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水鏡族の村 SS置き場  作者: みふー
許嫁の左眼が疼くそうです
4/16

一度あることは二度あります 救出編

※暴力表現あり。

裏設定としてお遊びで書いたものです。主役は旭とサクヤだから本編には載せませんでした。

整理のためこちらに上げておきます。

 反神殿組織の人質となった命は体を拘束され彼らの馬車に積み込まれてから、アジトへと連行された。場所の特定を防ぐ為か、麻袋を頭から被せられている為視界が暗い。


 喫茶店からアジトまで馬車で1時間は掛かったと感じたので、西の集落ではなさそうだ。乱暴に押されながら辿り着いた部屋で命は突き飛ばされ、硬い床に体を打ち付けられて痛みに顔を顰める。状況を把握したくても、麻袋には穴一つ空いておらず、繊維の隙間から漏れる微弱な光を忌々しげに睨んだ。


 耳を澄まして意識を集中した結果、部屋には声からして少なくとも3人の男達が部屋にいる事が分かった。恐らくは見張りだろう。命は彼らを罵倒したい気持ちでいっぱいだったが、抵抗して痛い目に遭うのは自分だというのを重々承知していたので、黙って助けを待つ事にした。


 それにしても反神殿組織の目的は何なのだろうか。主に光の神子を否定している様子だったので、傷を負った大切な人の治療を拒まれたのか、それとも本来彼女の力では不可能な病の治療…または亡くなった人の蘇生を要求したのだろうか。光の神子が怪我の治療を断る事はまずないだろうから、後者の理由で逆恨みをしているのだろう。


「お前達は髪が生えたら、どんな髪型にするつもりだ?俺は水の神子みたいな長髪にする」


 意気揚々と仲間に投げかける男の話題に命は笑いが込み上げて吹き出しそうになったが、必死に舌を噛み堪えた。


 まさか反神殿組織の目的が、光の神子にハゲを治してもらう事なんて、誰が思うだろうか。しかし光の神子はハゲは治せないので、神殿側は彼らの要求に応える事が出来ない。そうなると自分は人質としての価値が無くなる。


 人質の処遇について聞く位許してくれるだろう。命は見張りの男達に尋ねる事にした。


「ねえ、私は一体どうなってしまうの?」


 おとなしくしていたので存在を忘れかけられていた命に男達は注目してから、黒の中折れ帽を被った男が代表して口を開いた。


「光の神子が期限までに要求に応じなかった場合、殺す予定だ」


 無慈悲な返答に命は言葉が出なかった。自分は沢山の子供と孫、ひ孫…あわよくば玄孫にも囲まれて、老衰で死ぬのが理想だ。


 それなのにこのままだと、ここで殺される運命になっている。何としても抗いたいが体は拘束されている上に水晶も置いて来たので、魔術も使えない。命は手首を動かして縄が解けないか試みてみたが、縄が食い込んで肌が擦れて、痛みしか生まれなかった。


 こんな事なら縄抜けの訓練でも受ければ良かったかもしれない。魔術が使えない状況下での生存術を習得して、ここで生き延びた後、またトラブルに巻き込まれた時に対応したい。


 “また”だなんて笑える。しかし自分はこれまで何度もトラブルに巻き込まれて来たのだから、もう無いだろうと言い切る自信は無かった。


 一先ず生き延びる為にも体力を温存しようと、命は縄で締め付けられた痛みに耐えながら、仮眠を取る事にした。幸い麻袋を被っているので悟られにくいし、今の所手出しはされなさそうだった。叶う事なら次に目が覚めた時は、救出された後であるようにと、無理矢理脳天気な事を考えながら、命はそっと目を閉じた。



 ***



 突然麻袋を剥ぎ取られ、覚醒した命は部屋の眩しさに顔を顰めてから目を開けると、麻袋を持ったキャスケット帽の男がニヤりとこちらを見ていたので、不快で鳥肌が立った。


「お、確かにお前が言った通り中々の美人じゃないか。風の神子が愛人を作らずに可愛がるだけはあるか」


 美人と褒められて礼を言うべきなのか悩む所だが、男達のじっとりとした視線が気持ち悪くて、命は身震いをしそうだった。そして嫌な予感がすると頭の中で警告の鐘が鳴り響いていた。


「私に何をするつもりなの…?」


 震えた声で問い掛ける命に、男達は下品に声を上げて笑う。薄々気付いてはいるが、時間を稼ぎたかった。


「あれから4時間も経つのに、神殿側の動きがないから人質を少し痛めつける事になった。恨むなら光の神子を恨む事だな」


 指の一本でも切り落として神殿に送るつもりなのだろうか。せめて髪の毛程度にして欲しい。命がそう願っていると、男達3人は命を取り囲む様にしゃがんだ。そしてキャスケット帽を被った男が乱暴に命のブラウスを引っ張り、ボタンを弾けさせた。それにより命のシャツの間から黒のハーフトップタイプの下着が露出した。


