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バシー地方

俺が住んでいたのは、王国領の端っこにあるバシー地方。

バシー地方と言えば、貴族ご用達のお茶や庶民にも比較的人気なお菓子の原材料である小麦の産地として有名だ。

でもそれはバシー地方でも真ん中の話。

『魔淵の森』という生命を拒む恐ろしい森があるのだが、俺はその名で呼ばれる前からそこに住んでいた。

極まれに森の噂を聞いたのか、冒険者がやってくる。

しかし、森に踏み込んだ者は森から出られることなく、歩き回って体力っが尽き俺の家の前に朽ち果てているので、ちょっと前までは、人殺しの森という名前で広まっていた。

まぁそんな森も今さっき無くなったわけだが。


「ここも久しぶりだな。あ、そうだせっかくだしダリ爺さんのとこに顔出してみるか。」


バシー地方でも有名なダリ爺さん。

若いころは、この地に眠る大翼竜を一人で討伐したとかで凄い人なんだと自慢されたことがある。

たしか森から近かった家に住んでいると思うので寄ってみよう。

しばらく歩くと、俺が思っていた家とは異なった、でかい家があった。

門には兵士が二人立っていて、その家の周りには綺麗なお花畑が広がっていた。

兵士たちは近づいてくる不審者である俺を睨んできた。


「おい、何者だ。」

「まぁまぁ、ちょっと挨拶をしに来ただけですので、そうかんかんしないで...。」

「挨拶?なにか招待状でも持っているのか?」


招待状...?あの爺さんはこんな家には住んでなかったし、記憶違いかな。


「すみません、多分俺の勘違いですね。ちなみになんですけど、ダリ爺さんって人ってどちらにいますかね?」

「む。あの方をそんな不敬な名前で呼ぶな!さては貴様、この屋敷を狙う賊だな?」


なんでそうなる。勘違いも甚だしい。

にしても、ダリ爺さん何かしたのか?

少し考え込んでいると、門の前で揉めているのが気になったのか、敷地内に女の子が現れた。


「なにを揉めているの?」

「お嬢様、賊です。ここから離れてください。」

「賊じゃねえってば、俺はダリ爺さんに挨拶しに来ただけなんだってば。」

「お爺をそのような風に呼ぶ人......はっ!もしかしてあなた、エルさんという人ですか?」

「ん?なんで俺の名前しってるんだ?」

「そうですか。あなたですか。門番、通して良いですわ。」

「し、しかし、こんな怪しい者を...。」

「私とお爺の命令です。エルさんを通しなさい。」

「わ、分かりました。で、ではこちらにどうぞ。」


納得がいかない兵士達はぎこちない案内で俺を敷地内に入れた。

あちらのお嬢さん?はどこか悲しそうな表情で空を見ていた。


「ダリ爺さんは元気にしてるか?」


お嬢さんの顔がぎこちない笑顔の顔になった。


「...ぇえ、お爺は......その。」

「?」

「もうすでに他界しました。」


過去一といってもいいほどのショックが全身を駆け巡った気がした。

そんなに時間が進んでいたのか。


「あぁ、それはすまん、俺の配慮が足りていなかった。」

「い、いえ、大丈夫です。エ、エルさん?」

「ん、なんだ?」

「お爺があなたに渡したいものがあると、ずっと言っていました。お爺は、亡くなる直前まで私たち家族の事、それからエルさん、あなたのことをいっぱい語ってくれました。老衰という形でお爺は逝きましたが、お爺の言っていた通りの人が現れ、お爺も今頃、天国で笑っていることでしょう。」

「そんなに熱烈に語り合った覚えは無いんだがなぁ、それで、渡したいものとは?」

「こちらにあります。どうぞお入りください。」


案内されたまま、お屋敷の中に入ると、まず目に飛び込んできたのは、ダリ爺さんの笑顔の肖像画があった。お嬢さんはどこか恥ずかしいのか、肖像画には触れず、そのまま部屋に案内された。

自慢が生きがいじゃ、とか言っていたけど、あれは流石に度が過ぎているというか、ダリ爺さんらしいとも言えるが。


「この部屋です。お爺が暮らしていた部屋でエルさんに渡したいものがあります。どうぞ。」


部屋の扉を開けると、大きな長机に本やら紙やらが散らばってあった。

横には大きな斧と服が飾られていた。自慢話にでてきた武器があれなんだろう。


「お爺の部屋は当時のまま保管されています。

渡したいものなんですが、エルさん鍵って持っていますか?」


か、鍵?ダリ爺さんから何か貰った覚えは.........、あぁ、一回だけあったかもな。

酔っていた時にポーチに何か無理やり入れられたような気がする。


「ちょっと待ってな。今探してみるわ。」


ポーチの中に手を突っ込み心の中で鍵、と言った。

手に吸い込まれるかのように小さな物体を掴んだ。

ポーチから手を出すと茶色く変色し、ところどころ錆びた小さな鍵があった。


「そ、その鍵を机の下の鍵穴に差し込んでみてください。」

「......お、はまったぞ。」


ゆっくりと鍵を回すと、かちり、と音を立て引き出しが開いた。


「家族内でもここの引き出しは問題となっていて、誰もその鍵を譲り受けていなく、開かずの引き出しとなっていました。お爺の遺言にエル、という方なら開けることができ、その中身はそのまま差し出す、と書き残していました。」

「ダリ爺さん...、ん?これなんだ?」


引き出しにあったのはブローチと石。

に見えるが、俺からすると、とんでもない魔力を保持したブローチと、かなりの上位の魔石だ。

魔石は形と独特の色味から、おそらく大翼竜のものだろう。そして、その魔石を使って作られたブローチ。


「それと、それを見たエルさんに一言、言うように頼まれています。

「っはっは、自慢だらけで悪かったな、見たか?これが儂の証だ!先逝っとるぞ、まだ来るんじゃないぞ。おぬしには儂の倍以上の自慢話をしないといけない。儂の友としての最後の願いじゃ。またな!」と。」

「なるほど、ダリ爺さんらしいな。」

「ところで、それらっておもちゃですか?」

「これらはな、あんたの爺さんの生きた証だよ。こっちのブローチはあんたに、こっちの魔石は俺が貰うぜ。」


このブローチはこの家に残しておかないと、そのうちダリ爺さんに怒られそうだ。

こっちの魔石はこの家には不必要な物だろう。

ポーチに入れ、困惑しているお嬢さんにブローチを押し付けた。


「ダリ爺さんのことだから、何も残さなかったんだろ?そのブローチ大翼竜のブローチだから、家宝兼ダリ爺さんの生きた証として大事に守っていって欲しい。」

「そうですか...。ありがとうございます。」

「じゃ、俺はここら辺で。ダリ爺さんのご家族とこの土地に住む人々に幸多からんことを願って。」


泣いているお嬢さんを部屋に置いて、何事も無かったかのようにお屋敷を出た。

門番は数分で出てきた俺を見て驚いていた。


「バシー地方、また帰ってくるぜ。そん時は爺さんの墓参りもするからお嬢さんによろしくと伝えておいてくれ。じゃ。」


予想外の出来事だったがバシー地方の良い思い出となったことに感謝しつつ、俺は再び歩き出した。

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