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警視庁 不可能犯罪係の 奇妙な事件簿  作者: 夢学無岳
第一話 プロローグ「800万分の3の青酸カリ」
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5.ダウンロード

 氷室と猫屋敷が、ある程度取り調べを終え、捜査本部に戻って来た時、早乙女がパソコンにパスコードを打ち込もうとしていた。

 本部長をはじめ皆が、早乙女の後ろからディスプレーをのぞき見ている。氷室と猫屋敷はその後ろに加わった。


「入力しました。あとはエンターを押すだけです」


 早乙女が言うと、谷垣は首肯した。

 カウントダウンが停止し、画面にウインドウが現れる。ダウンロードの許可を求める表示をクリックし、ファイルを開くと、それは四ツ谷ヨントリー府下工場の、納品書、検品書、帳簿や裏帳簿などの写真だった。


「なんだこれは」


 ざわつく捜査員の後ろから、氷室が、よく通る声で言った。


「これぞ令和志士! 一世一代の爆弾にございます!」


 皆、氷室に視線を向ける。


 猫屋敷は「それ、食品偽装の証拠っすよ」と口を出した。

 捜査主任が「食品偽装とは何だね」と聞くと、猫屋敷は、


「古くて使えねえ原料で製造したり、賞味期限が切れたヤツを、ラベルを張り替えて販売することでござんす」とドヤ顔で答えた。


 捜査本部入り口のドアが開いた。


「あのう、四ツ谷ヨントリーから、工場閉鎖や開封した商品などの損害賠償を請求したいと電話が来てますけど」


 事務の女性が、パソコンの前に集まる捜査員たちに報告した。

 それを聞いて、皆「やれやれ」と肩をすくめた。

 本部長は厳しい顔で「容赦するな」と言うと、捜査員たちは「はっ!」と敬礼し、新たな仕事に取りかかった。




 数日後の昼下がり。

 報告書を書き終え、不可能犯罪係は茶菓子を囲んでいた。事務の天海あまみがお茶を配る。


「みんな、よく頑張ってくれたわ」と早乙女が皆の労をねぎらった。

 猫屋敷が言った。


「佐藤さん、罪、重くならないといいすね。青酸カリ入りペットボトルだって、飲めないように、接着剤で蓋が固められてたんすよね。爆発の予告時間は商品の発送前にして、毒入りが出回らないように考えていたし」


「大勢に迷惑をかけたんだ。その償いはする必要がある。責任の一端がある我々警察も含めてだ」と剣崎。


 テレビでは、四ツ谷ヨントリーの社長や取締役が辞任したニュースが流れている。

「そうすね」

 彼は海苔煎餅をとりながら、「ところで」と、氷室を見た。


「氷室さんて、何歳なんすか?」

「喜寿でございます」


 上品にお茶を飲んでいた氷室は微笑んだ。

 猫屋敷がよく分からないような顔つきだったので、天海が「七十以上よ」と教えた。


「へえー、そうなんすか。俺、定年は六十だって聞いてたから、すごく老けて見えるなって思ってたんすよ」


 無邪気に笑う猫屋敷を見て、皆は首を横に振った。

 早乙女が「失礼よ」と彼をたしなめる。氷室は笑って「私、嘱託ですから」と言い、まったく気にしてないようだった。

 猫屋敷は「すんません」と氷室に頭をさげると、早乙女に顔を向けた。


「じゃあ……、あの、係長って何歳なんすか? 若く見えるけど」


 皆は再び深くため息をついた。

 剣崎は「この馬鹿新人」と険しい顔をし、餅柿は小さな声で「女性に年齢を聞くとは……」と首を振った。天海は「猫ちゃん、最低」と眉をひそめる。


 猫屋敷はよく分からないような顔つきで早乙女を見る。

 だが、彼女と視線が合うことはなかった。






第一話 了




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