勇者な私。
『おお!!おぬしが、異世界より来たりし、勇者か!』
そう言って、うれしそうに口をひらく、顎髭の生えたメタボな禿げ頭のオヤジ。
バシバシと私の肩を叩いてくる。ちょっと、痛いんだけど。
というか、勇者って何・・・?
私の名前は鈴木陽菜。17歳で受験を控えて連日徹夜なごくごく平凡な容姿をした、彼氏いない歴=年齢なただの女子高生だ。友達にはたまに、目つきが怖いって言われるけれど。
趣味は読書とか。ライトノベルとかも大好きだ。
常々、現実逃避で異世界に行ってみたいとは思っていた。だって、勉強嫌いなんだもん。そんでもって、王子とかに見初められたりとかして、一生税金で暮らすの。
決して、勇者になりたいなんて思ったことは一度もない。そんな気力もないし、体力は使いたくない。
まぁ、実際、そんなの空想の話でしかない―――って思ってたのに!
『いやー、かわいい愛娘が攫われてのう困ってたのだよ。相手は魔王だから敵わぬ――だから勇者を呼ぼうってことになってのう!!』
いまだホクホクと口を動かしている、オヤジ。なんか仰々しい恰好に、王冠らしきものを頭にのせてるから国王っぽい。
『さぁ、異国の勇者よ!!わが姫を取り戻してくれたまえ!!っえ!?戻る方法なんか知らんよ―――げふっ』
ああ、今まであまり頭の中、整理できてなかったから反応しなかったけれど、つい股間を蹴ってしまった。なんか、国王の周りに寄ってきた奴らが、睨んでくる。ムカつくから睨みかえしてやると、ヒッって言われた。仕方ないじゃん。こっちは徹夜明けなんだよ、ストレス溜まってんだよ。しかも帰れないってなに!?
「ふざけんなよ」
中指を立ててやった。
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二日後。私は旅に出た。姫様を取り戻すために。
メタボオヤジの首を掴んでガクガク強請ったら「魔王なら帰せるかも・・」と言ってたから。かりに魔王が返せなくても、魔王城にはたくさんの本があるらしい。あくまで“らしい”だから信用はできないけれど。まぁ百聞は一見にしかずって言うしさー。姫はついで。
あぁ、旅は私一人ではない。一応、魔導師やら神官やら剣士やらがいる。みんな強いらしい。あ、私も強いらしい。なんだか、異世界から来るやつはみんな魔力がすごく高いらしいんだよ。ご都合主義だな。
あと、聖剣とやらも貰った。みすぼらしいから役に立ちそうにないけれど。
『いやーん、私、怖ーい』
『ふふ、俺が守ってやるよ、この剣でな』
『わたくしも、おそろしいですわ。だって、あそこにはたくさんの魔物がおるのでしょう?』
『私が、魔法で吹き飛ばしてあげるよ。だから君は安心して』
『ヒラルド・・・♥』
「・・・・・・・・・」
私の旅仲間は、私含めて5人。しかもなぜか4人は付き合っている。つまり、私だけ、一人身なのだ。しかも皆さん、見目麗しい。そしていつも目の前でイチャイチャイチャイチャ・・チッ。
『あっ、勇者様は大丈夫よね!?一人で』
剣士に絡みついていた大輪の薔薇のような美しさの、治癒術の得意なガーネットが声をかけてきた。
『勇者様なら大丈夫ですわよ。なんて言ったって勇者様ですもの』
返答はなぜか私でなく、聖女のユーリンが言った。彼女は魔導師の背中になぜか乗っている。魔導師の鼻の舌が伸びてる。ユーリンは豊満だから。ていうか、ガーネットいるなら、聖女のユーリンいらなくない?聖女も治癒術が得意って旅に出る前に聞いたんだけれど。
