで運営の手駒に?」
「そりゃ俺もシンギュラリティになって『スペースウォーリャーズ2』で無双するんだよ。こっちじゃいつもカガリに美味しいところを持ってかれるからな。あんなチートもどきじゃなくて俺の方が頂点にふさわしいってことを知らしめてやるのさ!」
「目の前の敵に十分も時間をかけても墜せない男がシンギュラリティに?皆に頂点にふさわしいと知らしめる?片腹痛い!」
「お前は単なる前菜、いや取るに足らないお冷だッ!
そんなお前に俺の崇高な思想が理解出来るはずもあるまい!お前が俺の思想を理解する時、それはッ!」
エリアルグリューンがビームアックスを振り上げる。
「お前が俺に墜される時だッ!」
エナジーブレードとビームアックスが激しく衝突し、迸った閃光が二機を照らす。
「一生こなさそうだな、思想を理解する時は」
エリアルバンシィがエナジーブレードを振り抜く。
エリアルグリューンの体勢が崩れる。
「甘いッ!」
エリアルグリューンの股下からエナジーブレードを装備した隠し腕が現れ、エリアルバンシィの横薙ぎの一閃を受け止めた。
「武装の少ないエリアルは追撃の手段が乏しいのは知ってるだろう?大体ブレード握って突貫だ。相手は大体避けられない、俺みたいにその特徴を利用するか、ずば抜けた動体視力がなければな」
エリアルバンシィが追撃を仕掛ける。
体勢を整えたエリアルグリューンが猛烈な勢いでレーザーアックスをエナジーブレードに打ちつけた。
エリアルバンシィの手からブレードが弾き飛ばされる。
「ふはは!お前は丸腰ィ!さあ、足掻いて魅せろ!もっとも、エリアルでは無理そうだがなァ!」
エリアルグリューンがビームアックスを大きく振りかぶる。
その瞬間、エリアルバンシィの腹部のパネルが開き、レールガンがせり出した。
「え?」
グレンダが腑抜けた声を漏らす。
「優れた動体視力とやらで避けろよ」
グレイスがそう言ってレールガンを発射した。
「おぬんッ!」
グレンダは断末魔を残してエリアルグリューンとともに燃えた。
⭐️⭐️⭐️
「どうした?チートがないと動きにキレがないぞ?」
ロイがカナを煽る。
『さーて、どうすっかな』
エリアルバレルディを駆りながらカナが思案する。
『コイツはあたしの戦い方を見慣れてるしな。正面から突っ込んでも相打ちだろう。まだアサルトシップが残っている以上、相打ちは得策じゃない。あいつが油断するチートでいくか』
カナがライフルを構えて敵の顔面めがけて乱射する。
「目眩しのつもりか?落ちたもんだな」
ロイが呆れたように言う。
「落ちたかどうかは自分で確かめな」
カナはそう言ってエナジーブレードを装備する。
「正々堂々、一騎打ちだ!」
カナが叫ぶ。
ロイも呼応する。
「望む所だ!カナ!チートでしか戦えない弱者は.....」
機体に大きな衝撃が伝わる。
「なっ!なんだ!?」
ロイの機体にエナジーブレードが突き刺さっている。
「さっきの目眩しの間にブレードを投擲したのよ」
カナがぶっきらぼうな口調でロイの機体の後ろに回り込む。
「なに?でも武器は自動で戻ってこないはず」
「武器が自動で戻ってくるチートだよ、言ったろ?チーターが正々堂々勝負するかよ、って」
「クソが.....」
エリアルバレルディがエナジーブレードを抜き取る。
ロイの機体が爆発する。
カナが一息つく。
『上手く刺さってくれて良かった。かなりの賭けだったけど楽しかった』
《カナ、終わったか》
グレイスが尋ねてくる。
「バッチリよ。後は」
《あぁ、カガリ次第だ》
二人の真上では緑と蒼の軌跡が何度も何度も切り結んでいた。




