街中の秘密基地
プロローグ
誰しもが1つくらい幼き頃の『思い出の場所』というものはあるだろう。近所の駄菓子屋、みんなで集まった空き地、学校帰りに寄り道した商店街・・・。。
一人ひとり違うがその分の数だけ思い出の場所はある。その中で紡いでいく思い出も唯一無二のものである。その思い出は大人になった時も意外と色あせずに脳裏によぎっていく、そんなものだ。私、貴弘にもそのような場所がある。
第1章『思い出の場所』
高校3年生の貴弘は生まれてから今まで山奥の田舎街で過ごしてきた。元々は栄えていて、小さなミニシアターやカラオケ喫茶、商店街など遊び場があったが今はほとんど廃業している。その中でも貴弘は幼き頃から商店街の外れにあるゲームセンターで友達と戯れ、日が沈む間まで遊んでいた。よく時間を忘れて遊んでいて門限を破り親にも叱られたもんだ。そんなゲームセンターは私達以外利用客もいなくて、管理しているおばちゃんにも認知されていたっけな。そんな密接な関係を築いていて、友人とのコミュニケーションの場だったレトロなゲームセンターはもうすぐ閉業する。私含めみんな大学生になりこの街を離れるからなのか、単に管理者の年齢の問題かはわからないが大人なりの理由があるだろう。実際私も高校を卒業したら東京の大学に行き、この街から離れるのだ。だからこそ、この思い出の地でやりたいことが私には会った。
「もう一度、みんなで集まりたい・・・」
そう思った貴弘は、とある計画を立てるのであった。
第2章『秘密の計画』
貴弘は、すぐさま親友の光輝に連絡した。
「昔から集まっていたあのゲーセンが無くなる前に、みんなで集まろうよ。だから一緒に呼びかけてくれないか」
そう頼むと、光輝は了承してくれた。
計画が決まったからには、速攻片っ端から幼なじみに連絡した。光輝も手伝ってくれたおかげでかなり多くの人を集めることができた。しかし、貴弘はどこか浮かない顔をしていた。貴弘は、思い出の地にみんなで集まりたいと同時に、もう一つ目的があった。それは当時クラスのマドンナであった日向にあって、思いを伝えることであった。
日向は小学生の頃の同級生でで、同時に多くの人からちやほやされるマドンナ的存在であった。明るくて活発で人当たりが良く太陽みたいな少女に私も心を奪われていた1人だった。そんな彼女は意外な一面があった。それはゲームが好きでよく私と同じゲームセンターに通っていて、一人でゲーセンに通って格ゲーに没頭するくらいのゲーマーぶりであった。私はそんな日向に対し仲良くなろうとゲーセンで声をかけ、一緒に格ゲーをやっていた仲だった。実際話せて仲良くなれたことはうれしいが多分あっちはゲームが好きなクラスメイト君くらいの認識なのだろう。日向は複数人になっても変に意識とかせず同じようにゲームに没頭していた。高校に入ってから日向は街を出たのでゲーセンに来ることも、話すこともなかった。
私は日向にもゲーセンで集まろうと連絡はした。しかし日向からは既読がつくだけで、返信はなかった。だからみんなで集まれるのはうれしかったが、日向は忙しくてこないのだと思って複雑な感情が入り交じっていたのだ。しかし時は一刻と過ぎる。やるせない気持ちを心にしまって、ゲーセンで集まる日に向けて、準備するのだった。
私と光輝は、ゲーセンに交渉をしにいった。同窓会のていで特別開放・貸し切りをお願いした。ゲーセンのおばちゃんは、
「あなたたちにはお世話になったからゲーセン最後の日の夜、自由に使って良いよ。翌日の昼工事が始まるからそんな時間はとれんけどね。」
やさしいおばちゃんのおかげで交渉に成功した。その後、光輝は私に
「せっかくだから、少し遊んでいかない」
と提案され、少しの時間を楽しんだ。そして、私と光輝しかしらないとある場所も久しぶりに見に行った。
「ところでさ、あれってどうなったの?」
