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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

二度目の初恋は練乳かけて甘くして

作者: はんぺんた

 私は初恋を偽っていた。

 あの娘のお兄さんが好きだ……というフリをしていた。

 学生時代、まわりの女の子たちは好きな男子の話をするのに夢中だった。

 私はとくに好きな男子などいなかったので、聞いているだけだったが、皆がキャーキャーと楽しそうにしているのを見るのは好きだった。

 だけどある日、私にも好きな男子がいないのかと質問されたとき面倒なことが起きた。

 正直に好きな男子はいないと言っても「好きな男子がいないのはおかしい」とか「本当はいるのに隠してる」とか言われて信じてもらえなかった。

 嘘でも誰かしらの名前を言わないと解放してもらえそうにない空気だった。

 でも、だからといってクラスで人気のある男子の名前など言えば、何かしらの火種になりそうだった。

 そこで、閃いたのは親友のお兄さんだった。

 親友の家に遊びに行くといつも優しくしてくれたし、顔だってかっこよかった。

 私がお兄さんが好きだと言うと、皆は納得したように満足げに頷いて、応援する! とかなんとか口々に言っていた。

 でも、本当に好きだったのは、お兄さんではなく、その妹の小学校時代からの親友のりんこだった。

 好きだったことを自覚したのは、ついさっきのこと。

 それも十七、八年ぶりくらいに連絡をもらって、ようやく初恋に気付いたのだから自分でも笑ってしまう。

 だって、彼女が「結婚する」という連絡を寄越してきてからだなんてあまりにも鈍感すぎるだろう。

 メールに無慈悲に書かれていたその文字を見て、頭を殴られたような衝撃を受けたのだ。

 仕事帰りの歩道橋の真ん中で私は馬鹿みたいに突っ立って、通り過ぎる人の肩がぶつかりようやく我に返った。

 軽く呼吸を整えて気持ちを落ち着かせる。

 それから歩道橋の端に移動して、再びメールに目を通す。

「ひろちゃん、久しぶり! 突然連絡してごめんね。実は今度ね、わたし結婚することになりました。ひろちゃんにも式に出席してほしいなと思ったんだけど、今の住所がわからなくてメールしました。メールか電話で返事貰えたら嬉しいな。電話番号は変わってないよ」

 ひろちゃん、という懐かしい呼び名。

「鈴木真央」から「広瀬真央」という名前に戻ってまだ数日しか経っていなかったので、苗字由来のこのあだ名で呼ばれたのは本当に久しぶりだ。

 私は高校生の頃からずっと同じ携帯番号とメールアドレスを使い続けているが、今日ほど変更しないでいて良かったと思ったことはない。

 私が上京してから疎遠になってしまったりんこと再び連絡を取る日がくるなんて。

 アドレスにずっと登録したままになっていたりんこの連絡先をひらく。

 [[rb:七井理都子。 > なないりつこ]]

