父の日SS
父の日SS 時間軸は「美少女を拾ったと思ったが…」の8と9の間
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一家の大黒柱にも関わらず、シュウは毎晩仕舞い風呂に入るのが定番だった。何故ならば彼の体格は熊の様に巨体で、最初に風呂に入ったら、湯船を溢れさせてしまうからだ。その理由から彼が申し出た習慣だ。
今日ものんびり最後に湯船に浸かっていると、浴室のドアがノックされた。
「熊先生!背中流してあげる!」
甘えた声で浴室に入ってきたのは、先日から秋桜診療所で預かっている子供のトキワだった。何度か一緒に入ろうと言われたが、シュウが入ると、湯船に子共1人入るスペースさえないので、諦めてもらったのだか、背中を流してもらう隙間はあったので、シュウは申し出に甘えて、背中を流してもらう事にした。
「すごい、熊先生の背中おっきいね!カッコいい!」
無邪気に褒めちぎるトキワにシュウは気を良くして、可愛い三姉妹の他に男の子も欲しかったなと少し悔やんだ。レイトは既に大人なので息子とは思っているが、子供として接する事は出来ないので殊更だ。
「ねえね、熊先生。お願いがあるんだけど」
「何かな?」
ボーイソプラノでおねだりをするトキワにシュウはデレデレに返事をする。
「ちーちゃんを俺のお嫁さんにちょうだい?」
13歳の次女を嫁にと要求する子供にシュウの表情は凍りつく。先日も結婚宣言されたが、前回同様心臓に悪い発言だ。子供ながら執念深そうな目をしているトキワの事だ、顔を合わせる度に娘が欲しいと強請り倒すだろう。そこで彼の本気を試す事にした。
「君とちーちゃんが本当に愛し合う事になったら私も止める事が出来ない。でも今は違うだろう?」
命はトキワの求愛に戸惑っている様子だった。そんな娘の気持ちを無視して、こちらで勝手に結婚を認めるなんて貴族じゃあるまいし、あり得なかった。
「それに私の可愛い娘をちゃんと守れる人じゃ無いと渡す事は出来ない」
「俺絶対ちーちゃんと両思いになるし、絶対守る!」
純粋なトキワの発言にシュウは体を捩り、鋭い視線で彼の細い首に手を掛けた。
「両思いはともかく、こんなに弱い君がどうやってちーちゃんを守るの?今ここで私が力を入れれば、君の首なんて簡単にへし折る事が出来るんだよ?」
大の大人が幼い子供に到底する様な事ではないのは分かっていたが、シュウは娘の事を考えると、体が勝手に動いていた。
「私がりーちゃんのお婿さんとして、レイトくんを認めたのは、彼がりーちゃんを守れる位強い男だったからだ。君もちーちゃんと結婚したいなら、最低でも私より強くなってくれないと困るよ」
首から手を離すと、シュウは掛け湯で背中を流して、浴室を出ようとした。
「俺、絶対強くなるから!その時は絶対ちーちゃんと結婚するから…覚悟してね、パパ?」
てっきり怖気付いたと思っていたので、シュウはトキワの宣戦布告に目を丸くさせた。これは可愛い外見に惑わされてしまうが、中々の曲者のようだ。
娘も振り回されているようだし、ここは父親としてしっかり見極めなくてはならないと思いつつも、パパと呼ばれて、心が弾んでしまったのを気取られないように無言で浴室から出て行った。