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遅くなりました。
今後続きを読むか止めるか、反応が分かれる話かもしれません。
思っていたのと違う時は、そっと閉じてくださいね。
「あの、コレ何て書いているんですか?」
プレートを指差しながら問うと、旅人はパッと顔をあげる。
「あ、そうか。
プレートの文字は、特殊文字って設定だった」
何かを納得した表情をすると、プレートに手を翳し何かを唱えた。
するとプレートの文字が、私にも分かる文字へと変化した。
[クイン]
[A級冒険者]
[東国の刀使い]
その3つだけが浮き出る様にプレートの上に見えた。
「どう?見えるかな」
「はい。クインさんと言うんですね。」
旅人‥クインさんは心配そうに確認し、私が名前を呼ぶと嬉しそうな笑顔を見せた。
私はふと覚えた違和感にハッとする。
クインさんの顔がさっきまでと何だか違うのだ。
いや変わってはいないんだと思う。
私の認識に変化があったのだ。
サラサラの金の髪の美形だと思うのは変わらない。
けれどさっきまでのクインさんは、何というか絵に描かれたというか陶器で作られた置物の様な、そうだ、ビスクドール的な印象だった。
それが突然、生きた人間に見えたのだ。
それだけじゃ無い、自分自身にも変化を感じていた。
私の指先はこんな風に滑らかに動いただろうか。
私のスカートはこんなにも軽く靡いただろうか。
頬を擽る髪の毛のふんわりとした動きは今までに感じた事があっただろうか。
自分自身の体温を感じる不思議な感覚。
何よりも、室内でも差し込む光の微妙な反射や香り色の違いといった自分の周りの物全てが息づいて見えた。
何故かは分からないけど、たった今、私の住む世界の仕組みが変わったんだと感じた。
あの本は真実を書いていたんだ。
ふと、私はこの村に移住して来る前の事を思い出した。
移住前、私は王都の図書館に勤めていた。
沢山の本が並ぶ本棚の本の中身は白紙なのに、司書の誰もが疑問に思わない事も疑問に思わなかった。
誰にも読めない本だらけの図書館なのに。
私はそこである一冊の本と出会っていた。
禁帯出本の並ぶエリアの中央の足元近くの棚に、それはあった。
『この世界に疑問を持つあなたへ』と書かれた、発行年月日も著者も分からない本。
開くと白紙ではなかった。
そうだ、あの本の文字はクインさんのプレートの文字の様に浮いていたんだ。
私はその本を隠れて持ち帰ってしまった。
一頁捲るその度に、想像がつきかねるありえない内容で埋め尽くされた文字の攻撃を受け、とうとう私の脳は耐えきれずに意識を失った。
気付いたら、3日も無断欠勤していた。
私は正直に本を持ち出したことを上司に報告して、意識を失う原因になった本の内容を話した。
だがその本は上司には見えなかった。
他の者にも見せたがやはり見えなかった。
その内、私が欠勤したという事実さえもが有耶無耶になり、前と変わらない日常が繰り返されていた。
私だけが知った沢山の疑問と、鏡の向こうのような現実味のない毎日と、疑問さえ抱かない仕事仲間や利用者達が、ただ怖かった。
まもなく私は図書館を辞めて、この村まで流れ着いたのだ。
読んでいただきありがとうございました。
この先はゲーム風な世界から、少し現実味を帯びた世界に突入して行く予定です。