1周年記念SS
美少女SS時間軸は「突然の出来事」の前あたり
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「ちーちゃん、今日は俺とちーちゃんが出会って1周年なんだよ!」
休日、桜と薬草園の手入れをしていた命に、トキワは満面の笑みで言った。
「へえ、でもそれなら桜先生とも出会って1周年だね」
お昼ご飯までに作業を終わらせたかった命は淡々とハサミで徒長したハーブを切って、相槌を打つ。その横で桜はクツクツと喉を震わせて笑っていた。
「確かにそうだけど、俺はちーちゃんと運命的な出会いをしたの!今でも思い出す…道端で座り込んでいた俺に声を掛けてくれて、おぶって診療所まで運んでくれてから、優しく看病してくれたちーちゃん…大好き!」
仰々しく当時を語るトキワに命は苦笑いを浮かべながらも、ハサミを持つ手は止めなかった。
「じゃあ薬草園の手入れが終わったら、1周年を祝してパーティーでもしようか?」
「賛成!」
体を起こし、腰を叩きながら提案する桜にトキワは無邪気に飛び跳ねて大喜びした。命はただ昼飯を一緒に食べるだけではと思いながらも、いそいそと手入れを手伝ってくれて助かったので、黙っておく事にした。
薬草園の手入れを終えて、命と桜は診療所に戻り、昼食作りに取り掛かった。剪定したハーブをふんだんに使ったマリネとグリルチキンの匂いは、労働の後の空腹を充分に刺激した。トキワとしては命と一緒に料理がしたかったが、キッチンが狭いので、ダイニングで残ったハーブの選別をしながら料理を待った。
昼食の用意が整って、3人でテーブルを囲み、パーティーの開始となる。とは言っても、料理はいつも通りの物で特別ご馳走があるわけではない。
「それじゃあ、俺とちーちゃんの1周年記念に乾杯!」
誤解を招きそうな乾杯の音頭に突っ込みを入れたい気持ちもあったが、腹ペコだった命は流れ作業でトキワと桜とグラスを鳴らし、ミントウォーターで喉を潤してから、桜が作ったマリネを頂いた。
「美味しい!ちーちゃんの料理は最高だね!あ、桜先生のマリネも美味しいよ」
ローズマリーと一緒に焼いたグリルチキンを口にしたトキワは絶賛して、幸せそうにしている。
「どっちが何を作ったか言ってないのに、当てるとは…恐ろしいな」
最早執着という言葉では片付けられないと、桜は苦笑するので、命も静かに頷く。
「俺、ちーちゃんに出会えて本当に幸せだよ!ちーちゃんは?」
付け合わせのベイクドポテトにフォークを刺した所で問い掛けられた命は、そのままポテトを口に放り込み咀嚼しながら顧みた。
「そうだなあ…目の保養が増えたから幸せかもね」
見目麗しい美少年のトキワは勿論、彼の父であるトキオも手を合わせて拝みたくなる位の美丈夫だ。美形好きの命としては有難い娯楽である。
「つまり俺たち両想いって事だね!やったー!」
「いや、なんでそうなるの⁉︎」
「お互い出会って幸せって事は愛し合っているって事でしょ?」
「いや!なんでそうなるの!?」
前向き過ぎるトキワの解釈に、命は思わず二度同じ言葉で突っ込みを入れてしまった。
「これからも仲良くしようね!ちーちゃん」
「ま、まあ…友達としてなら、仲良くはしてあげる」
熱の入った視線で見つめてくるトキワを命は直視出来ず、目を背けながらも突き放す事は出来なかった。我ながら本当に美形に弱いと嘆きながら、これからも彼に翻弄される日々が続く予感しかしなかった。