「地味な下着だな。旦那に相手して貰ってないのか?」


「経産婦だしこんなもんだろ」


「しかしかなりデカい胸だな…何か詰めてるのか?」


「今日は狩りだったから動きやすい格好をしてただけです!パッドだって形を整える為に左右それぞれ1枚ずつしか使ってないし!」


 口々に下着姿を酷評する男達に命は堪らず反論した。確かに普段の下着も派手な物ではないが、夫にはほぼ毎晩抱かれるし、彼らに色々言われる筋合いは無かった。


「へえ、どんな裸か確認するか」


 中折れ帽の男は舌舐めずりをした後、今度は命のベルトに手を掛けて外し、ブーツとチノパンを脱がし始めた。抵抗して身を捩らせるも、他の男達に押さえつけられて下半身は飾り気の無い薄い綿製の黒いショーツと靴下だけになってしまった。


「…だから!今日は狩りだったから、動きやすさ優先だったの!上下揃いの下着なんだしいいでしょ?」


 憐れむような視線を向ける男達に、命はもう一度言い訳をした。さてはこいつら独身だな。だから女に幻想を抱いているんだと腹の中で毒づく。


「ま、脱いだら関係無いだろ」


「それもそうだな」


 キャスケット帽の男と中折れ帽の男のやり取りにいよいよ貞操の危機を感じた。まさか寄ってたかって自分を慰み者にするつもりなのか。耐えれば殺されないなら我慢するべきか…しかし彼らがそんな約束を守ってくれる気もしない。


「ま、待って!私下着に胸を無理矢理押し込んで誤魔化してるけど、子供2人も産んでてだるんだるんのガッカリおっぱいだから!本当見るに耐えないから!」


「またまたご謙遜を」


 興味を失ってもらおうと命が訴えるも、男達の顔色は変わらなかった。あとは胸毛が熊並み凄いと出まかせでも言おうかと悩んでいると、キャスケット帽の男の手が近付いてきた。


「やめて!」


「うぐっ!」


 胸に触れようとしたキャスケット帽の男を命は頭突きで応戦した。額はヒリヒリしたが胸を触られるよりはマシだった。


「このアマ…処女じゃねーんだしカマトトぶってねーで大人しくしろ!」


 額が鼻にクリーンヒットして鼻血を出したキャスケット帽の男が激昂して、命の左頬を張った。なんとなくこうなると思い歯を食い縛っていたので、口の中を切らずに済んだが、ジンジンと熱い痛みが頬に残る。恐らく腫れていくだろう。


「俺、前から人妻とヤッてみたかったんだよな。しかも風の神子の嫁と来たら、中々の武勇伝になるよな…あんたもどうせ旦那しか男を知らないんだろう?死ぬ前に他の男も味わわせてやるよ」


 今度は反撃されない様にと中折れ帽の男がニット帽の男に命の頭を押さえつけさせると、自分は脚に跨って押さえ、右手をハーフトップと素肌の間に滑り込ませた。命は必死に首を振り抵抗するが、力では敵わず次第に目に涙を溜めると強く目を瞑った。


「ぐああっ!」


 突然の中折れ帽の男が悲鳴を上げた。恐る恐る命が目を開けると、中折れ帽は宙を舞い、帽子の主は床に倒れていた。そして何故か部屋の中なのに旋風が発生していた。


「ひっ…バケモノッ…!」


 帽子が吹き飛んでいて誰だか分かりづらいが、多分キャスケット帽を被っていた男は叫んだと同時に、旋風の奥から伸びた力強い手にハゲ頭を捕まれると、床に叩きつけられた。残ったニット帽の男は命を盾にして身を守ろうとしたが、男の体だけが宙に浮き、壁に打ち付けられた。


 こんな超常現象を引き起こせるのは彼しかいない。命はそう確信して、旋風の中にいるであろう存在に呼びかけた。


「トキワ!」


 夫の名を叫んだ命に反神殿組織の男達は慄いた。まさか風の神子代行自ら妻の救出に向かうとは思いもしないし、妹よりも弱いと噂されている実力も、この旋風を目にしたらデマだった事は明らかだ。


 旋風は命の安全を確認したからか、次第に風が収まりの姿を露わにした。一同は美しくも恐ろしい艶やかに輝く銀髪を靡かせた青年の姿に、息をするのも忘れそうな位に魅入った。


「遅くなってごめん…」


 謝る夫に命は頭振り、安堵から笑みを浮かべた。


「もう少し待っててね」


 トキワは左手をかざして風を操り、3人の男達の自由を奪い、暖炉に立て掛けてあった灰搔き棒を手に取った。


「何をするつもりなの?」


 少なくとも本来の用途には使わないであろうトキワの様子に命は怯えながら尋ねる。


「こいつらを去勢しないとね。俺の可愛い妻に手を出した罪を一生後悔させてやるっ!」


 躊躇う事なくトキワは灰掻き棒を振り上げて、元中折れ帽の男の股間に打ち付けた。男は痛みの余り声を上げる事も出来ないまま失神した。


「待て…待って…うぎゃああーっ!」


 次に元キャスケット帽の男が制止も虚しく、灰掻き棒の餌食となった。そして間を置かずニット帽の男も同様に急所を強打された。


 自分は男では無いが、命は痛みで発狂する男達に恐怖を感じ、顔を背けて震えた。しかしここまで夫を残虐にさせたのは自分の所為だ。騒ぎを聞いて駆けつけた他の反神殿組織の男達もトキワは同様に痛めつけていく。


