三匹の狼
ゴブリンを倒した後は、持ってた剣を磨いてみた。
川辺にあった研ぎ石みたいなもので削るだけの作業だが、それだけで切れ味は多少戻ったと思う。
ゴブリンの肉は不味そうなので、そのまま川の下流付近で投げた。
本当は穴を掘って埋めたいが、あいにく穴堀に使えそうな石や木がなく、めんどくさくなったからだ。
「とりあえず最初の敵は倒したけど、これって血の匂いとかで新しい敵を呼びそうだな」
少し上流に移動する。
ついでに赤い実は食べれそうな分を摘み、余った布でくるんだ。
川魚も少しとり、余った皮を布と一緒に巻き、火をうつす。せっかく着けた火なので、上流で乾いた木をみつけて移すつもりだ。
昼間に松明ってのも変だな。火種のみ簡単に保管できる方法もあったと思うが、アウトドアの知識がないので断念する。
上流に着いたが、特に変わった所はない。
ひょっとしたら、上流か下流のどちらかに人里があればと思ったが全く人気や痕跡もない。
やはり、一定時間ここにいなければならないのか。
それとも死ぬまで元に戻れないのか。
刑務所の閉ざされた部屋で看守のいいなりになるより自由はあるが、衣食住が保障されてないのでやはり元の刑務所の方がよいかもしれん。
ここでは衣食住どころか、命の危険もあるからな。
と、思ってると風上から獣臭がしてきた。
剣を手に取り、手近な石を右手に持つ。
よく見ると、狼みたいな黒い獣が三匹やってきた。
これも狼ではなくモンスターなのだろう。
まずい。
元の世界でも狼と人間では一対一ですら人間が負ける。
それが三匹もいやがる!
しかし、うち二匹はひどく痩せて、狂犬病のように口からビチャビチャ涎を垂らしている。
もう一匹は比較的痩せてはないものの、目が血走ってやがる。
いくら剣道をしたり、趣味で柔術や古武術をしていても、対人間の技だ。
獣相手にどれだけ通じるか。
ここでラノベなら、急に魔力に覚醒するとか、加護が発生するとか、味方が現れたりご都合主義が発生するんだろうなーと、他人事のように思考がそれてしまった。
現実逃避はやめて、目の前のピンチに戻ろう。
とりあえず元気のない二匹が先頭になって走ってきた!
右側の狼へ石を投げるも避けられたが、一度ストップしたので、短時間ではあるが一対一に持ってこれた。
左側の狼が首筋目掛けて飛んできた!
剣を構えて、歯を目掛けて横凪ぎに振るう!
そのまま狼の頭部まで刃が食い込む。
もう一匹が飛んできたが、とっさに剣を捨て、首を両手で掴み地面に叩き込む!
鼻が岩にぶつかり、「キャンッ」と鳴き声をあげる。
そのまま左足で首を押さえ込み、剣を拾い最初に切った狼ごと剣を突き刺す!
これで二匹倒したが、もう一匹を見ると最初の位置から動いてない。
様子を伺ってるだけなのか、動けないのか。
好都合なので、足を使い、剣にくっついてる二匹の死骸を剥がす。
剣を構えるも残る一匹が向かってこないので、こっちから走って向かう。
どうやらもう一匹は見た目は痩せてないが、何かの病気なのか「ヒューヒュー」と荒い呼吸をしている。
好都合だ!
そのまま走った勢いのまま剣を突き刺す!
避けようとしたが、そのまま突き刺さり最後の一匹も無事に殺せた。
狼三匹を殺せるとは思わなかったが、無事倒せた。
ふと思い出したが、ファンタジーのモンスターといえば、体のどこかにある魔石とかが有名だ!
剣を使い、解体してみる。
どうやらファンタジーあるあるは正解のようで、心臓に爪サイズの黒い石が三匹ともあった!
何に使えるかわからんので、そのままポケットベルにしまう。
血に汚れた剣と手を川で洗い流す。
ついでに毛皮とか剥ごうと想ったが、毛皮のなめしかたとか解体の仕方がわからんので、ゴブリンと同じように川に三匹とも捨てる。
とゆーか、三匹とも何かの病気だったかもしれんので、少しくぼんでる岩に川の水を汲み、岩に火をあてて温水を作ってみる。
あまり温まらないので、焚き火に小さい石をくべる。石が暖まったきたら、枝を使い石をさっきの汲んだ水にいれるとうまく熱湯ができた!
少し冷ましたところで、温水を使いもう一度手を入念に洗う。
ついでに剣も煮沸消毒しとこう。
気づけば少し日が落ちてきた。
時間的に6時間ほど、この世界にきて経ってると思う。元の世界であれば朝の起床時間のはずだ。
これで、時間経過で戻る可能性は薄くなった。
戻るには、死ぬか他の方法が必要かもしれん。
あぁ、来週には頼んでた週刊誌がくる予定だったのに。
殺人で服役中の俺には誰も面会や手紙もなく、唯一の楽しみが本を読むことだったのだが。