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警視庁 不可能犯罪係の 奇妙な事件簿  作者: 夢学無岳
第三話 「鬼島の三密獄門」
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9.真相

「私が知るわけありません」


 葉三は白を切った。


「三人が扉から逃げなかった理由、それは、あなたが作った装置に拘束されていたからです。あなたは、装置は倉庫の中にはないと言った。それを作ったのは外ですね」


「そんな……、証拠もないのに……」

「無いと言いましたか?」


 早乙女が、葉三の目をのぞき込むと、彼は怯んだ。


「あなたは、お兄さんたちが寝ている間に、装置が起動するように計算した。しかし、その発動は遅れました。なぜだか分かりますか?」


 葉三は目を合わせようとしない。


「寒波です。あの嵐の前の日は寒波に襲われて、南海の孤島でも急激に気温が下がりました。沼袋さん、あなたは事件のひと月前に、一人で来たと言いましたね。別荘の冷凍庫の中は、ゴミ一つない状態でした。冷凍庫に水を大量に入れて作った、巨大な氷を使ったんじゃありませんか? 作る時間はひと月、たっぷりとありました。そして、時限式の殺人装置にその氷を使った。しかし、気温が下がり、氷の溶けるスピードが遅くなった。もし、気温が低いままだったら、お兄さん方は、生きた状態で発見されたかもしれません。しかし、十一日の朝から雨が降り始めた。雨で氷は溶け、殺人マシーンの発動がその日まで延期されたのです。その時には、お兄さん方は、睡眠薬の効果が切れて、起きていた」


 葉三は眉を顰めた。


「崖の下、海中を機動隊が捜索してくれました。波が荒く、大変危険な潜水です。しかし、あなたの御蔭で、無事、証拠品を見つける事が出来ました」


「私の御蔭?」


 葉造は顔を上げる。


「ええ、見つけたのは、先端が輪っかになったピアノ線が三本です。三人の首の太さと完全に一致しました。これがどういう意味か分かりますね? 錆びていましたが、原形は留めています。それらは途中で一本につながり、全長は五十メートル以上。その端には金属製のネットに包まれた、大きな溶岩がありました。これが重りですね」


 葉三の顔は青くなった。


「あなたの作った装置はこうです。三人の首にぴったりとピアノ線を巻き付け、スリーブ配管から外へ出します。そして、氷がある程度溶けると、ピアノ線と結ばれている重りが崖下に落ちる仕掛けです。重りは落ちるとともに加速する。三人の首に巻かれたピアノ線は、凄まじいスピードで曳かれ、一瞬で、彼らの首を落としました。そのような切断面は、鋭利な刃物の切断面と区別することが困難な場合があります。ご存じでしたね」


 早乙女は葉三の顔色をうかがうと、彼は思わず目をそらした。


「部屋に残された鉄パイプのうち三本は、内部に血液が擦った跡がありました。一つのパイプの内部からは、一人分の血液しか検出されませんでした。考えましたね。万が一、睡眠から早く目覚めたとしても、ピアノ線が切られないように、露出する場所はパイプや鍋状の金具で覆ったんですよね。ピアノ線が引っ張られないように、ストッパー金具も付けられていました。三人が、なぜ、窓の前で固まっていたか? それは、パイプの長さが二メートルだったからです。三人はスリーブ穴から半径二メートルの円周上しか移動できなかったからです。ピアノ線が引かれてなくなれば、パイプや金具はバラバラになって落ちるだけ、疑われる心配はないと思われた。違いますか?」


 葉三は答えない。


「きっと、ピアノ線の太さや、強度、遊びの長さ、重りの重量、すべて計算したはずです。確実に首を切断するだけのスピードと強度が求められるんですから。まったく、恐ろしいルーブ・ゴールドバーグ・マシンです」


 早乙女は思い出したように「そうそう」と言った。


「あなたの御蔭と言ったのは、その重りの選択です。一緒に落ちた装置のほとんどは壊れて流されましたが、重りの溶岩は、ちょうど岩場に挟み込み、その場に留まってくれました。長いピアノ線も岩場に絡み付き、海流に流される事を防ぎました。実に幸運でした」


「だ、だからと言って、わ、私がそれを使ったとは限らないし……」


 葉三は震える。

 早乙女は彼に顔を近づけた。


「沼袋さん、この仕掛けは、島民の方が使ったと言いたいのですか? それはありません。殺害があった日は、嵐のため、島の出入りが不可能になったんですよ。どうして、わざわざ自分たちが疑われるような方法を取るんです? もし、拘束できる状態だったのなら、例えば崖から落とすとか、いくらでも事故に見せかける方法があったでしょう。三人に睡眠薬を飲ませることが出来たのも、沼袋さん、あなた以外いません。そうですよね?」


 早乙女は葉三を見つめる。

 彼は諦め、しぼんだ風船のようになった。



 早乙女はやさしく「理由を聞かせてくれますか」と言った。

 葉三は黙っていたが、しばらくして、口を開いた。


「兄たちは……、父を殺したんです。自分たちの欲望のために、実の父親を殺したんです。半年前、一緒に酒を飲んでいる時に、泥酔した兄が口を滑らせたんです。三人で共謀して、カリウムを注射して心不全を起こさせたと……。全員に確認をとりました。はじめは否定してましたが、証拠がないこと、訴えるつもりがないことを知ると、本当のことを話してくれました。兄たちは父を殺し、遺言書を偽造したのです。父が心血を注いで大きくした会社は、兄たちの餌食になりました。大勢の大切な社員が、路頭に迷う寸前でした……」


 葉三は早乙女を見る。


「刑事さん、ふくろうって知っていますか?」

「梟、ですか?」


「はい、あの鳥は、昔は、親を殺して食べると信じられていたようです。だから、梟は首を切って木に吊るす、そういう習慣があったそうです。斬首刑のことを別名、梟首きょうしゅと言うのは、それからだと聞いています。首を切って吊るす……。親殺しには、当然の報いじゃありませんか」


 葉三はそう言うと、両手を揃えて、早乙女に差し出した。

 早乙女はそれに手を添える。


「沼袋さん、言いましたよね。私、今日は休日です。手錠は持っていません」


 葉三は、不思議そうな顔で早乙女を見る。

 その時、デザートが運ばれてきた。


「とりあえず、料理を楽しみましょう。その後は、沼袋さんにお任せします」


 彼女は窓の外を見る。

 警視庁まで歩いて行ける距離。

 葉三はすべてを悟った。

 早乙女に身体を向け、両手を膝の上に置いて姿勢を正す。


「最後に、早乙女さんと食事ができて良かったです。本当にありがとうございました」


 彼は、寂しそうな笑顔で頭を下げた。





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