「あれって何だよ。」
「とぼけんなよ、おまえがゲーセンの柱の裏に書いた落書きにきまってるだろ」
そう、とある場所は私達しか知らない落書きだ。当時思いをよせていた日向と私の相合傘が柱の裏に描かれていた。今となっては痛い思い出だが当時は純粋な気持ちで描いたものなんだろう。そんな思い出話に花を咲かせながら店を出て、準備を進めていった。
集まる日はゲーセンの閉業日の夜、営業時間の後に特別にあけてもらうことに交渉し、順に招待状を送っていった。また、両替機の中にあるメダルも出して無料で提供してもらえることとなった。思い出の終点が近づいていく・・・。
第3章『約束の時間』
時間というものは非常に残酷で、約束の時はあっという間に訪れた。正直、受験勉強や引っ越しの準備もあってあの日からほとんどゲーセンに行けずじまいだった。そんな貴弘は少しでも長く思いでも作りたいと閉店時間になってすぐにゲーセンに向かった。しかしそこにはすでに親友の光輝の姿があった。
「おい、貴弘。遅いぞ。俺、閉店前からいたんだから」
聞きなじみのある声、そして大人になった光輝の姿からでも感じる幼き頃の面影がそこにはあった。別に光輝とはたまには合うがあのゲーセンで会う姿はそこか無邪気であの日々が脳裏にものすごい早さで浸透した。
ついた瞬間思い出に浸っていたが時間は有限。私は早速光輝とゲーセンで遊び尽くすことにした。
負けた方は近所の駄菓子屋でラムネを奢るのをかけて挑んでいた射的ゲーム・帰り際でジャックポットを当てて変えれなくなり親に怒られたこともあるメダルゲーム・某TV番組に似ているといつもはしゃいでいたエアホッケー・・・私は当時の思い出話に花を咲かせながら次から次とゲームを行っていった。日も暮れ始める時間になると他の幼なじみも集まってきて、さらに思い出話に拍車をかけるのであった。しかし私には気がかりなことが1つあった。そう、彼女の存在だ。いつまでたってもその姿は一向にあらわれない。そう思いつつも、他の幼なじみとの時間を楽しむため心の中にこらえ時間が経つのを忘れるまで遊ぶのであった。その風景はみんな成長しているがあの頃と全く変わらないものであった。夜も深くなってきた頃に一人の女性が来店した。
第4章『再会』
夜遅くに来店した女性の正体は日向だった。てっきり東京にいるからこれないと思っていた貴弘はその姿を見た唖然とした。日向は私達の姿に目もくれずいつもやっていた格ゲーの前に座り、一人で黙々と打っていた。その姿はあのときと変わらない光景だった。次いつ集まれるか分からない、増しては幼少期の一番の思い出の地だったこの場所に集まることはもうできないっていうのに…。私はわざわざ東京からこの場所に来てまで一人で遊んでいる日向に疑問を抱いていた。そしてそんな日向に声をかけた。
「久しぶり…みんなも来てるけど、一緒に遊ばないの?」
そう尋ねてみると日向は、
「うん…興味ない。」
その一言であっさりと貴弘突き放し、そのまままた一人で格ゲーに没頭した。
「ただ単に、ゲームが好きだから?」
貴弘は追加で質問した。
「違う、それなら東京のゲーセンで十分。みんなで遊びたいだけならもう話しかけないで。」
日向は再び冷たく反論した。日向はなぜ、なんのためにここにきたのかわからなかった。ひとついえるのはあの頃の日向から変わってしまったと思い私は少し落胆した。
その後、私は他のみんなと日が変わる頃までまで様々なゲームで遊んだが、日向は一切加勢せず最後まで一人で同じ格ゲーをやり続けてきた。その状況に私は一人、疑問を呈していた。