 子供の頃からなぜか、りんこというあだ名で呼ばれていた彼女の顔を思い出す。

 私が思い描ける彼女は、高校生の頃の可愛らしいりんこの姿だけだ。

 大学に進学するために、私が上京してから一度も会っていない。

 りんこはずっと地元に残ったままだったが、私がたまに実家に帰ったときでさえ連絡を取らなかったし、見かけることもなかった。

 だから、今はどんな姿なのか想像できなかった。

 だけど、きっと素敵な大人の女性になっていることだろう。

 二重の大きな黒目がちの瞳、整った鼻筋は化粧をせずとも十分な可愛らしさで、学生の頃はよく男子生徒から告白されていた。

 だけど、なぜか誰とも付き合わずに私とよく遊んでくれていた。

 平凡を絵に描いたような地味な私と、可愛くて、でも気さくな性格で人気者の彼女とは不思議と気が合った。

 一緒にいてとても楽しかったし、心から親友と呼べる存在は後にも先にもりんこだけだった。

 私が上京して、いつしか疎遠になってしまったが。



 メールで返信しようか……。

 でも、無性に今の彼女の声を聞きたくなった。

 震える指先でりんこの名前をタッチし、電話をかける。

 コール音と共に心臓の音もドクンドクンと自分の耳に聞こえてきた。

 一回……。

 コール音が無機質に鳴り響く。

 二回……。

 出てほしい気持ちと出ないでほしい気持ちが混ざり合う。三回鳴らしても出なかったら諦めてメールしよう。

 三回……。

 出ないな、と思って残念ながらもどこかホッとした気持ちで電話を切ろうとした瞬間、懐かしい声が聞こえてきた。

「もしもし? ひろちゃん?」

 久しぶりに聞いたりんこの声は、記憶の中の彼女の声より少し低めで落ち着いていた。

「も、もしもし。りんこ? 久しぶり」

「ひろちゃん! 本当に久しぶり!」

 嬉しそうに声を弾ませて、あの頃のように私を呼んでくれる。

 懐かしさと愛おしさが一気に蘇ってくる。

「なんか照れるね。りんこって誰かに呼ばれるのも久しぶりだし、学生時代に戻ったみたい」

「それを言うなら私だって。結婚して苗字変わったけど、最近離婚しちゃったから、ひろちゃんって誰かに呼ばれるのすごい久々」

「えっ⁉ ひろちゃん、結婚してたの⁉ ちょっと詳しく聞かせてよ!」

 最初は緊張していたが、すぐに昔のように打ち解け、お互いが会わない間の話に花が咲いた。

「でも、ひろちゃんが結婚してて、子供までいるってホントにびっくりした!」

「離婚したけどね。りんこのお相手の方はどんな人なの?」

「ん〜、優しい人かな。あとは、一緒にいて安心できる。……ひろちゃんには敵わないけど」

 一瞬間を置いて、ぼそっとつぶやいた言葉がひっかかった。

「え? 私に敵わないって何が?」

「ひろちゃんみたいに優しくて頼りになって、一緒にいると安心できて、しかも可愛い人ってなかなかいないよね」

「私が? ちょっと〜、急にそんなに褒めてどうしたの? おせじでも嬉しいけど」

「おせじじゃないよ。えっと、今だから言うけど私、昔ね……ひろちゃんの事が好きだったんだから」

 好きだった、という言葉を聞いて、私の心臓がドクンと一際大きな音を鳴らした。

「え? 好きって……私のことが?」

 あまりに衝撃的すぎて歩道橋の手すりにもたれかかる。足がガクガクと震えているのがわかる。

「そうだよ! あ〜、言っちゃった! 恥ずかしいなぁ」

「そ、そんな、恥ずかしいことないよ。びっくりしたけど嬉しいよ……」

 だって私もりんこのことが……と続けそうになった。

