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人ならざる者

作者: 七四

 小さい頃。第二次性徴が起こる前。私は自分が生物学的にオンナであることを疑わなかった。膣からの出血、胸のふくらみ。意図せず現れる「オンナ」の真の意味に戸惑い、自らの肉体を嫌悪した。しかし、私はいま、女性として生きている。


 オンナの肉体を受け入れたわけではない。オトコでもオンナでもなくなっただけだ。私は、トランスジェンダーだったのかもしれない。


 父親の昔語り、空き地を使ってボール遊びをし、家屋の窓を割って大勢で一斉に逃げるシーン。


 足が速い人は早々に戦場を離脱し、ノロマな人ひとりだけが住人に捕まって絞られる。


 私はそのノロマでいい。私にとって、肉体の性別への違和感はそういうものなのだ。カッコいい異性になりたい、それだけならば男装するだけで済む。タカラジェンヌの男役になってもいい。ーー後者はともかくとして、前者は選抜されることもなく、万人に開かれた権利だ。


 先頭を走る、リーダー格でスポーツも勉強をよくできるイケメン、それは確かに勝ち組だろうし、人生順風満帆かもしれない(もちろん例外はある)。同じ能力を持ちながら社会進出への道が絶たれる女性がいたとして、しかし、それは「女性の人権の向上」で解決できる問題である。


 肉体的性別への違和感は、弱者属性から強者属性への憧憬ではない。私は成績よく優等生だったからか、期待され成長した。期待通りだったかどうかは知らないが、オンナであることで差別を受けた経験はない。だが、オトコになることで、場合によっては肥満、馬鹿、ノロマ、(気持ち悪いと言われるような)オタクになったとして、社会的地位が暴落したとしても、今よりはマシだと与える心のことである。


 本来の自分で得る苦難は、ちゃんと自分の人生だ。でも、魂の属性と合致しないアンドロイドに移植されたようなからくり人形の人生は、なんら自分ではない。そんな心で幸福を得たとして、それは自分が得た幸福ではないのである。


 しかし、我が父は性同一性障害を認めない人だった。生きるためにやむなく私がとったのは、自分を殺す行いだった。


 私はオトコとして、オンナの人生を全うする。そうしたら、今度はカミサマが、オトコの命をくれるかもしれない。


 抜き身の刀を喉から飲み込むような苦痛だった。自分を生かすために自分を殺す決断をしたのだから、これ以上の適切な比喩はないと思う。


 お陰で、私はオトコにもオンナにもなれなかった、宙ぶらりんのまま。男性にも女性にも欲情せず、男性的ジェンダーにも女性的ジェンダーにも染まりきれず、自己を持たずに生きていくのだろう。


 弱者男性という言葉を嫌う界隈がある。そんなものに構うなら女性の人権を保障しろ、とほざく輩だ。だが、女性が思うほど、男性は優遇されていない。


 ノロマは笑われ、馬鹿は謗られ、デブはデブとしての役割を演じさせられる。それでも、私はオトコになりたい。ーーいや、なりたかったのだ。

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