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警視庁 不可能犯罪係の 奇妙な事件簿  作者: 夢学無岳
第二話 「自動人形館の殺人」
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10.連行

 半澤は、工藤の話を聞いて、「嘘だ! 嘘に決まっている!」と喚いた。

 高木は納得した顔で言った。


「なるほど、それで謎が解けました。工藤先生、あなたは被害者に脅迫されていた。過去に詐欺にあい、恨みを抱えていた。殺人の動機としては十分ですな」


「待ってください!」工藤は「私は殺していません!」と叫んだ。


「先生、お気持ちは分かります。私だって、先生が逮捕されたら、今まで投資した分がパーになってしまいます。大損ですよ。できれば、先生が犯人であって欲しくない。だから、お気持ちは分かりますが、大人なら潔く罪を認めましょう。DNA鑑定の結果は、すぐに出るのですから」


「いや、その行為認めますが、殺しは私じゃない。どうして私に殺せるというのです。する訳がない!」


「そ、そうですわ。先生ではありませんわ!」

 蓮見はいきり立った。


「どうですかな。蓮見さん、あなたが部屋に戻ったのは零時三十五分だったと言いましたな。工藤先生は、あなたが部屋に入るのを見ると、急いでキッチンに戻り、包丁を持って、被害者の部屋へ行き、彼女を殺害した。そして、自室に入る前、女性の喘ぎ声を聞いたと証言することで、彼女がその時間、まだ生きていたように思わせようとした。違いますか? 被害者と工藤先生が親密な関係だったと明らかになった今、これで筋が通るんじゃありませんか」


「通りません! ぜんぜん通りません! だって、私、何も聞いていませんもの! 隣の凉乃さんの部屋からは、物音ひとつ聞いてません。ノックの音も、話し声やグラスの音、人の争う音、何一つです!」


 蓮見が言うと、全身を縛られた山田が、


「肉体的に親密な関係と言ったって、被害者にとっては脅迫した相手ですからね。当然、警戒はするでしょう。少なくても、私ならしますね」と言った。


 高木は言葉を詰まらせた。

 ウロウロ歩き回った末、閃いたように口を開いた。


「なるほど、そうか、殺害時刻ですな。さすがに私も、うっかり騙されるところでした。殺害は、あなたが蓮見女史と別れた後ではなく、お会いする前ですな。つまり、二十三時五十分前後。先生、あなたは、蓮見女史が自室を出るのを見張っていた。そして彼女が客室へ行ったのを確認すると、急いで殺害し、客室へ行ってアリバイ作りをした」


「ちょっと待ってください。私が客室に行ったのは、計画的にではなく、たまたまですわ。呼び出しもせず、会う約束をしていた訳でもなく、工藤先生が、私が自室を出るのを見張るなんておかしいですわ」


「先生には先生の思惑があったのでしょうな。殺害時刻、蓮見女史は一階の客室。半澤さんは酔いつぶれていた。隣の部屋で誰も、物音を聞く人間はいなかった。だから心置きなく、彼女の部屋を訪れることができた。工藤先生、違いますか?」


 皆、工藤に視線をむけた。

 蓮見は心配そうに工藤を見た。


「どう言い逃れします」


 高木が言うと、工藤は、


「半澤さんが酔いつぶれていた事なんて、知る由もないし、そもそも、その時間はずっと研究室にいた」と言った。


「一人で、ですな」

「そうですよ!」


 高木が探偵をしている間、早乙女は、部屋の隅で、餅柿からの報告を聞いていた。早乙女は「ありがとう」と言って、電話を切る。


「ちょっといいかしら」


 皆、早乙女に顔を向ける。


「研究室には防犯カメラが設置してあったのを覚えてますか。停電でしばらく停止していましたが、カメラは二十三時十分に起動しました。それによると、被害者が二十三時十五分に研究室を出た後、工藤さんは二十三時五十分まで、ずっとその研究室にいた映像が残っています。時間的に、客室へ直行したと考えるのが妥当でしょう」


