バレンタインSS
「ねえサクちゃん、今日はバレンタインデーなんだって」
闇の神子の間にて執務をこなしていたサクヤの元にエプロンドレス姿の旭がやって来るなり話題を切り出した。
「婆憐多陰とな…一体何をする日なんだ?」
「好きな人に“ち”がつく食べ物をあげて愛を告白する日なんだって。何でしょう?」
突然のクイズにサクヤはペンを机に置いて頬杖を突いて答えを探す。
「ううむ…“ち”がつく食べ物か…シンプルに血だろうか?愛の証に血を差し出すとは闇の気配を感じる儀式だな」
「違いますー!正解はこれ!」
物騒なサクヤの回答に旭は両腕を交差させて不正解を示してから手に提げていた紙袋からピンクのリボンが結んである赤いハート型の箱を差し出した。
「これは…血に染まったハート型の箱?と、いう事はつまり心臓が入っているのか⁉︎益々恐ろしい儀式だ」
「血から離れて!ただの赤いハートの箱です!開けてみて」
催促されるままにサクヤがリボンを解いて箱をあげると茶色の丸い物体が所狭しと敷き詰められていた。
「ほう、これはチョコレート…で合っているのか?」
「なんで疑問系なの?まあ、確かに見た目は悪くなっちゃったけど…」
「もしや風の神子が錬成したチョコレートなのか?」
「うん、菫と一緒に環さんに教わったの。味見したし食べれると思うよ」
意外にも環はお菓子作りが趣味だという事なので、旭は菫と共にチョコレート作りを教わったのだ。初めてのお菓子作りだったので悪戦苦闘したが、何とか形となりサクヤに渡す事が出来た。
「そうか、ならば早速頂こう」
許嫁が自分の為に苦心して作ったチョコレートにサクヤは感激して歪なチョコレートを摘んで口に放り込んだ。その様子を旭はじっと見守った。
「……どう?美味しい?」
「ああ、甘くてほろ苦くなめらかな口溶け…美味だ。ありがとう風の神子」
好評を得て苦労が報われた旭は安堵して顔を明るくさせた。
「えへへ、どういたしまして!あ、愛の告白忘れてた。大好きだよサクちゃん!」
「わ…我もだ」
いつだって迷いなく愛を告げる旭にサクヤも応えようとするが激しい胸の鼓動に阻まれて、消え入る様な声で同じ気持ちだという事を伝えると、2人のバレンタインデーは温かくも優しい時間となった。