ブクマ100件御礼SS
時間枠は「誕生日にはチェリーパイ」以降「離れたくない」以前くらい(とても曖昧)
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家庭薬草園の手入れを済ませた命は一息ついて、診療所前のベンチに腰掛け、風の心地よさに目を閉じた。
「ちーちゃん!」
少し休んだら、桜とティータイムでもしようかと考えながらうとうとしていると、トキワの声が聞こえて来た。レイトとの修行の小休止中だろうか。次第に足音が近付いて来る。
このまま寝たフリをしたら、どんな反応をするのか実験しようと、命は面白半分で目を閉じたままでいた。
「寝てる…」
命が寝ていると気付いたトキワは声量を絞って、そっとベンチの隣に座ると、穴が開きそうな勢いで命を見つめた。
あまりに強い視線に命の瞼は痙攣するも、必死に堪えて狸寝入りを決め込む。
「可愛いなあ」
可愛いのはそっちだと心の中で叫びながら、命は恥ずかしくなって来たので、寝返りを打つフリをしてソッポを向き、一刻も早くトキワが離れてくれるのを待った。
「好きだよ…愛してる」
そっと愛を囁いてくる美少年に命は限界が近づいていたが、こうなったら意地でも起きてたまるかと、意固地になっていた。
寝たフリをしている命をトキワは見つめ続ける。もう限界だ。誰か来てくれと、耳まで顔を赤くしながら命は助けを待っていた。
「ひゃっ!」
しばらくして突然胸に触れられたので、命は耐えられず飛び上がり声を上げた。まさか寝込みを襲うなんて、軽蔑の眼差しでトキワを睨みつけると、瞼に敷き詰まった長い睫毛に縁取られた大きな瞳を丸くさせていた。
「どうしたの、ちーちゃん?怖い夢でも見たの?」
お前のせいだと叫びたい気持ちを抑えて、命は咳払いをしてから、トキワから距離を取る。
「今!私の胸を触ったでしょう?」
「ああ、ちーちゃんに葉っぱが付いたから、取ったんだけど…びっくりさせちゃったね」
確かにトキワの手は葉っぱをつまんでいた。下心の有無は分からないが、嘘ではなさそうだ。
「そ、それはどうもありがとう!」
トゲのある口調でお礼を言って、命は脱兎の如く診療所に駆け込み、鍵をかけて、その場にしゃがみ込んだ。
「二度とトキワの前で寝たフリなんかしない…」
紅潮した頬に手を添えて、1つ教訓を得た命はまた今日も1人の美少年に翻弄されてしまった。