 だけど、既の所で言葉を飲み込む。

 好きだったと言ったところで、それはもう過去のことなのだ。

 これから結婚を控えている彼女にとっては特に。

 永遠に伝えるべきではないのだ。



 その後はもう、なにをしゃべったのか記憶が曖昧なまま電話をきった。

 頭の中では先程のりんこの声がずっと再生されている。

 私のことが好きだったというりんこの告白。

 高校時代、あの時、もし私がりんこの事を好きだと自覚していたら。

 お兄さんを好きなフリをせずに、彼女に想いを伝えていたら。

 そうしたら、今も彼女の一番近くにいられたかもしれないのに。

 激しい後悔の渦に巻き込まれた私はフラフラと歩き始め、気づいたときには歩道橋の一番上の階段から足を踏み外していた。

 落ちる直前に思ったのは、保育園に預けている子供のお迎えに間に合わないかも、ということだった。




「いったぁ〜!」

 ドシン、という大きめの音を響かせてお尻で着地した。

 とくに大きな怪我もないようで、すぐに立ち上がることができた。

 そして、すぐに違和感に気付いた。

 私は、いつプリーツスカートに着替えたのか。

 パンツスーツを履いていたはずなのに。

 まじまじと自分の下半身を見回すと、膝上丈のプリーツスカートにルーズソックス、そしてローファーを履いていた。

 目をこすり、何度見直してもその格好だった。

 これではまるで高校生に戻ったみたいだ。

 自分の全身姿を確認したくて鞄から鏡を探す。

 手に持っていたはずのブランドものの鞄もなぜか学生鞄に変わっていた。

 なにが起こっているのかわからないまま、震える手で鏡を覗き込む。

 そこにはやはり、幼さの残る高校時代の私の顔が映っていた。



「肌……ピチピチしてる」

 小じわや目の下のクマが気になっていたアラフォーの私の顔が、ハリがあって血色の良い昔の顔に戻っていた。

「こんな道端で鏡覗き込んでどうしたの?」

 ハッと振り向くと、記憶の中に残っていた高校生の頃のりんこの姿があった。

「え……? りん、こ……?」

「なにオバケでも見たような顔しちゃって! ひろちゃん、大丈夫〜?」

 あまりに放心した顔をしていたのだろうか。

 りんこは私の目の前で手を振って、おーいと言いながら意識を確認してくる。

「……えっと、今、私達、何歳だっけ?」

「は? 十七歳だけど……って、本当にどうしたの?」

 りんこは心配そうな顔でこちらを見つめてくる。

 懐かしい彼女の姿、声、香り。

 彼女が初恋の相手だったと自覚した今では全てが愛おしい。

「な、なんでもないよ!」

 どうやら、私はなぜか過去に戻ってしまったようだ。

 懐かしい高校時代に。

 ずっと、心の中で戻れるなら戻りたいと思っていたキラキラした想い出の中の青春時代。

 りんこがこんなにも近くにいる。

 顔を近づけられると胸がドキドキと高鳴っていく。

 私は二度目の初恋に完全に舞い上がっていた。

 一度目は気づかなかったけれど、初恋とはこんなにも心がフワフワとするものなのか。

「そう? ならいいけど……。ところで、ひろちゃんさ〜、聞きたいことあるんだけど」

 いぶかしむような目でじっと見てくるりんこ。

 中身がアラフォーだとバレたのではないかと不安になった。

「な、なに?」

「さっき、教室で皆の前で言ったこと……本当なの?」

「え? 皆の前で言ったこと? 私、なにか変なこと言った?」

 昔のことは印象的なことしか覚えていない。

 なんだ? りんこはなんのことを言っているのだろう?

