検問所
道中、自称王女が何か慌てたように体中を触りまくっていた。
「無い。無い!」
「うぉっと、びっくりしたなぁ。なんだ急に。」
「私の身分紋章が無い...。」
絶望したのか、顔が青ざめていた。
「そんなもん無くたって、自国の王女さんだったら一目見ただけで分かるんじゃねえのか?顔パスってやつはないのか?」
「ジェイ王国では、完全実力主義の場所です。そんな中でも王位継承者だけは、免罪符という形で身分紋章で立場を分からせています。その紋章を保持していないと...。」
「王女だとしても王女とは見なされないということか。」
だとすれば、俺の金は支払われない?ということになるのか。
口約束という形の契約だが、契約違反は大罪だ。
「はい...。どうしましょう。」
「なぁ、王国に入るときに検問所みたいのは無いのか?」
「ありますけど...。」
「じゃあ、そこでおまえを引き渡してもらうわ。」
「えっ。」
状況がいまいち飲み込めていない女の子の腕を掴む。
突然掴まれたことに、女の子は驚き、抵抗してきた。
「な、何をするんですか!?」
「おまえ立場というものが分かってないのか?今のお前はただの女の子、それにおまえは俺に金を払うと約束した。案内料という形で半額にしたが、王国に行っても対価が支払わなければ意味がない。」
「そ、それは...。」
「だから、検問所でおまえを俺から水を奪い取った泥棒野郎ということで引き渡す。」
「ど、泥棒!!?」
「契約違反は大罪だ。」
「盗んでいません!あなたから頂きましたし、確かに身分紋章を無くした私のせいでもありますけど、いくら何でも酷すぎではありませんか!?」
「さぁな。」
そう答えたら、さらに非難され続けた。
それを聞こえないふりをして、案内された道を進んでいく。
嫌がって、女の子は腕を振り払おうとするがびくともしない。
だんだん見慣れた景色になってきたのかより一層強く抵抗してきたが、俺は無理やり連れていく。
そんなことをやっていたら大きな外壁と検問所が見えてきた。
今の俺は傍から見れば嫌がる女の子を無理やり引っ張る鬼畜いかれ野郎だろう。
人々はゴミを見るような目で俺を見てきたが無視した。
検問所に着いたので、俺は女の子を先ほどの罪状で引き渡した。
「おい、そこの寝てる門番?仕事だぞ。」
「あぁ?」
「こいつは自称王女様とやらで、俺から貴重な水を奪い取り、金を支払わずに俺を騙した最低野郎だ。」
「...お、王女様!?お怪我はございませんか!?」
は?
こんなやつが王女なわけ無いだろうが。
この国のやつらは目が腐っているのか。
「む、身分紋章が無い...?」
「っ!」
「そうだ、こいつは身分紋章が無い。つまりどこの誰かも分からないんだよ。」
「いや、普通に王女様と分かるんですが。もしや、この男に襲われていたとか?」
「え!い、いや...。」
なんで、黙るんだ。
怪しまれるだろうが俺が。
「やっぱり!おい誰か兵隊に連絡しろ!」
門番が騒ぎ出した。
異常事態に門の中から槍を武装したやつが駆けつけてきた。
「何事だ!...王女様!!?おい、何をやっている。そのお方は王位継承権第3位のアルシェ王女だぞ!」
この展開、完全に俺が悪者じゃねえか。
このすべての元凶の看板、あれをあそこにさしたやつをぶっ殺してやる。
「おい、どういうことだ。お前の話とだいぶ違うようだが?」
「な、なんでですかねぇ...。」
こいつもなんでか知らないようで、困惑していた。
こっちの事情も知らずに兵隊とやらは多くなっていき、俺は囲まれた。
囲まれた中から、一人、大きな剣を携えた男がやってきた。
「王女様を開放しろ。」
「じゃあ金よこせ。」
「身代金ということか?」
「違うわ。水代だ。7銀貨、5銅貨だ。はよよこせ。」
聞き分けが良いやつなのか、一瞬嫌な顔をされたがすんなりと金を渡してきた。」
「ほら、請求金額だ。」
「......、きっちり入ってることを確認した。ほら、さっさと行け。」
女の子を放して、押し付けてやった。
「王女様の無事を確認、身分紋章が無いようだが、おそらくこいつに取られたのだろう。こいつを拘束する。」
「ぁ、い、や。これは違くてぇ...。」
おまえが弁明しないと俺は不利なままなんだが!?
おい、しっかりしろよ。
「こいつを捕らえろ!」
あっちもあっちで完全に頭に血が昇っているのか耳を傾けようともしない。
「先に手出してきたのはそっちってことで。」
突き出してきた槍をそのまま掴み取る。
無論、突き刺されて血が噴き出るが、痛みは無い。
兵隊は俺の行動に驚いたのか一歩引き下がった。
「【異界・一片・『魔淵の森』】」
貫通した手から槍が勝手に抜け、その穴から土や枯れ木、水滴が出てきた。
ぽたぽたと垂れ、それらが地に着くと、一瞬で広まり、樹々が生え、湿った土地が生まれた。
「【異界・一片・『迷い』】」
この一言で俺を囲んでいた兵隊たちは何かに取り付かれたかのようにいろんな方向におぼつかない足取りで消えていった。
「な、なにをした!?」
「ちょっと廃人になってもらおうかと。いい加減そこの王女様の話を聞いてやったらどうだ?」
ちらっと男の横を見ると、王女様は酷く震えて、ぶつぶつつぶやいていた。
「王女様!どうしました!?」
「わ、わ...。」
「わ?」
「私が悪かったですぅ!!!!!」
森全体、検問所まで聞こえる大きな声でそう叫んだ。