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プロローグ/メロディライン

彼らの日常賛歌

-プロローグ


曲は楽譜にしたがってできるものじゃない。

曲の後に楽譜が描かれるのだ。

 判戸町(はんとちょう)はいつもどおり、ありきたりな普通性の中に成り立っていた。山に囲まれて海がなく、田舎的でも都会的でもある、どこにでもあるような町。今日の判戸町は雨の中にいた。ザアザと降り続ける雨は、土を失った地面にポツポツはねて、流れ、小さな小さな小川を作って流れていた。どこに行くということもない、たまるということもない。流れる水はその流れの方向も量も変えることのなく、一定だ。その上を歩くたくさんの傘は、色とりどりで個性的。動き方も傾き方も高さも、全て違っていた。それらは確かにどこにでもあるような日常だ。

 

 どこにでもあるような日常だ。だが、いいものだ。彼らはそう思うのだ。

 

 雨が降っているのは朝からだった。朝、枕元の目覚まし時計がやかましく時間を伝え、それをベットの横から止める。彼女はいつもの習慣で時計が鳴る前に起きていた。なら、時計はいらないような気がするが、保険として置いてあるらしい。その整った顔は既に洗ってある。白い歯も磨いてある。背中の中ほどまで伸びた真っ直ぐな黒髪も寝癖一つついていない。彼女が歩くたびサラサラと揺れた。

 外でパラパラと雨がまばらに降っている音を聞く。じめじめして鬱陶しい雨や、弾丸のように人を傷つけるかのような勢いで、降り付ける雨は嫌いだけれども、こういう雨は、たまになら好きかもしれない。

 昨日つくり置きして、冷凍しておいたご飯やら何やらを、レンジで解凍する。これらが今日の彼女の昼食になる。


 昼ごろ、雨はまだ止んでいなかった。無口でクールな美しい女性は大学の学食で友人と昼食をとっていた。すらりと背中に伸びた髪は少し茶色がかっていた。眼鏡をかけて、衣装も揃えると美人女教師というような感じの雰囲気がある。

 雨は朝より強くなっていた。途切れることなくずっと降り続けていた。「雨、止まないね」と向かいに座った友人が呟くと、女性は「そうね」と返した。でも嫌いじゃない。そう付け足した。確かに鬱陶しい雨は嫌だけども、ちょっとした雨を嫌う理由はない。涼しいし。

 

 昼過ぎ、高校は七時限の授業を全て終え、部活や生徒会なんかがない者は帰途につく頃、やはり雨は降り続いている。黒と透明な傘をさして、薄緑のブレザー姿の男子生徒が二人並んで歩いていた。黒傘のほうの男子は短めの髪と普通より少し低めの身長をしていた。少々痩せ型で、キリリと鋭い目が印象的だ。他方は高い身長と、やわらかい表情の男子だ。黒傘より一つ上の学年で、黒傘の横をふわふわした笑みを浮かべて歩いている。そんな二人の向かいから誰かが走ってきた。雨にぬれた髪が端正な顔に張り付いている。びしょ濡れのブレザーの薄緑は彼らと同じ学校であることを示していた。何かあるのだろうか、全力で走っているように見えるが、息はきれていない。速い。

 黒傘が後ろに引いて、道をあける。この歩道は傘を差して並ぶと道をふさいでしまう程度に狭いのだ。走ってきた男子生徒が二人とすれ違うとき、ありがとう。と二人に聞こえるように呟いた。こういう奴には好感が持てる。顔もいいし、相当モテるんだろうな。と、どうでもいいことを黒傘は考えていた。

 

 雨粒を夕日が丁寧に染め上げるころ、身長はまあまあ高く、そして細身で、しかし悪くない体格の男がいた。淡い茶色の和服を着ていて、周りの目をひくのだが、その格好は男にとても似合っていて誰も笑いも咎めもしない。サラサラとした髪は目にかからない程度に適当に切っていて、それも似合っている。その男は本来の年に似合わない、若く、そのハンサムで人懐っこい笑みを、彼の左に同じ傘の下にいる少女に向けている。少女も自分と頭一つ分くらい高い相手に対して同様に笑いかけていた。少女の方は、その見た目相応に若者向けのカジュアルなファッションで似合っている。軽くウェーブのかかったショートヘアは湿った風に揺られてふわふわしていた。

 二人は一つ傘の下、歩道を歩きながら、学校で何があっただとか、仕事のほうはどうだとか、そういう話をしていた。これから夕飯の材料でも買いにいくのだろう。昨今には珍しい父と娘の組み合わせだ。

 

 それと大体同じ頃、どこにでもある普通の一軒家で、若々い二人の男女の声が聞こえる。一人は成人しているかしていないか、そのくらいの年頃に見える若い男だ。人よりは薄い色の黒髪を首の辺りまで伸ばしている。もう一人は、さらに小さい中学生くらいの女子だ。色素の薄い灰色の髪を、ポニーテールにしてすらりと背中に垂らしている。

 二人が喧嘩をするのに理由はあまり必要ないかもしれない。仕方ないんだ。お互い、こういうところは良くないと思ってぶつかり合うのだから。こうした方がいいだろうと思ってぶつかり合うのだから。二人は仲のいい兄妹だ。いつもいつも喧嘩ばかりしているが、少しでも二人のことを知っている人は、そう言う。二人の両親もそう言う。


 夜が来て、町の明かりが少しずつ消えていく。降り続いていた雨もまばらになって、消えていく。町は寝る時間だ。明日へと備えて、一休みするのだ。

プロローグを三つ書きます。

それぞれ、まったく意味の異なるプロローグです。

これらは今後の展開に大切なもの、になるだろうと思いますよ。いや、なくても理解できるものだとは思いますが、あったほうが楽しいです。たぶん。

余談ですが、高校忙しいです。すとぅりぃいを考える暇も少ないorz

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