最後に親友の光輝に提案されて、みんなで大競馬のゲームをすることにした。大競馬とは実際に馬になるのではなくて、いくつかある馬から馬を選び、シミュレーション形式で馬を走らせ勝敗を決めるというものだ。よくみんなでそれぞれ馬を選び、負けた人はみんなにジュース奢るとかやってたもんだ。当時めちゃくちゃ熱くなったもんだなぁ。そう、一番みんなで盛り上がれるゲームだ。私達は早速ゲーセンの中にある椅子をかき集め競馬ゲームの前に並べていった。そう、あの席以外は。私達は早速活だろう馬を選んでいった。別に馬の特性とかは無く、運のみの勝負だが。でも最近はとある競馬アニメが流行ったおかげでみんなそれなりにアニメの知識から選ぶようになっていた。しかし私は幼き頃からは変わっていない。光沢に輝く黒鹿毛のディッチャだ。アニメの知識とかは全くない純粋な見た目のみで昔から選び続けているものだ。そんな話をしていると、1人の有識者が
「おまえが選んだ馬、スペイン語で幸福って意味らしいぜ、だから小学生の時やたらと強かったんじゃね?」
といってきた。どうやらこの馬は幸福という縁起の良い名前らしいが、実際は悲劇の名馬ともいわれていて現役時代は多くの罵声を浴びせられたり、壮絶な最期を迎えたりするなど幸福とほど遠い存在だったらしい。と教えられた。私はふーんと受け流す程度だった。むしろみんな純粋に遊べなくなっているのではないかと思い、予想外のところからここでの思い出の終幕を迎えた気がした。なんだかんだあってみんな馬を選び終わりレースを始めようとした時、後ろからと合う声が聞こえた。
第5章『大競馬』
日向の声だった。
「私も、やりたい・・・」
突然の日向の参戦にみんな声を失った。誰しもが格ゲーにしか興味が無いと思っていたためだ。
「私も、みんなと盛り上がりたかった・・・。」
その後も何か言いたげだったが言葉が詰まっているようだった。光輝が
「じゃ、好きな馬を選んで」
と日向に訊くと、
「・・・ディッチャで。」
そう一言つぶやいた。私は自分と同じ馬を選んだ馬にはっと驚くも、顔に出さないように以外そうなリアクションをとった。みんな自分の馬を選び終わると光輝が音頭をとった。
「じゃあ、今回の罰ゲームは、、、最下位の馬を選んだ人全員でここの掃除な。感謝の気持ちがみんなあると思うから罰にもならないと思うけど」
そうふざけたおす光輝に一同ブーイングの嵐だったが、このくらいでないと面白くない。みんな納得してレースが始まった。
レトロなファンファーレの音と共に馬が一斉に走り出した。私達の賭けたディッチャは順調なスタートを決めた。最後のレースは接戦のまま第4コーナーを迎えた。終盤の局面にむけてみんな次第にあつくなっていく。ただ祈りをあげる者、声を荒げて応援する者、中には椅子からたって応援する者などそれぞれがそれぞれの形で最後の競馬を楽しんでいた。そして馬たちはゴールにほぼ同時に入っていった。ゲームが空気を読んでいるかのような大接戦で私達の最終レースを彩った。肉眼でも分かるか微妙なレベルの接戦だった。そして掲示板に順位が順番に映し出されてく。1着5番トクダイテイオー、2番3番メグロジョオウ、3着2番ヨキネーサン・・・6着1番ディッチャ。
みんなが大歓声をあげたり落胆したりする中私は自分の馬が最下位になってしまっていて声を出せずただ呆然していた。みんなの声が一旦落ち着くと主催の光輝が、
「じゃあ今回の最下位はディッチャを選んだ貴弘と日向ね。この後解散したら感謝の気持ちを込めて掃除してからかえってね。じゃあ、日をまたいだことだしそろそろお開きにしますか。」
みんな最後の瞬間に泣き笑い。僕たちの思い出の時間は一瞬動き、そしてアルバムの最後に深く刻まれたのであった。みんながぞろぞろと帰る中、私と日向は2人、閉店後のゲーセンに残されたのであった。管理者もいない、ただ2人きりの空間だ。日向は私に向かって
「じゃあ、掃除しよっか。罰ゲームだし。」
私と日向は、掃除を始めた。
第6章『二人だけの秘密基地』
