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見てしまった。


ある日の事だ。

半年も起きていない昼夜逆転現象に安心しきった私は、村の敷地を少しだけ離れて遠出をしていた。

目的は、川向こうに砂漠が見える崖下の三角州に一本だけあるみかんの木。


そろそろ実が大きくなって収穫時期のはずだと、浮かれながら崖の上から確認すると、すずなりの黄色い実が見えた。

みかんの木のある小さな三角州の緑地帯に行くには、少し遠回りをしなくてはならない。

緑地帯を目の端に入れながら崖を降りている時だった。


光ったり空間の歪みといった現象もなかったのに、気がついたら緑地帯に人が居たのだ。


旅人だ!

私は直感的に感じた。


突然現れた旅人は直ぐに懐から白い紙を取り出して何かを確認し仕舞い込むと、対岸の崖の方に向かい川を泳ぎ出した。

川には時々ゾンビが出現する。

旅人はその事を知らないのだろうか。

少し心配しながらも、私は旅人がみかんに気付かずに対岸に行ってくれた事にホッとしていた。


収穫は旅人が居なくなってからにしよう。

そう決めた私は、旅人の行動を観ながらその場に留まる事にする。


無事に対岸の崖下に泳ぎ着いた旅人は、急な崖を軽々と駆け上ったかと思うと、途中にある杉の木陰に入り素手で木の幹を叩き出した。


既で木を殴るなんてアホなのか?

と思っていたら、木が削れていく。

杉の木はあっという間に丸太になった。

一本分の丸太を手に入れた旅人が次にしたのは、木材を作る事。

もちろん素手で。


淡々と素手で木材に加工する旅人。

素手で木を倒したり加工出来るなんて、なんて馬鹿力なのだろう。

あの旅人、なんだか分かんないけど怖過ぎる。


私は何も見てない。

ここには居なかった。

観られていたと気付かれたら、自分もあの杉の木と同じ運命になるかもしれない気がした。


みかんは今度にしよう。

川を挟んでお互いほぼ同じ位置に立っているが旅人は私に気付いていない。


旅人は作ったばかりの木材で何かの土台みたいなものを作り始めていた。

私はそんな旅人の行動を見据えながら、少しずつ後退を始めた。


土台が出来ると旅人はその上に残りの木材を乗せる。

すると木材がパッと剣とツルハシと斧の形に変わった。

旅人が斧を手に持つと剣とツルハシは消え、斧を振り上げ土台に向かって振り下ろすと、なんと土台は破片も残さず消えた。


だが、旅人は消えた土台の事など気にせず斧を手にしたまま崖を登り切り、スタスタと杉の林の中に入って行った。


私はふと、あの土台を見たことがあると気付いた。

副村長の家にだけ置いてある作業台と似ている。

確かとても貴重な物で、村に一つしかない物だと誰かが話しているのを耳にした事があった。

そんな凄い物を作り出して、しかもそれを簡単に消せる旅人に対して、私は畏怖を感じた。



ドゴドゴドゴ‥

しばらくすると林の中から斧を振る音が響いてきた。

木を斧で伐採しているらしい。


かと思うと、

メェーメェー

と羊の鳴き声が聴こえて

メェーギェー!

メェーメェーギェー!

ギェー!!

続け様に絶叫に変わった。


何?

私はビクッと体を竦める。


アル村では動物を殺す事は滅多にない。

結婚式などの祝い事で肉を振る舞う時以外は、基本的に菜食だからだ。

ちなみに動物性タンパクの摂取は、牛のミルクと鶏の卵からで足りている。

なので私を含め村人は、死の絶叫などほとんど耳にした事がないのだ。


きっと簡単に生き物を殺したのだろう旅人。

恐怖で体が震えてくるのを止められなかった。


あの旅人が村に来たらどうしよう。

「と、とにかく報告しなきゃ」


私は村長に旅人出現の全容を報せる為に、崖を戻り村に向かって走り出した。

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