それになんかムカつくな、こいつら。普通、パーティの一人は、主人公とくっつくもんじゃないの!?それか召喚されたのが女の子だったら、逆ハーになるはずでしょ!?なのに私には相手役はいない。王子は来ないのか聞いたら、王太子はすでに妊娠中の妃がいて、第2王子はまだ7歳。さすがに私はショタコンではないから無理だった。
あとは魔王にかけるしかないか。
「ママー、あそこに勇者様たちがいるよーー!」
「どれが勇者じゃー?」
「あのさえない奴じゃないのかの?」
「きゃー、ガーネットさまよー。ユーリン様もいるわ。ああ、ヒラルド様も、ジークレーン様もいる―」
「相変わらず綺麗ねー。あの一番さえないのが勇者なのーー?あんなので姫様救えるわけなくない?」
「言っちゃだめよー。かわいそうだしさ」
「ガーネットさまたち、頑張ってくださーい!!」
行く先々でもらう、声援。主に私以外のだけれど。なんか冴えないとか言われた。そんなの本人が一番、理解してるってのに。しかも、憐れまれてる。惨めだ。
いっそのこと、この国の奴ら、滅びればいいんじゃないのか?私は反対しない。
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旅に出て6日目。私たちは魔王の住む、魔王城についた。かなり近かった。徒歩だったんだけれど、6日でついた。案外、仲良いんじゃないの?魔族とさ。
魔王城には簡単に入れた。入るまでにたくさんの魔族?っぽいのが“勇者、覚悟−!”ってきたけれど、私が軽く手を前に出して、「飛んでけ」とか「失せろ」とかいったら簡単にいなくなった。なんか後ろの方で、何もしてないくせに「私たちの愛のパワーね」とか言っているやつもいるが・・・こいつらのほうを消すべきか?
まぁ、いい。とりあえず、
「魔王!いるかー?姫かえせー、そんで私を帰せー!!」
そう言いながら、私は大きなドアを普通にあけた。
当たりだった。もうすごく、当たりだった。涎が垂れるほどに格好いい。
鼻筋が通り、目は鋭い感じ。瞳は赤色で、髪は漆黒。魔王っていうくらいだから、鬼でゴリラみたいかと思っていたら、ここは女の子のあこがれな格好いいが通っていた。
文句なしのイケメン(死語)。しかも彼(魔王)の周りがいかにも“魔族です”みたいな格好だから、余計に目立つ。
『ほぅ・・・おぬしが勇者か・・』
魔王は床よりも大分高いところの豪華な椅子に腰をかけていて、上から目線でこっちを見てきた。
うぅ、声もいい!!
そう思っているのは私だけじゃないみたいで、ガーネット達も顔を赤くしている。
おーい、彼氏さんが怒ってますよー。
『姫を・・取り返しにきたか・・・』
「はい、そんで私を元の世界に帰して・・・でも魔王様となら・・・」
後半は小さく呟く。聞こえると恥ずかしいしね。
『ふん、ただでは返せぬ、それに我もお主の帰し方は知らん・・』
えっ!?やっぱりしらないのかぁ・・じゃあ・・・
「じゃぁ、姫を取り返して、本をもらってくよ!!」
そう言って私は手を突き出した。ついでに聖剣は途中の宿に忘れてきた。
『ふん・・・来るがよ「ちょっと待ってーー」』
魔王の声が、甲高い声に遮られた。遮ったのは、桃色の綺麗なドレスをきた銀色の髪の美少女・・・
「誰・・・?」
でも流れからすると、姫か?
