一緒に歩く
「よう」
「おはよう、ちゃんと私よりも早くいるのは印象いいわよ」
「俺は時間は守る人間なんだよ」
今は登校時間。今日朝早くに洋海から、一緒に登校しましょう、と連絡が入り、そしてY字路の分かれ目部分に集合して歩き出したところ。
美人と一緒に登校とか嫉妬の目線が四方八方からくると思うと胃がキリキリするぜ。
「へぇ?人は忘れるのに時間は覚えれるんだ?」
「⋯⋯あのさ、たしかに悪かったと思うけどそのことで馬鹿にしすぎじゃない?もうちと優しくしてくれていいのよ?」
「私は基本的の人とは話さないの。つまりあなたと話してあげてるこれが優しさなのよ」
こいつ⋯⋯自分から誘っておいてよくも飄々と言えんな⋯⋯。
「そうか俺も基本的に人と話さない。つまり俺のこの行動も優しさってこったな」
「⋯⋯なぜかしら、あなたと自分が同じ人間だと思うと寒気を感じたわ」
「おいなんでだよお前俺のボケに対していつも辛辣過ぎない?なんで?最初あったときお前完全にツッコミ役だったじゃん」
「人なんてすぐに変わるのよ?」
疑問に納得できるようでできない答えが返ってきた。たしかに人は時間がたてば色々変わるがさっきの問いはそーゆーことじゃないんだよなあ。
「それで、昨日の帰り、大丈夫だったかしら?」
その問いに俺はビクッとした。
その問いは、俺がここに居て歩いているから何もなかったと信じて疑わないトーンだった。
しかし、実際のところ死にかけてるこっちからしたら、どうせ大丈夫だったんでしょ?に、いやヤバかった死にかけた、と重い答えを返していいものかと悩むものだった。
⋯⋯ええいもう考えるのめんどいそのまま答えてやる。
「あー⋯⋯実はさ、魔愚が出現して戦う羽目になった」
「あら、そうなのね。でも、あなたが何もなさそうってことは別にすぐ倒したってことかしら?」
「いやー、喰らったらやばかった攻撃があったから何もなかったことはないんだよなあ⋯⋯。まあ別にすぐ倒したぞ?」
「え⋯⋯?喰らったらやばかったってどのくらいなの⋯⋯?」
「ワンチャン死んでた」
そう言うと、洋海の顔は驚愕の色を見せ、真剣な顔をする。
「あなたねぇ⋯⋯、ワンチャン死んでた、なんて軽い感じで言っているけど、これからもそんなピンチに陥る可能性があるんでしょ?大丈夫なの?」
「⋯⋯大丈夫だろ。今回は油断してたんだよ」
すると、俺の楽観的な言葉を聞いたからか、洋海は歩いてる足を止め、ひどく顔を崩して、
「油断⋯⋯ね、あなたそんなのでどうするの?なんであなたはそんなに今の自分の状況に危機感を持たないの?なんでそんなに軽く物事を考えれるの⋯⋯?」
起こっているように、悲しんでいるように、早口で俺に問いかけてくる。
「おい、洋海⋯⋯?」
「今まではあなたを心配する人なんていなかったでしょうけど、今は私が心配する、だからといって私は戦えないし何もできないけれど、心配する。私はあなたが死んでしまったら悲しい」
「⋯⋯」
なにも、言えない。
自分はこれまでここまで誰かに心配されるなんて経験はないからどう反応したらいいか分からないし。なにより、洋海がここまで饒舌になるなんて思わなかった。
「だから、油断しないでね、死なないように。私の初めての友達なのだから」
「あ⋯⋯ああ、わかった。これからは油断なんかしない、肝に銘じる。だからそんな心配すんなよ」
「ええ、そうして頂戴。できたばかりの友達に、死、なんて非現実を押し付けないようにしてね」
「⋯⋯友達っていう存在を再認識したわ」
友達なんて、いてもいなくても一緒なんて思ってた。
むしろ邪魔になることだってあると思ってた。
だって、友達っていうものはよく集団になる。集団ってものは物理的にも精神的にも進むのが遅くなる。前を集団で歩かれたらひどく邪魔だ。
しかし、それはただ、互いに支えあおうとするその気持ちが生み出すスピードだと、解った。
こけた誰かを助けようと、周りを見ずに突き進む誰かを一回引き留めようと、支えようとしてスピードを落とし、一緒に行こうよ、と足並みをそろえる。そんな尊いものを俺は、軽視していたらしい。これは人生の汚点になるな。
「しかし、お前がそんなに俺を心配してくれるとは思わなかったわ」
「当り前じゃない、あなたは私の初めての友達なのよ?心配するのは常識だと思うけれど?」
「まあ、常識だとそだけどさあ⋯⋯」
なんとなく、こいつには常識が通用しないような気がしてたんだが。
「それとも、私が友達の死というものに対して何も思わない残酷な人間と思ったのかしら?」
「そんなこと思ってねえよ⋯⋯。まあ、ありがとな、お前が友達でいてくれてよかったわ」
「なっ⋯⋯!いきなり素直にならないで頂戴⋯⋯」
なんだよ、俺が素直になったらいけないわけ?恥ずかしいの我慢していったんだよ?なんなら称えてくれてもいいんだよ?
「いやさ、いままで同年代で心配してくれる奴いなかったらさ、うれしかったんだよ」
「⋯⋯はやく学校行きましょう。⋯⋯恥ずかしいわ」
「⋯⋯そうだな。俺もハッズい」
予感に過ぎないが、きっと今からの魔愚はだんだん強くなっていくだろう。
そんな中、もしかしたら危機一髪どころじゃなくガチで死にかけることもあるかもしれない。
そういう時、こいつがいてくれたらきっと心が休まるだろうなと思えた。
だからは俺はこいつが友達でいてくれてよかったと思えた。
こいつに隣にほしいと思った。
こいつに一緒に歩いてほしいと思った。
本当に、友達というものを軽視してはいけないな。
だから、俺はこれから油断しない。