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Vol.5 チゲ風うどん

 最近気になる、韓国料理。テレビの特集とかでよく見るけど、辛いものが得意なわけじゃないので、なかなか店に行く気にはならない。加えて、私には欠点があるのだ。それは……。


 辛いものを食べると、汗が噴き出て、止まらなくなってしまうのだ。


 今の時期なら夏の暑さのせいだと誤魔化せなくもないけど、何だか恥ずかしくてたまらなくなって、正直食事どころじゃなくなる。そういうわけで、外には食べに行く気にならない。ましてや女友達となんて、絶対御免だ。じゃあどうしようかというと。


「今日はチゲ風うどんを作っていきまーす」


 こうして家で作ればいいのだ。何故かお料理番組みたいな言い方になってしまった。まあ、いいや。


 事の経緯を説明しよう。帰り道にスーパーに寄って、今日の夕ご飯のメニューを考えていたら、偶然キムチが目にとまったのだ。見た瞬間、「これだ!」と叫びたくなるくらい、口の中がキムチになってしまった。韓国料理、とっても美味しそう。


 そのまま勢いでキムチをかごへ入れる。けど、これだけじゃなんか物足りない。せっかくなら、ちゃんと家で料理にしてみよう、と思い、またあごに手を当てて考え始める。うーん、今日はお米の気分じゃないなぁ……どっちかっていうと麺が食べたい。特に理由はないけど。あ、うどん、なら何でも合うかな。うん、そうしよう。


 それからあれやこれやと材料を買い足して、帰宅。レシピ名の宣言を終えたところで、早速番組のスタートだ。


 今日は鍋一つで作っていく。鍋の中に最初に投入するのは、みんな大好きごま油。此れさえあれば何でも美味しくなる気がするよね。中火で熱して、豚こま切れ肉を入れる。トレーにかぶさるラップをいい感じに活用して、手づかみでどーん。


 そして、一人暮らしの味方、チューブのおろしにんにく。本当にチューブは天才すぎる。考えた人には感謝してもしきれない。


 そうしたら、豚こま切れ肉をほぐしながら炒めていく。なかなかほぐれなくて、苦戦する。あ、とれた。あれ以上抵抗されたら、危うく肉を引きちぎるところだった。危ない、危ない。


 肉が炒まってきたら、キムチを追加する。本日の主役だ。あ、火は弱火にしておくこと。焦がしかねないので。いつもは酸味が多めのやつをよく食べるけど、今日のキムチは甘めをチョイス。理由は……なんとなく。ほら、気分転換も良いかなって。そういうことにしておこう。


 水、酒、鶏がらスープを加えていく。鶏がらスープも万能だよね。そこへ、お玉で豪快にすくった味噌も入れる。味噌はお玉の上で一度くるくるしてあげると楽だよって、お母さんに言われた。楽をするにはひと手間が大事ってことだ。


 全体を軽く混ぜて、煮込んでいく。ぐつぐつ、ぐつぐつ。うーん、良い音。一時期テレビで沢山特集が組まれていたASMRってこんな感じなのかな。


 そうしたら、アツアツのスープに冷凍うどーんをどどーん。……自分で言っといてなんだけど、「うどーん」ってなんだ。今日は疲れているのかな。効果音とは裏腹に、うどんにはなるべく優しく接してあげること。スープに浸して、ゆっくりほぐしていく。なんか、人間がお風呂に入るのと似ている響き。こんな激辛のお風呂に入ったら、目がつぶれちゃいそうだけど。


 うどんがほぐれたら、最後にニラを入れていく。餃子の時に一束使い切ってしまったので、新しいものを買って来た。ニラを水で軽く洗って、はさみで切りながら鍋に直接落としていく。ニラはすぐに火が通って色が悪くなりやすいから、最後に加えるのがポイントだ。解説はなかなかお料理番組っぽいけど、番組ではここではさみは使わないだろうなあ。私には向いてなさそう。


 まん中のニラをどかして、卵を落とす。今日のメニューの見栄えは君にかかっているぞ。うまくいきますように、と願掛けをしながら、そーっと卵を割る。どう? 黄身割れたりしてない? 殻も入っていないよね? お、成功だ。よかったー。


 鍋に蓋をして、二、三分煮ていく。次に会う時には、きっと美味しそうな半熟卵になっているに違いない。パサパサのゆで卵にしないためにも、タイマーはきっちりセットしておく。くつくつ、と鍋の中で籠る音がとっても魅惑的だ。


 鍋をじーっと見つめていたら、タイマーが鳴り響いた。お、もう時間が経ったのか。わくわくしながら鍋の蓋を開ける。ふんわり香る匂いがたまらない。卵も綺麗な半熟で、ニラの彩りも良い感じだ。おいしそー。


 今日のお皿は深めで白色。キムチの赤とニラの緑がとってもいい感じなので、余計な色は加えない方が良いだろうと思って、選んでみた。鍋を持ち上げて、そーっと盛り付けていく。少しずつ、少しずつ。卵だけは絶対割りたくない。


 盛り付けが完了。あ、やば、スープをこぼしているではないかー。でも、卵は死守したからよしとしよう。


 うどんを盛り付けたお皿を運んだら、お水を入れたグラスと、箸をセット。お茶じゃなくてお水にしたのは、ちょっとお店感が味わえるかなってちょっとだけ期待したから。ちなみに、友人に聞いた話だと、辛いものを食べる時には牛乳がおすすめだって聞いた。ミルクティーとかでもありだって。


「いただきます」


 おまけ情報はそこら辺にして、いざ実食だ。


 まずは卵を割る。半熟卵って、美味しいのはもちろんだけど、見た目の変化の楽しみがあるのもとっても素敵だと思う。白身の奥から濃厚な色の黄身がとろけだしてくる。うーん、見た目だけでもうたまらない。うどんやお肉と絡めると、さらにツヤツヤだ。ごくりと唾を飲み込んで、待ち切れない口の中へ運ぶ。


「んー、旨辛っ」


 美味しい。けど、辛い。辛いけど美味しい。やめたい気持ちとやめたくない気持ちがぐるぐる巡って、とっても癖になるお味だ。あ、もう汗が滲んできた。まあ、一人だから気にしない、気にしない。


 味噌のコクがキムチと合わさって、韓国感がうまく醸し出されている。うん、悪くない出来だ。あー、とまらない。美味しすぎるよ。汗がだらだらと溢れ出て来て、そろそろシャツの色まで変わりそう。


「ごちそうさまでした」


 気づいたら食べ終わっていた。グラスを傾けると、氷がカランと鳴り、ちょっとだけ涼しく感じる。あ、お水を口に含んだら、舌がちょっとひりひりした。そういうところに料理の余韻が残っている感じも、なんだか好きだ。


 自宅で簡単に作ったものでこれだけ美味しいのだから、きちんとした韓国料理店に行けば、もっと美味しいものに出会えるに違いない。


「この体質、慣れで改善したりしない、かな……?」


 その後、ひっそりと辛いメニューの食事を増やしてみたけど、結局進展は見られず、私はしょんぼり肩を落とした。仕方がない。しばらくは、一人ご飯で満喫することとしよう。

今回のレシピ→https://youtu.be/eOyihOF2mNk

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