『まちなさい!!この方に手を出さないで!!いくら勇者でも許しませんわよ?』
そう言って、魔王と私の間に立つ彼女。魔王の椅子まで、すごい勢いで走ってきた。
『姫・・・』
魔王が姫って言った。そうか、やっぱり姫なのか。でもなんか嫌な予感がする。
『私は、帰りませんわ。だって・・・デューンのことが・・・愛しているのですもの・・・』
『姫・・・いや、シェリス・・・』
頬を赤らめた姫と、恥ずかしそうな・・でもすごくうれしそうな魔王。
なんか、ハートが散っている。
「・・・・・・・・・・」
『というわけで、勇者様。悪いですけれど、わたくしは帰りませんわ。愛するデューンと共にここで暮らすと、お父様にお伝えなさってくださいまし』
つんと澄まして、姫は言った。
『なんだ、めでたし、めでたしじゃん』
『種族を超えた愛・・・素敵ですわ』
『俺たちも見習わなきゃな』
『そうですね』
そんな姫様と魔王をみて、納得する私の仲間たち。
『じゃあ、帰るとするか』
そういってUターンする、彼ら。
「ちょっと、待て」
後ろから声をかける。納得がいかない。
しかし、彼らは私なんか無視してスタスタと帰ろうとする。各々、腕を組合ながら。
止めなきゃ・・・。
そう思って、入口に手を掲げた。
入口が音を立てて、粉々になった。
仲間・・・だった者たちが唖然とこっちを見てくる。
いや、でもさ。
納得いかないじゃん?
・・・だってこいつら勝手すぎでしょう。私の事を全く無視して帰ろうとするなんて。
沸々と怒りが湧いてくる。
「ふざけんなよ」
勝手に呼び出して、しかも帰し方はわかんない。それに、結局は姫は魔王とくっついて・・・私は一体・・
「何なの?これ。ふざけんじゃないわよ。勝手に呼び出しといて、帰し方はわかんない。仲間の奴らはなんもしないで、イチャイチャしてばっかり。しかも元凶の姫は魔王とくっついて・・・結局、損してるの私だけじゃん。なんなの?このクソゲーみたいなのは」
私の頭の中の何かが、音を立てて切れた気がする。
だって、私は自発的に来たわけじゃない。私はハッピーエンドじゃないし逆ハーレムもない。もしかしたらもう家族にさえ(今はじめて家族を思い出した)会えないかもしれないなんて――――
「納得がいかない」
許さない、許さない、許さない!
私をこんな目に合した、この国の奴らは全員許さない。
私は姫と、魔王の方へ向いた。
彼らの顔は心なしか引きつっている。
失礼しちゃうね。私が魔王みたいじゃん。
「消えろ」
手をかざしたところから、濃い闇が溢れる。そして、魔王を飲み込んだ。魔王が突き飛ばしたから、姫は助かっちゃったみたい。ふふっ。
「ごめんね・・すぐに後を追わしてあげるね」
そう言って、また姫の方へ手を向けた。
なんだか泣いているけれど、知らない。許してなんかあげないんだから。
姫を消して、私はさっきまで魔王が座っていた椅子まで行った。
そして腰を掛ける。
足を組んで、片肘を肘掛に乗っけて、顎をその上に置く。
目線を下に向けると、さっきまでの仲間と、今まで茫然と成り行きを見ていた、魔王の部下たちがこっちを見ていた。
私の口元に笑みが浮かぶ。
「魔王は、やっぱ黒髪だよね。私も黒いし・・・魔王も消したしさ。私が魔王でもいいよね?」
そう言ったら、数人が納得できなかったみたいで、こっちに走ってきたから、とりあえず消えて貰った。
「文句ある奴は、来な。相手になってあげる。消すだけだから」
そう言ったら、誰も来なくなった。
「ああ、お前たちは帰してあげる。そして、あのおやじに伝えて。新たな魔王がうまれましたってさ」
そういうと、ガーネット達は引きつった顔をしながら、帰って行った。一応、勇者一行だったのに、全く向かっても来なかった。なんか拍子ぬけ。
「まぁ、いいか。ああ、私の名前は鈴木陽菜。元勇者で、今日から魔王ね?逆らおうとはしないで。できるだけ穏便にするつもりだからね・・」
そういうと、まだ、この場にいた魔族たちは一斉に頭を垂れた。どうやら納得したみたい。
「ふふふ」
鈴木陽菜、17歳。未だに彼氏いない歴は爆心中。職業は女子高生から異世界で勇者そして改め魔王です。
誤字が、すごく多そうです。すみません。