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Vol.2 ニラ棒餃子

「餃子にしよう」


 仕事の帰り道、スーパーでニラを見つけた私の決意は固かった。


 今から餃子つくるの? という感じは否めないけど。まあ、簡単なレシピだし、帰宅してから作っても九時には食べ始められるはずだ。うん、悪くない計画。


 いそいそと買い物を終わらせ、帰宅。定時で仕事が終わったこともあって、ちょっと浮かれた気分だ。


 エコバッグから飛び出ている元気なニラを取り出す。元気があるのは良いことだ。夏が旬だけど、今年はまだ食べてないかも? と思いたって、スーパーで買って来た。ニラの匂いにはとても食欲をそそられる。夏の暑さに負けない魅力を持っているなんて、素晴らしい。一緒に買ってきた餃子の皮も、袋から出しておく。


「お肉はーっと」


 冷蔵庫から前に買っておいた豚ひき肉を取り出す。安い時に買ったことを覚えていてよかった。たまに同じものを買ってきてしまうと、どうせ食べるからいいんだけど、ちょっと困惑する。


「んー、でも普通の餃子じゃつまんないなー……あ」


 刺激を求めて冷蔵庫のありとあらゆる扉を開閉していたところで、私はそれに出会った。


「君に決めた」


 そう言って、隣のおばさんから貰った大葉を手に取る。ビビッときたのだ。何も根拠はないけど、なんかいける気がする。


「これでよし、と。じゃあ、作るかー」


 ニラを袋から出し、テープを切る。ニラは餃子以外の使い道が思いつかない。……嘘だ、レバニラ炒めとかあるな。でもまあ、中途半端に残しておいても仕方ないし、一束全部使ってしまおう。


 水で洗って……あ、袋出すの忘れた。ニラから滴る水をシンクの外に出さないように、絶妙な体勢で棚の下をごそごそと漁る。


「あった、あった」


 なんとか片手で袋を取り出すことに成功した。袋を広げ、口を開けさせたら、料理ばさみでニラを根元から切っていく。今日は包丁の出番はなし、というわけだ。こういうふうにはさみを使っていると、なんだか小学校や幼稚園の工作を思い出す。楽しい。


 続いて、大葉を五枚くらい取り出す。これは……まだ使い切れそうにないな。忘れないように全部食べてあげないと。軽く洗い、しっかり水気を切る。


 軸を……と思ったところで、包丁を使わないと決めたことを思い出す。どうしよう。はさみ……の所まで戻るのも面倒だ。


「えいやっ」


 手で無理矢理引きちぎった。いけた。ブチィってなかなか聞かない音が聞こえて、ちょっと面白かった。でも、手がちょっと大葉臭くなりそうだな。まあ、細かいことは気にしない、気にしない。


 大葉もニラと同じように、はさみでじょきじょき切っていく。もちろん、前みたいにぐるぐる巻いてからだ。うーん、袋の中がとっても緑色。


 そこへ真っ赤なお肉を投入。そのままどーん、って感じだ。そして、にんにくチューブを全力で絞る。これぞ餃子って感じ。それから、しょうがのチューブも絞る。チューブってとっても便利で助かる。お酒と醤油を目分量で入れて、あとは無心で揉むだけだ。


 やっぱり、小学生の頃を思い出す。こうやって肉だねを揉む感じは、スライムで遊んでいるのとか、パン屋さんの真似をしているのとたいして変わらない気がする。うん、なんだかわくわくしてきたかも。


 そんなことを考えていたら、結構いい感じに混ざったみたい。そうしたら、中にある肉だねを袋の片端に寄せておき、口を縛る。


 餃子の皮をまな板の上に並べていく。七枚が限界だ。一人前なら、充分だろう。でもやっぱり、余るよね。そりゃそうだ、一人分だもの。まあ、お母さんがラップして保存袋に入れれば大丈夫って言っていたし、そうしようかな。余ったらスープにするとか……あ、おつまみ作るのもありかな。ともかく、大事に冷蔵庫にしまっておこう。


