最初の敵
気づけば森の中だった。
「なんで太陽がでてるんだ」
さっきまで、就寝時間だったはずだ。
刑務所には時計がないので、正確な時間がわからないが、夜中なのは間違いない。
現状の確認をしながら、アキラは今の状態を確認した。
とっさに掴んだ服とタオル以外は、寝間着姿で裸足だ。
しかも森の中。
もちろん裸足のため、土が足の裏にあたり冷たい。
太陽はでているが、森の中ということで少し肌寒い感じだ。
「ともかく夢オチじゃなさそうだな。これが異世界とかラノベの世界なら笑えるけど。あ、この間ケンタローに教えてもらったラノベと似ているなー。」
図書工場なので、色々な本を見るが最近の流行は異世界転生ものだ。
単にみんな現実逃避したいだけかもしれんが。
「ともかく足元をちゃんとしないとな。」
手にした服とタオルを使い、足を布で巻いていく。
尖った石を踏まない限り大丈夫だろう。
こんなときは不用意に動かない方がいいと思うが、ふと最近の惨殺事件を思い出した。
深夜に地震があったあと、必ず惨殺死体が発見されるあれだ。
「もし死体のやつらが同じ目にあってるとしたら、この先は刃物をもったやつとのバトルが待ち受けてそうだな。お、いい感じの木を発見。とりあえず木刀代わりになるか。」
アキラは刑務所にはいるが、元々部活で剣道(古武術)を習ってたので、なにか棒があればそれだけで安心できた。
大学まで剣道はしていたので、多少の心得はある。
「けど刃物相手には心許ないな。あ、この石ならとっさに投げれるな。ボール状だし。角が丸いってことは川か何かで削られてるはずだから、水場も近いのかな」
辺りを警戒しながら進むと、水気が強くなった。
川の音も聞こえる。
茂みを抜けたら予想通り川があった。
「水筒とかなんもないけど、とりあえず水分ゲット!惨殺死体が発見されるのは朝方だから、あと数時間生き延びればよいのか、はたまた時間軸がずれててもっと時間が必要なのか。」
アキラのなかでは、非現実の状態であることは確定している。
そこに何も疑問がでなかったわけではないが、そもそも刑務所とゆう非現実の世界に三年もいるので現実を諦めるのに慣れてきただけかもしれない。
「あとは火の元と食料か。バラエティーでは木の実とかあるんだが。お!なんか赤い実を発見。」
赤い実は、川のすぐ側に生っていた。
「とりあえず食べる前にパッチテスト?すればいいのか。潰した実を肌に塗って、何もなければ少量を舌で舐めて、何もなければ少しずつ食べれば良いんだっけ? 肌に塗ってる間、川魚とかとれれば良いけど。」
パッチテストしながら、川の真ん中にあるデカイ石を発見!
さらに大きい石を川辺で発見したので、何漁だっけ?石をぶつけて振動で気絶する魚を取った。
「火を起こすには、木の枝の摩擦でできるかな? うわ、しんど!!腕が痛いわ。」
格闘すること一時間ほどし、無事に火を起こした。
その間にパッチテストと少量を舌に塗って何もなかったので、そのまま赤い実を食べ、川魚も木の枝にさして丸焼きにする。
「塩がないとショボいな。」
刑務所のブタ飯に慣れてるので、まだ口にはできたがシャバだと到底食べたくない味だったが、次に食べれるのはいつになるか分からないので食べれるときに完食する。
「このまま、マッタリモードで戻れればいいけど、そうもいかないんだろーなー。」
案の定、悪い予感は的中することとなる。
火をくべてる時に、茂みから物音がした。
何か生き物が落ちた枝を踏み抜く音だ。
とっさに拾っておいた石と木の棒を手に取る。
茂みから現れたのは、腰布だけきた緑の小人だ。
ゴブリンってモンスターだろう。
一匹だけで、左手の指が全部なく右手には西洋の剣を持っていた。
「まさか、本当にモンスターがでてくるとはな。しかも武器持ってるし。とりあえず先手必勝だ!」
石を投げてみる。刑務所で鍛えた遠投を思い知れ!
当たりはしたが、残念ながら左肩に当たっただけだった。
間髪入れず、ゴブリンに接近する。
握った木の棒を振りかぶり、勢いのまま振り下ろす!
上手く脳天に当たった!
が、木の棒は砕け、ゴブリンは剣を落とすも、まだ生きているようだ。
そのまま剣を拾い、先端を突き刺す!
緑の返り血を浴びた。
そのままゴブリンはピクピクいうと息絶えたようだ。
「ゲームの世界とかラノベの世界だと、これでレベルアップするよな?? ためしに、、ステータス!」
「なんもでないし!息があがってレベルアップしたかもわからん!まぁ、こんなもんだよな。」
とりあえず最初の敵は討伐成功だ。
複数いるかと思ったが、この一匹だけのようだ。
このまま何事もなければ良いが。