「変っていうか……。今までそういう話をしたことなかったからびっくりしたっていうか……」

「う、うん。えっと、どの話のことかな?」

 注意深く、話の内容を探るしかない。

 身体は女子高生でも頭の中身は未来から来たアラフォーです、とはとても言えない。

「だから! ひろちゃんの好きな人が、私のお兄ちゃんだって言ってたこと!」

 私がはぐらかそうとしていると思ったのか、りんこは怒ったような声で一気にまくし立てた。

「うわっ! その話かっ!」

「その話以外にないでしょうが!」

 この話はさすがに覚えている。

 というか、まさに初恋を偽って、りんこに話したことを後悔していたときに、階段から落ちてタイムスリップしてしまったのだから。

 まさか、こんなタイムリーな場面にタイムスリップするなんて。

 こんな奇跡みたいなチャンスは二度とないだろう。

 私の事が好きだったと未来のりんこが電話口で告げた声がまだ耳に残っていた。

 一度目の人生では気づかなかったけれど、私達は両思いだったはずだ。

 私は勇気を振り絞る。

 二度目の人生は、ずっと、彼女と共に過ごしたい。

 軽く深呼吸して、まっすぐりんこに向き直る。

「あれは嘘。本当はね、ずっとりんこの事が好きだよ」

 驚いたように目を見開いて、私の事を見つめる彼女。

 その顔はみるみる紅潮していき、大きく開かれた目からは涙まで溢れ出した。

 その日、私は人生を変えた。

 りんこと恋人同士になったのだ。




 りんこと恋人同士で過ごす日々は、一度目の人生よりも確実に輝いていた。

 彼女と経験する初めてのことは、すべて私を甘く痺れさせた。

 中身がアラフォーで、それなりに経験してきたせいか、先程も女子高生がするには濃厚すぎるキスをしてしまい、りんこをびっくりさせてしまった。

 私は頭を冷やすべく、トイレに逃げてきたのだが、また部屋に戻ったら、彼女を求めずにいられるだろうか。まったく自信はない。

 というか、先程のキスを思い出してニヤニヤが止まらないくらいだ。

 りんこは純粋だった。

 純粋ゆえに、私の欲望をすべて受け止めてくれた。

 歳と経験を重ねると、人間は、それぞれ好きな性癖などもそれなりに出てくるものだと思う。

 私の場合は、キスや行為の最中に練乳をかけて舐める、ということがたまらなく好きになっていた。

 結婚するまでにそれなりの人数と付き合ってきたが、練乳を使いながらする行為では異常に興奮した。

 それが、本当に大好きなりんことだったら格別だろう。

 私は先程のキスのとき、ついに我慢できずに彼女の唇に練乳をかけて舐めてしまったのだ。

 そんな私の姿に驚いたようだったが、彼女はすんなり受け入れてくれた。

 キスをした後の、潤んだ瞳で恥ずかしそうに上目遣いに見つめてくる彼女。

 何も知らない無垢な彼女をアラフォーの私が汚しているような罪悪感を感じ、逃げるようにトイレに行くと言って席を立った。

 そう、身体は女子高生でも中身はいい歳をした大人なのだ。そんな大人が女子高生と……なんて、普通だったら犯罪だろう。

 十八歳になるまではキス以上のことはしないようにしよう、と心の中で誓った。

 忘れないように日記にも記さなければ。

 過去に戻ったあの日から、私は日記を書くようになった。

 日記とは言っても、過去の記憶といまの私が経験したことのすり合わせをする為のようなものだが。

 今のところ、過去の記憶と違っているのは、りんこと付き合いだしたということだけだった。

 だけど、それは自分にとってはかなり大きな違いになる。

 私の未来もきっとそのうち、かけ離れてちがうものになることだろう。

 そうなると、娘のさつきはどうなるのだろうか。

 このままずっとりんこと一緒にいたら、当然、元夫とも結婚することはない。

 そうなれば、さつきは生まれないことになる。

 その考えに思い至ると途端に胸が苦しくなった。

 さつきは私の宝物だ。

 自分の命よりも大切だと思う唯一の存在。

 あの子の笑顔にどれだけ救われてきたことか。

「ママ大好き!」と言って、甘えながら抱きついてきていた姿を思い出す。

 あの可愛い、私の天使にはもう会うことができないのか。

 十分過ぎるくらいに頭が冷えた私は、りんこの待つ部屋に重い足取りで戻っていった。




 初恋は実らないものとはよく言ったものだが、二度目の初恋は実りそうなものを自分で手折った。

 私はりんこと地元の同じ大学に進学する予定だったが、やはり以前と同じ東京の大学を受験した。

 りんこのことは愛しているが、さつきも自分にとってはなくてはならない存在なのだ。

 東京の大学に行くと告げると、りんこはポロポロと大粒の涙を流した。

 そして「わかってたよ」と言って、私を抱きしめるとキスをして、また泣きながら去って行った。




 それからは、ほぼ前の人生と、同じような道を歩んだ。

 ただ以前と違うのは、りんこと付き合って、勝手に東京の大学を受験し、別れたということだ。

 以前は東京に行ってからもしばらくはメールや電話のやりとりがあったが、今はもうそれすらない。

 私は予定通りに夫と出会い、さつきを授かり、そして離婚した。

 タイムスリップしても、私は結局同じ道を選んだ。

 でも、それでいいのだ。

 隣で眠る暖かく小さなさつきの手をギュッと握る。

 この子に再び出会うことが出来て本当に良かった、と思う。

 だけどもし、もう一度タイムスリップしたなら、今度はりんこに想いは告げないようにしよう。

 だって、別れた日の彼女のキスがいまだに私の胸を締め付けるから。




 気づけば、最初にりんこから結婚するというメールをもらった日になっていた。

 タイムスリップしたあの日の歩道橋の上で、私はしばらく車の流れを見つめながらメールを待った。

 だけどメールはこない。

 わかっていた。

 少しの期待にすがったが、そんなに都合の良いことは起こるはずがない。

 心の中でおめでとうを言おう。

 りんこには幸せになってほしい。

 そう思いながら空を見上げた時、突然電話がなった。

 表示された名前はりんこだった。

 まさか。

 震える指で電話にでる。

 りんこ? と呼ぶ。

「りんこ、なんて呼ばれたの久々」

 あの日と同じように記憶より少し低めの落ち着いた声で語りかけてくる。

「今日って、前にメールをした日だよね」

 いま、彼女はなんと言った?

