母の日SS
「ママ!いつもありがとう!」
「…何を企んでいる?私はお前に感謝される事などした覚えはないぞ」
休日のある日夫と共に娘を訪ねた楓は突然の感謝の言葉に戸惑いを覚えた。
「なんかね、港町ではこの時期にお母さんに感謝をするんだって!」
「なるほど相変わらずミーハーな奴め」
「そんな事言いながら楓さんなんか嬉しそうだよ?」
いくつになっても可愛い妻と娘の間でトキオはデレデレと破顔する。
「それでお前は私に何を感謝しているのだ?まさかただ言ってみたかっただけか?」
「えーと、私を産んでくれた事とか?あとは…パパと仲良く幸せに暮らしている事とか?あとは…うーん…」
「どれも感謝される謂れではないな」
「まあまあ、大事なのは気持ちだよ。私も楓さんにはいつも感謝しているよ」
「私がトキオさんに感謝する事はあってもされる事は無いぞ?」
「いいや、楓さんが私のお嫁さんになって隣にいてくれるようになったあの日からずっと感謝しているよ」
「トキオさん…」
「朝仕事に出る時いってらっしゃい、帰ってきた時おかえりを言ってくれるだけでとても満たされるんだ。本当にありがとう」
娘をほったらかして完全に2人の世界に浸る両親に旭は割って入る様に用意していたプレゼントを手渡した。
「これママにプレゼント!」
「ほう、プレゼントまで用意してくれたのか。ありがとう」
「早速開けてみて」
リボンを解いて包みを開くと中から赤地に白の水玉模様のフリルがあしらわれたエプロンが現れた。あまり家事をしない自分の生活と親和性がないプレゼントに楓は戸惑いながらも夫と娘から向けられる期待の眼差しに勝てず、早速エプロンを着用した。後ろのリボンはトキオが甲斐甲斐しく蝶々結びをした。
「ママ可愛いー!」
「最高だよ!楓さん!」
盛り上がる夫と娘に楓も悪い気がせず、要望に応えてくるりとターンをした。孫までいるのに何やっているのやらと笑いながら照れ臭そうにエプロンの裾を摘めば、歓声がまた沸いた。
そして旭もエプロンを着けて母子で父を紅茶とお菓子をもてなし、大いに喜ばせて楽しい休日を過ごした。