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Vol.8 油そば風そうめん

 街中では夏物がセール品として売り出される頃。


「あー、夏が終わってしまう」


 まだ暑さが和らぐ気配はないけれど、夏って急にいなくなるから困る。突然寒くなって風邪をひくのは、あるあるだ。


「あやつをどうにかせねば……」


 暗い夜道で、私はそんな言葉を吐き出していた。「あやつ」とはつまり、夏の風物詩、そうめんである。


「ただいまー」


 玄関の扉を開けて、私は思わず「うげ」顔をしかめる。家に帰って来て一番初めに目がつく棚に、「そうめん!!!」と書いた付箋がべったり張り付けられているのだ。……まあ、やったのは私なんだけど。


 夏の初めに実家から送られてきて、早数か月。努力はしたが、そうめんはまだ残っている。前に作ったトマツナそうめんは美味しかったし、他のアレンジもネットで探してなんとかここまでやってきたけど……もはや苦行である。


 そうめんの一番の問題は、食べた感じがしないことだと思う。良くも悪くも喉をするりと通り抜けてしまう。お腹いっぱいにはなるんだけど、ご飯食べましたっていう満足感はちょっと薄い。


「肉だ」


 そう、ここはやはり肉の出番だ。肉の力は偉大なのだ。


 まず、フライパンに万能ごま油をたらす。火にかけてフライパンが温まったら、鶏ひき肉を入れて木べらでほぐしていく。鶏肉だからきっとヘルシーだ。お肉が食べられる上に健康志向。我ながら素晴らしいチョイスだ。


 お肉を炒めていると、じわじわ肉汁が見え始めてきた。うーん、なんかもうこれだけでいい気がしてきた。


 そんな煩悩をどうにか追い払って、調理を続ける。お肉の色が良い感じに変わってきたら、おろしにんにくとおろししょうがを投入。それから、めんつゆもね。おろしシリーズはチューブで便利って話を前もしたけど、めんつゆも味付けがしやすくておすすめだ。あれだ、万能調味料ってやつ。


 おばあちゃんの家とかでは、醤油の代わりにめんつゆを使ってた気がする。お刺身にめんつゆ……と思っていたけれど、醤油より柔らかい味で案外いけるものなのかな。


 調味料を加え終わったら、無心で混ぜていく。手を休める暇はない。焦げませんように、絶対焦げませんように、とただ祈るばかりだ。


 炒め終わったら、一度小皿に移して置く。あ、ちょっとこぼれちゃった。……誰も見てないよね? と考えて思わずつまみ食い。大丈夫、三秒ルールは守ってるから。


 具材が出来たところで、今度は宿敵そうめんとの対戦準備だ。ちなみに、この家には大きな鍋がないので、フライパンを再利用。油にまみれたフライパンは、洗剤できちんと洗ってすっきりさせてあげましょう。


 綺麗にあったらお水を汲んでコンロへ移動。フライパンはびっちゃびちゃのままなので、もちろん水滴が足跡みたく残っている。後で拭けばいいんだよ。


 水の足跡を消したら、火にかけてお湯を沸かす。蓋をしてしばらく待機だ。


 その間に他の作業も少し進めておこうかな。本日は、何て言うんだろう……オフホワイト? の和風の食器を用意した。そこへ、酢、めんつゆ、オイスターソースを入れる。オイスターソースにはいろいろ言いたいことがあるかもしれないけど、とりあえず騙されたと思って入れてみてよ。


 そんなことを考えているうちに、ふつふつとこもった音が聞こえてきた。お水が沸騰したようだ。蓋をあけて、口をきゅっと結ぶ。……もう叫ぶくだりはやりません。


 フライパンにそうめんをどーん。それから少し箸でゆする。しっかりタイマーをかけて、面倒を見て上げること。お湯は沸騰させた状態をキープするのがおすすめ。仕組みはよくわかんないけど、そうめんの束がめっちゃきれいに並ぶので、見ていてとても楽しい。


 タイマーがなったら……あ、またザル忘れてた。もう、私ったらうっかりさんなんだから。


 茶番を挟んで、ざるを流しにセットしたことを確認したら、フライパンを持ち上げて運ぶ。仕事終わりにこの重量感はしんどい。手首折れそう。


 ざあっとそうめんをざるにあけていく。湯気が湧きたって、何かのアトラクションみたいだ。


 フライパンを置いてきたら、そうめんを水道の水でしめる。しっかりぬめりをとって冷やすと、クオリティがとっても上がる。これは外せないひと手間だ。


 充分に水気を切ったら、いよいよお皿に盛りつけていく。調味料が入っているさっきのお皿にそうめんを入れて、混ぜ合わせていく。面全体が均一な色になったタイミングがベスト。あんまり混ぜすぎると麺がぶちぶち切れちゃったり、なんかわかんないけどべちょべちょに見えたりするから……って、これ私だけ?


 お皿の中央に良い感じにまとめたら、存在を忘れかけていた肉を手に取って、麺の上にぼろぼろ落とし込んでいく。お肉ってだけで食べ応えがすごそう。


 一粒も残さないように小皿の肉を持ったら、真ん中にポケットを作る。仕上げは君に任せた。


「おお、上出来じゃない?」


 ポケットの中に見事に卵黄を着地させた。卵白は、……ごめん、今日はさよならだ。もったいないんだけどね。お菓子作りの時はだいたいメレンゲクッキーにするんだけど、今日はもうそんな気力はないからさ、許してよ。


 最後に刻みネギといりごまをまぶす。この二つってスーパーですぐ揃えられるし、あるだけで見栄えがすごく良くなるから、買っておいて損はないと思う。


 ちょうど完成した時、私の腹の虫が大きな鳴き声を上げた。うーん、もう限界。急いでテーブルの準備をする。


「いただきます」


 急ぎ足に挨拶を口にして、お食事スタート。つやつやの卵黄を割って、とろけ出たところを下のそうめんに絡めて……と一つ一つ実況したいところだけど、お腹が空いたので割愛。こればっかりは自分で作ってみたほうが早いんじゃない、なんてね。


 ちゅるちゅると慣れない手つきでそうめんを口に運ぶ。うん、おいしい。軽いのにちゃんと食べてる感じがある。そうめんとお肉って名コンピなのかも。


 でもやっぱり、ちょっと飽きるかな……?と、思ったあなた。ここで出番なのが、ラー油。ラー油でちょっぴり刺激をプラスすると、あら不思議。


「んー、最高。これは止まらないわ」


 旨辛ってやつだ。それにしても、七味唐辛子とかと違って、ラー油は比較的誰でも食べやすい辛さな気がする。もしかしたら、これって子どもも好きかな。……我が子がいなければ、知り合いにも小さい子はいないんだけど。うーん、検証できないのが悔やまれるな。これは大人の秘密のメニューってことにしておこう。


「ごちそうさまでした」


 トマツナアレンジも、あれはあれでよかったけど、やっぱり油って正義だわ。胃が喜んでいるのがわかる。鶏ひき肉だから心なしか罪悪感も小さめだし。……ごめん、気のせいかもしれない。


 膨れたお腹をさすりながら、私は軽くため息をついた。が、その表情はさぞ満足げなことに違いない。うう、面目ない限りだ。


 さーて、明日からまたダイエット、ダイエット。

今回のレシピ→https://youtu.be/lJJ-MaWxs_o

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