 前にメール?

 なぜそれをりんこが知っているのか。

 急激に緊張して指先が冷えてくるのがわかる。

「前にメールした日って、なんの話?」

「とぼけないでいいよ。私、わかってるから。前のときは今日、タイムスリップしたんでしょ?」

 頭が真っ白になる。

 なぜりんこからタイムスリップなんて言葉が出てきたのか。

 そのことを、私は誰にも話していないはずなのに。

 あまりのことに動転して、言葉を発することができない。

「あ〜、びっくりしたよね。ごめんね、知ってたこと今まで黙ってて」

「な……なんで、りんこが知ってるの?」

「私、ひろちゃんが書いてた日記見ちゃったんだ」

 日記……!

 そうだ、私は過去の記憶とすり合わせるために、あの頃日記を書いていた。

 りんこと別れてから、彼女との想い出を読み返すのが辛くて書くのをやめてしまったけれど。

 りんこは、日記を盗み見てしまったことを申し訳なさそうにしながら話してくれた。

 純真なはずの私が、突然練乳をかけたい等とマニアックなプレイを望むのはおかしいと感じたりんこは、私が部屋にいない間に日記を読んでいたのだ。

「なんか変な人の影響でも受けたんじゃないかって心配になって……。勝手に読んでしまって本当にごめんなさい」

 あまりに予想外な出来事に驚きながらも、この世界で、彼女だけが私の秘密を知っていてくれた事にどこか安堵を覚えていた。

「ううん、いいよ。私こそごめんね。ずっと黙ってて。さつきが、子供がこの世に生まれないことが私には耐えられなかった」

「うん……。わかってるよ。だから私、待ったんだ」

「え? 待った?」

「今日、私がどうして電話したと思う?」

「えっと……結婚のお知らせ?」

「ブブ〜! 違います〜! ひろちゃんて、本当に鈍いよね」

「は? なに? だって、前のときは結婚するってメールしてきたじゃない」

「だから〜、私、待ってたって言ったでしょ? ひろちゃんが離婚するのをずっと待ってたの!」

 待ってたと、拗ねたような口ぶりで、だけどどこかいたずらっぽく言うりんこ。

 ずっと?

 あの日、別れてからずっと彼女は待っていてくれたというのか。

 一度しかないであろう人生の、大切な青春時代を他の人と過ごすことなく、私の日記に書いてあることを信じて待っていたのか。

 愛しさと嬉しさと申し訳なさで胸がいっぱいになり、涙が溢れた。

「ひろちゃんが離婚して、さつきちゃんも生まれている今の時代なら、きっと私ともう一度、一緒にいてくれると思ったの」

「うん……!うん!ありがとう」

「ねえ、そんなに泣かないで。大人になったひろちゃん、素敵だけど、ほら、マスカラがとれちゃってるよ」

 涙で前がちゃんと見えない。

 だけど、前から歩いてくるその姿は。

 見間違うはずがない。

 スマホを耳に当てながら、こちらに向かって手を振り近づいてくるその人は。

 間違いなく、大人になったりんこだった。

 驚きのあまり後ずさりした私は、階段から落ちそうになる。

 それをとっさに手を伸ばし、支えるりんこ。

「もうタイムスリップしないでよね」と笑いかけられる。

「したくないよ」

 だって何度繰り返したってこれ以上、最高の人生なんて送れそうにないから。

 抱きしめられてキスをする。

 会えなかった時間を埋めるように。

 深く、深く。

 練乳みたいにとびっきり甘くて最高なキスを。

 ご覧頂きありがとうございました!


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 今回も子持ちの大人の女性が主人公の作品です。

 自分自身も子供がいるので、その辺りの心情を自分だったらどうだろう? と想像しながら書きました。

 そして、またしても練乳をかけてます(笑)

これからも練乳百合は書いていきたいです!

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