美人の家にお呼ばれしたよ!やったね!
「おじゃましまーす⋯⋯」
「特になにかあるというわけでもないから。ソファに座って寛いでいて、今なにか飲み物用意するから」
まあ、親睦を深めるとか言ってこいつの家に上がってるわけだが⋯⋯。
一言でいうと、まあきれいな家だった。家具は使いやすさを求めながらもきれいに見えるように配置されており、さすが清楚な美人がいる家だな、と思った。
「しかし、両親がいるのに一緒にいる時間が少ないってのはどういう気持ちなんだろうな⋯⋯」
俺は、あいつの言葉に少し興味を示し疑問を口にする。
「別に、寂しくなんてないわよ?」
そこにちょうど飲み物を持ってきた洋海が俺に答える。
「そんなもんか?」
俺は少し疑うように洋海の顔を覗き見る。
「ええ、私は小学校高学年の時から親がこうなったけど、私はしっかりしてたから」
「そうか⋯⋯相談事があるときとかあっただろ?」
進路のこととかは親と話し合うもんだが⋯⋯。
「親にも休みはあるのよ?」
「⋯⋯そうだな」
「いきなりどうしてそんなこと聞くのよ?」
「いや、俺父親が生まれる前に死んで、母親は俺が中学に入ったら海外に行ったから、どうにも親に相談とかできなかったんだよ」
そう、俺の父は死んでいる。原因は交通事故、と母さんに知らされている。そしてその母親も俺が中学に上がったら、やることがある、と言って家からいなくなった。
まあ、親がいない家庭なんて探せばごまんといるだろう。
だからと言って、苦労がないというわけでもなかった。
まあ、親の知り合いが保護者としてたまに面倒見てくれていたし、困る部分も何とかなっていたから俺は恵まれているのだろう。
「それは⋯⋯ごめんなさい、軽率だったわ」
そのことを聞いた洋海は申し訳なさそうに少し顔を歪める。
「いや、もともと俺の疑問だったんだからお前が謝るのは筋違いだ。こっちこそ悪かったな。この話題は終わらせてくれ」
空気が次の話題に行かなそうなのできっぱりこの話題は終わりだと告げる。
しかし、話題といっても次の話題がすぐ浮かぶわけじゃない。なんてったってボッチだから。
だから、こういうときは今感じたことを話題に出す。
「ん、この紅茶おいしいな。いいやつ使ってんのか?」
「あら、ありがとう。正直あなたに紅茶が合うかわからないまま出したけれど、おいしく感じてくれたならうれしいわ。⋯⋯あとそれはただのスーパーの一番高いやつよ」
やけに自信満々な顔ですね⋯⋯そんなに褒められたのがうれしかったのかな?
なんかスーパーのって部分強調してくるし。⋯⋯ほうほう、スーパー至上主義者なんですね!
「ほ~⋯⋯スーパーの紅茶も高えやつはおいしくなったもんだな、紅茶ってあんま好きじゃなかったんだがなあ。さすがスーパー、進化が早いなぁ」
「⋯⋯私、いまあなたのこと殺したくなったわ、てか死ね!」
「は?なんで!?イッタッ!!?」
なんか殴られたんだが⋯⋯。なぜ?俺はただスーパーを褒めただけなんだが、⋯⋯だからか、納得。俺はラブコメが分かるんだっ。
「痛かったぁ⋯⋯ごめんごめん。で、どんな淹れ方したんだ?」
「⋯⋯なによ、わかってるじゃない」
「一応言っておくが、俺に素直な反応を期待しないほうがいいぞ」
「ええ、そうみたいね。⋯⋯ホントに」
───それから、こんな感じに特に重要性もクソもない、単純に言うなら雑談をして時間を無意味に過ごす。
あ、でも魔愚と俺の異能のことはある程度話しておいた。魔愚の習性を知ることで危険を未然に回避できるから。
なら魔愚っていう存在を世間に知らせたらいいじゃん、と思ってしまうかもしれないが、そんなことしても信じてもらえないだろう。人ってのは常識外の情報は信じないからな。
あと、影響力がない俺がそんなことしても無意味っていう理由もあるが⋯⋯かなしいぜ。
「さて、そろそろ時間ね」
「あ?なんかあんのか?」
見れば時間は5時半を少し超えたくらい、特に遅いという訳でもないが……。
「あら、ママにご挨拶しときたいのかしら?なんなら一緒にご飯でも食べる?」
そういうことか……ようは母親がもうすぐ帰ってくる時間なのだろう。
「それは……遠慮しとく、さすがに……」
「そう?別にいいのだけれど」
相手がどう思うかは分からんが、お邪魔してる家で、その親が帰ってくるというのはなんとなく居ずらい……女子の家だと特に。
「まあ、俺も飯作らなないといけないし、もう帰るかな」
「そう……あなた、親がいないってことは一人暮らしってことよね?」
「ああ、そうだが。なんだ、うらやましくなったか?一人暮らし」
「いえ、そうゆうわけではないのだけど⋯⋯ただ、それが中学生からってなると……不思議ね、さすがに行政が動くんじゃないかしら?」
「ああ……本来ならそうなんだろうが、面倒ごとは避けたいらしくてな、母さんの知り合いにそこらへんに通じる知り合いがいるらしい。何より俺がこの生活をしてみたいって言ったしな」
「持つべきものは友達って言ったところかしらね」
「ま、そういうことだろうな。てか飯ってお前が作ったりしねえの?」
この時間まで働いてるってことはこいつのママも随分疲れてると思うが。
「ママ、料理することが好きなのよ。だから帰った後はいつも楽しそうに作ってくれるわ。本当に疲れてるときは大体連絡がくるの、『ごばん゛ー⋯⋯』ってね」
「そ⋯⋯そうか⋯⋯」
なんかこいつの家庭の会話和気あいあいそう。
俺の母さんがいた時の記憶は正直言うと愛してくれてただけだからな。会話して互いに笑いあったっていうことはあんま、ない。
まあ、それで家庭環境が悪いという判断が下るほどじゃない。第一、母さんは本当に俺のことを愛してくれてた。ただ単に、親子揃って物静かな人間だったというだけ。……ただ、たまに思いつめた顔をするのは気がかりだったりしたが。
「まあ、邪魔したな。また明日」
「ええ、また明日。気をつけてね、あの怪物……『魔愚』だったかしら?あなたは異能があってあいつらを倒せるといっても、一般人なのだから」
「ありがとうな。あいつらそんなに頻繁に出ないし、大丈夫だろ。心配すんな」