 とにかく今は彼の暴走を止めようと思うも、体を拘束されたままなので、命は自由が利かなかった。


「あ…」


 ここにきて命は自分の水晶の気配に気が付いた。恐らくはトキワが旭から預かった物を持っているのだろう。これなら彼を止められるはずだ。命は瞳を閉じて心の中で自分の水晶に呼び掛けた。


 すると、水晶が命に応える様に魔術が発動し、彼女を拘束していた縄を切り裂いた。漸く自由の身となった命は立ち上がり一目散にトキワの背中に抱き着いた。


「もう止めて!私は大丈夫だから!」


「駄目だ。こういう奴らは懲りずにまた同じ事を繰り返す。だから体によーく教え込まないと…」


 そう言ってまた1人トキワは灰掻き棒を振り上げて男の急所を攻撃した。このままだと組織の人間全員が男性機能を失うだろう。


「離婚する…」


 命はトキワからそっと離れると、静かにそう告げた。


「え…」


「暴力を止めないと離婚するから!クオンとセツナは私が育てる…子育ての悪影響になるから離婚したら二度と顔を見せないで!とにかく離婚!り・こ・ん!」


 己の耳を疑い聞き返すトキワに命は何度も離婚と連呼してから、下着姿のまま部屋から出ようとした。


「離婚だけは勘弁してください!」


 慌ててトキワは先回りして、床に倒れている男達を踏みつけた状態で土下座して命に許しを乞うた。


「じゃあもう反神殿組織の人達を痛めつけない?」


「痛めつけません!俺、ちーちゃんと離婚したら生きて行けない…」


「じゃあもう殴らない?」


「殴らない!何だったらばあちゃんに治療してもらえる様に掛け合う!だから離婚だけは…」


 まさか伝家の宝刀がここまで効果があると思わなかった命は内心驚きながらも、極力使わない様にしようと決めて、トキワに向き直り頭を撫でた。


「じゃあ離婚は止める。助けに来てくれてありがとうね」


「ちーちゃん…っ!」


 感激でトキワは最愛の妻に抱き着き、怪我はしているが彼女の貞操の無事を心から安堵した。


 尚、先程の男が最後の1人だった様で、結局トキワは反神殿組織の人間を1人残らず男性機能不全に仕立て上げてしまった。命は少し申し訳ない気持ちになりつつも、床に落ちていたチノパンとブーツを履いてシャツを羽織り、身なりを整えた。


「1つワガママ言っていい?」


「何?」


 神殿へと向かう道中トキワは遠慮がちに命に申し出た。


「アイツらのアジトを破壊させて。集まる場所があるとまた誰かが何かやらかすかもしれないし、見せしめ

にしたい」


 人に危害は加えないから離婚は勘弁と釘を刺すトキワに命はどう答えるべきか悩んだが、彼が言う事も一理あるし、家を建てる立場なのに破壊したいと申し出るのは相当な気持ちがあると思ったので、コクリと頷き了承した。



 ***



 命を神殿に送り届けたトキワは蜻蛉帰りして再び反神殿組織のアジトへ向かった。組織の男達はアジトの外の一角にまとめて結界に閉じ込めたので、脱走はしなかったようだ。


「皆さん、お待たせしました。ショータイムですよ」


 トキワは早速アジトを破壊すべく、両手を木造二階建てのアジトに向けてかざした。すると強力な竜巻がアジトをスッポリと包み込んで、バキバキと音を立てて木造部分をへし折っていった。


 威力を調節しながら、少しずつアジトが破壊される様を見せつけ、トキワは男達に絶望を植え付けた。男達は鉄をも切り刻む竜巻の威力と股間の痛みに脂汗を垂らしつつ、自分達はとんでもない化け物を敵に回してしまったと深く後悔した。


 夜明けが近付くとようやく神殿から派遣された神官達が到着した。既にアジトは木っ端微塵になっており、トキワは痛みと疲労で意識を失った組織の男達の処理を彼らに任せると、愛する家族の元へと向かった。

 

 光の神子が起きていたので簡単に報告を済ませ、徹夜になったが、冴えた目で自分に割り当てられている部屋に入る。ベッドでは命が寝息を立てていた。言い聞かせた通り治療を受けたようで、頬の腫れが引いていた。


 疲れて眠っている所悪いが無性に抱きたいと汚れた服を脱いで、トキワは妻の眠るベッドに潜り込もうとした。


「…あれ、俺がいる」


 布団を剥ぐと、命の胸を鷲掴みして顔を埋めた状態で眠る、自分生き写しの次男がスヤスヤと寝息を立てていた。


 つくづくセツナは自分に似ていると苦笑すれば、昂っていた気分が落ち着いたので、トキワは命の唇に短く口付けてから、背後に抱きつく様な形でベッドに忍び込んで、ようやく長い1日を終わらせた。

 


 




 





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