 蓮見は、ほっと胸をなでおろした。

 高木は、気まずい顔で目を泳がせたが、思い切って工藤に視線を向けると、


「先生、申し訳ない」と頭をさげた。


 工藤は「いいんです」と不愛想に言った。



 早乙女はスマホを取り出すと、半澤の椅子に近づき、「確認をお願いできますか」と言った。


「清野凉乃の写真です。高校の集合写真、これは短大、これは運転免許証……」


 彼女は液晶画面の上で指をすべらせ、次々に凉乃の写真を見せていく。

 半澤はその写真に食い入った。

 全て見せ終わると、早乙女は聞いた。


「いかがです?」


「違います! 彼女じゃありません! これは凉乃じゃありません! 似ても似つかないじゃないですか! 何かの間違いです。刑事さん、いったい、何なんですか、これはどういう事です!」


「写真は、清野凉乃さん本人で間違いありません。ご家族、友人、関係者の証言は共通しています。免許証ももちろん本物です。それから、彼女のスマホを調べさせていただきましたが、電話帳には、ご両親やご自宅の番号が登録されていませんでした」


「じゃあ」

「はい、あなたの婚約者は、清野凉乃さんではなく、別人です。百合子というのも偽名の可能性があります。まだ、誰かは不明です」

「そんな……」


 半澤は茫然自失した。


「それから、指紋の照合結果が出ました。山田さん、あなたには逮捕歴がありました。情報窃盗の常習犯らしいですね。車からは爆薬の残留物を検出しました。ひょっとして土砂崩れは、あなたの仕業じゃありません? あとでご同行をお願いします」


 紐でぐるぐる巻きの山田は、観念したように天井を見上げた。


「それから……」


 早乙女は皆を見まわした。


「凶器の包丁に付いていた指紋ですが、誰のものか分かりました」


 皆、喉をごくりと鳴らした。

 彼女は、我を失っている半澤から、さりげなく猟銃を取り上げる。


「凶器からでた指紋は、半澤さん、あなたのものでした」


 どよめきが起こる。

 半澤は、よく分からない顔つきで、早乙女を見上げた。




「皆さん、お疲れになったでしょう。後は警察の方で取り調べをしますので……」


 早乙女が言うと、妻の腕の紐をほどいていた高木が、


「ちょっと! 勝手にお開きにしないでくれますかな。動機だとか、まだ明らかじゃないでしょう。ちゃんと最後まで説明してくれないと、今夜寝られませんよ」と言った。


「あなた、そんなの、あとで警察に聞きに行ったら良いじゃありませんこと。私、早く帰りたいですわ。皆さんだってそうでしょう」


「そうですわ」と蓮見。

「皆さん限界です。先生だってお疲れです。私だって早く仕事に戻らないといけませんし、あとは警察にまかせて……」


「私は」と工藤が言った。

「真実を知りたいです。仮にも、彼女は私が愛した女性です。一時でも、それは確かな愛でした。彼女がなぜ殺されたのか、なぜ殺されねばならなかったのか、私は知らねばなりません……。あの、正直、言いますと……」


 工藤は躊躇した。


「私は……、彼女が死んだと聞かされた時、ほっとしたのです。これで、毎月百万を払わなくてすむと、強姦で逮捕される心配がなくなると……。最低な男です。人のためにロボット開発してきた私が、愛した人が死んで喜ぶなんて、私は偽善者です、甚だしい偽善者です。私は、けじめをつけなければなりません。お願いです、刑事さん、どうか、今ここで、彼の言葉を聞かせてください」


「先生、いけませんわ。今日はもう、休みましょう。先生はお疲れですわ。これからのお仕事に差し障りがあります」


 蓮見が言うと、工藤は、


「私の事を気遣ってくれて、ありがとうございます。あなただけです。私の事をいつも真剣に思ってくれるのは。今回の事件で、私は、つくづく、あなたが私にとって本当に必要な人だと思い知りました」


 工藤が蓮見を見つめると、彼女の顔は赤くなった。


 早乙女は、客室の扉の前で、連行する半澤に、何か言いたいことがあるか聞いた。





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