 小皿にお水を入れて、近くにセット。さっき置いておいた袋を持ち、袋の端を切る。普通のはさみ持って来るの面倒だな……よし、料理ばさみで切っちゃおう。お母さんが見ていたら叱られるだろうけど、誰も見ていないから、気にしない、気にしない。お手製絞り袋で、餃子の皮の上に肉だねを絞り出していく。今度は、ケーキ屋さんかな。


 あ、思ったより絞り出すの大変だ。袋の口、もう少し大きく切ればよかったかも。まあ、力づくで押し出せばいいか。きっと良いトレーニングだ。


 全ての皮に肉だねがのったら、皮の上半分に水をつけて……半分? いや、三つ折りかな? とりあえず棒に巻き付ける感じで巻いていく。とってもらくちんな方法だ。


 コンロの上にフライパンをセットし、そこへごま油を入れる。ごま油の風味は、やっぱり頼りがいがある。何に合わせてもいい感じになる信頼感がある。


 火をつけたら、フライパンがあたたまる前に、餃子を並べていく。ぱちぱち音がはじけてきたら、そこへお水を投入。五分くらい蒸し焼きにする。焦げ焦げになったら可哀想なので、忘れないようタイマーをセットしておく。


 その間に、肉だねをどうにかしてしまおう。量が多かったみたいで、普通に余ってしまった。袋を開けてラップに移し、密閉袋に入れてから、冷凍庫へどーん。


「皮も余ってるし、もう一回餃子もありだな。あ、でもチャーハンで使っても美味しそう。いや、スープの肉団子も捨てがたい……」


 使わないものの片付けながら、もう次の料理のことを考え始めている。……いけない、よだれが。


「そろそろいい感じかな?」


 ちょうどタイマーがなり、おそるおそるフライパンの蓋を開けてみる。すると、蓋を持ち上げた瞬間、湯気がふわっと部屋中に広がる。


「あつい!!」


 前も同じくだりをやった気がする。なんで夏にわざわざ熱い工程を選んでいるんだろう……。美味しいって、罪だ。


 あ、でも、良い匂いだ。カリッと仕上げるためにごま油を回しいれる。さらに香りが漂ってきて、今にもお腹が鳴ってしまいそう。


 もうできた? できたね? とそわそわしながら、焼き色をチェックする。うん、良い感じ。


 餃子といえば、なんとなく白いお皿のイメージ。そんな理由で選んでおいたお皿に、もたつきながらも餃子を盛り付ける。自分しか見ていないから、並び方がぐちゃぐちゃでも問題なし、と。


 炊飯器で炊いておいたご飯をお茶碗によそい、餃子を食卓へ運ぶ。あと、小皿と、醤油と、箸と、グラス。あ、餃子とビールってすごく素敵な響き。あー、だめだ、やっぱりビールにしよう。


 席に着き、ちらりと時計を見る。うん、九時には間に合ったみたいだ。はやる心を落ち着かせて、手を合わせる。


「いただきます」


 餃子を一口。肉汁が口いっぱいに広がる。そこへ、白いご飯をぱくり。


「んー! 美味しい」


 今度は、缶ビールを開ける。ぷしゅっと解き放たれる音がする。餃子を食べて、ビールをごくり。


「あー、しあわせー」


 美味しすぎる。大葉のおかげでさっぱり感も増して、いい感じだ。やっぱり君、良い味しているよ。あー、これは太っちゃうかも。まあ、今日くらいは気にしない、気にしない。


「ごちそうさまでした」


 食べ終えると、シンクにお皿を運ぶ。


「あれ、これだけ?」


 自分でそういう手段を選んだはずなのに、洗い物の少なさに驚いてしまった。作るのも楽で、後片付けも少ないのに、あの充実感。これは癖になりそうだ。


「残りの材料、どうしようかなー」


 洗い物をしながら、そんなことをつぶやく。今さっきの食事で随分満たされたはずなのに、もう先の食事のことを考えてしまっている。とんだ罰当たりだが、誰も聞いていないので、気にしない、気にしない。


「飽きちゃうかと思ってたけど……もう一回餃子、全然ありだな」


 きっと今日は、美味しい餃子の夢が見られるに違いない。

今回のレシピ→https://youtu.be/q-yLA65g2-Q

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