2人は、店の端っこにあった箒を取り出し、埃まみれの床を掃いていった。私はとてもだるい時間であると同時に、日向と二人っきりのこの空間に複雑な感情を抱いていた。もともと好きだった淡い恋心、なぜ急に日向が競馬に参戦しようと思ったかという疑問心、深夜男女2人きりになると芽生えてしまうちょっといけない感情・・・そんなもやもやしたのを脱却しようと私は日向に話しかけた。
「あのさ・・・」
「あのさ・・・」
まさかのかぶってしまった。余計気まずい雰囲気になりながらも私は日向に訪ねてみた。
「なんでさ、競馬に参加したの?」
そう訪ねると、日向は重い口を開いて語ってくれた。
「私は、みんな競馬してる姿見て、うらやましいと思っていたんだ。だけどね、そこでもう完結している気がして入り込めなかったの。でも、どうしてもその熱いレースの輪に入りたくていつもこっそり見てたんだけど、話しかけることができなかった。でも、そのことをずっと後悔してて今に至ったの、だから、今回最後のリベンジだと思ってわざわざこっちに来たんだよ。」
そう私にいってくれた。私はうなずきながらその話を聞いていた。日向は今回やり残したことをやるために勇気を持って私達に話しかけ一歩踏み出していたんだと思った。それと同時に当時も今も日向に対して本当の思いを伝えられず。何年も経っても成長しない自分のことがとても恥ずかしく思いそんな自分に嫌気がさした。そして私はとあるものを日向にみせた。
私は、日向にちょっと見せたいものがあるといい、日向を建物の隅の柱へと案内した。正直、嫌われてもいい、引かれてもいい、ただ当時の気持ちを伝えたいと思う一心でそう誘った。
「あのさ、見てもらいたいものがあるんだ。」
そう言って私は柱の相合傘を見せた。日向はこれ何という顔を浮かべている。
「小学生の時に描いた相合傘、実は当時から日向のことが好きだったんだ。昔も今も」
私は思いきって思いを伝えた。日向はあまりにも突然の発言に言葉を失っていた。流石に引かれたかと思ったが、今までのことを伝えられたのでやけにすがすがしかった。私は切り替えて
「さーて、残りの掃除終わらせて帰るか。」
戸惑っている日向に対し話題をそらそうかとすると間髪入れずに日向は訪ねた。
「私がディッチャを選んだ理由って知ってる?」
急な質問に私は驚いた。少し考えて答えを出そうとしたが思い浮かばなかった。
「実は、ディッチャはね、思い出の馬なんだよ、、、。貴弘がやたらと推してる姿を見て自分も覚えた唯一の馬なんだ。競馬アニメの影響かと思われてるかもだけど実は全然詳しくないんだよ。」
日向は丁寧に説明してくれた。私は日向が私のことを意識してくれてたんだと思い感慨深いものがあった。さっきから勇気を出してくれた日向に対し、私からもすべて出し切ろうと思った。
「日向、良かったら私と付き合ってくれませんか。もうこの場所は壊れるけどこの場所を二人が付き合った記念となる永遠の二人だけの秘密基地にしていこう。」
本当に伝えたいことを私は伝えた。そして日向は
「貴弘、その気持ちはとてもうれしい。でも、私、東京で好きな人がいるの。ごめんね。」
私は振られた。でもこれですべて伝えることができた。私には悔いが無かった。2人は掃除を終え、思い出のゲーセンを後にした。
「じゃ、今日はありがとね。」
そういって爽やかに別れを告げた。
翌朝、私は商店街の前を通ると、例のゲーセンはブルトーザーによって次第に壊されていった。その姿と音で、あの思い出の時間はついに終焉を遂げたのだと思った。
エピローグ
X年後、私は社会人になり、東京へ進出した。現在は早朝の電車の音で目を覚まし、会社に行く毎日を過ごしている。ある日、私のスマホにとある連絡が来た。日向からだ。
「今度、五反田にある喫茶店で会わない?話したいことがあるんだけど。」
久しぶりの幼なじみの連絡に胸を躍らせながら、今日も会社に向かう。