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NecroRomans -4

逃げる少女と追う男。

 足の速さでかなわないことは分かっていた。既に一度追いつかれたことはあるのだし、そもそも夜が明けるまでずっと走り続けるのは無理だ。灰色髪の少女は、この状況を簡単に打破できそうな方法を一つだけだが思いついていた。だが、それを実行するのは少し戸惑われて、かなわない競走を続けていた。細い路地をくるくると曲がり続ける。後ろに誰かがいる気配は無いが、男は屋根の上でも走っているのだろう。立ち止まったら、まずい。それだけ考えて走り続けてる。

 不意に頭上に何かが落ちてくる気配を感じた。とっさにその場から横に飛び込んだ。落ちてきたのは黒色の何か、いや、男だ。右手に持った傘を投げて、誰だか知らない赤の他人の車の下に滑り込ませた。こんな時間に妙な戦いを家のすぐ前で繰り広げられるのは、うるさくて迷惑だろうが、しかし、そんなことを考えている余裕は少女には無い。顔面を狙って放たれた鋭くそして速すぎる右ストレートを、避けることで精一杯だ。右の拳がくれば次は左の拳が飛んでくる。少女が逃げるより先に腕を掴んだ。そのまま少女を引きずり込む。だが、今回はさっきとは違い、噛み付こうとはしなかった。空いた右手に、いつのまにかナイフを握らせて、それで少女の腹部を刺した。少女も、もう一度噛み付いてくることはないだろうと思ってはいたのだが、しかし防ぎようが無かった。ぐっと押し殺したうめき声をもらして、ひるむ。

「吸血鬼なんだ。ナイフくらい扱えないとな」

そうささやくと、ナイフを引き抜いて、少女を突き飛ばした。左胸の少し下のあたりから全身をわたる痛みに、少女は悶絶し、そのままよろけるように壁に叩きつけられる。壁にもたれかかった少女の右手に、男は再度ナイフを突き立てた。そのままナイフの銀の体をできるだけ壁にうずめて、もう一本取り出したナイフで左手も同じように固定した。

 痛みと疲労に顔をしかめて、少女はうなだれた。息が荒くなっている。もう終わりだと思ったのか、抵抗はしない。男はそんな少女を、頭の先から足の先まで品定めするように眺めていたが、まぁ何にせよ、重要なのは味だと決め込むと、少女にさっと近づいてささやいた。

「いただきます」

首筋に鋭い歯が刺さる。そしてこの、不快で不気味な感触は、血を吸おうとしているらしかった。少女の記憶の中にある夜道で襲われた女性、そしてさっきの男の言葉、今の行動を見るかぎり、男は吸血鬼らしい。

 噛まれたことは、不思議と痛みはなかった。だが、傷口をあまりにも強い力で吸われることは、不気味で気持ちの悪い感触がした。体中の筋肉が緊張して、ぴくぴくと震えだす。少女は、この気味の悪い感触が嫌になって、もう少し休んでいるつもりでいたのをやめることにした。男は気付いていないことだったが、少女は手を塞がれて抵抗するのをあきらめたわけではない。抵抗しないことでしばらく休んで、そのうえ相手の隙をうかがう機会を得ようとしただけだった。まず、男の股間を狙って膝を振り上げた。そこに当たったのかどうかは分からないが、男は怯んで口を離す。するとすぐに、手を壁から引き離す。ナイフは手のひらを貫いたままだが関係ない。引き抜いた勢いで、男の頬をぶった。

 怯んだ男に見向きもしないで、人様の車のほうへと駆け寄る。その下に滑り込ませた古傘をむんずと掴み取ると、膝を曲げると出来るかぎりの力で跳んだ。バック宙をするように、体を回転させて屋根の上に着地する。上から男を一瞥して、すぐに逃げ出した。取り残された男はため息を吐きながら、しかし、追いかけようとはしなかった。追いかけないかわりに眉間に皺をよせて呟いた。

「血の味がしなかった。そもそも刺したのに血すら出てないな」

吸血鬼にとって血の無い人間は価値の無い人間に等しい。だが、血の無い人間などいるのだろうか。今、確かに、血を吸うことができなかった。もし、血の無い人間がいたとして、なぜそんな人間が出来るのか、あるいはその正体は何なのか。吸血鬼として、知っておかなければならない。別に吸血鬼だからといって、一日一人の血を吸わなければならないなどという難儀な体質ではない。その日の男の狩は終わった。

 男が追ってこないことを確認して、少女はぼろぼろのいかにも安そうな三階建てアパートの屋上に落ち着いた。夜の間はあの男が活動しているせいで眠れない。だが、昼間は昼間で、男に邪魔されない行動可能な時間だ。それでも睡眠無しに動くことは厳しい。その少女の体にはダメージという概念は無いが、疲労はたまるのだ。大の字に転がった少女の体には、傷ひとつついていなかった。たしかに、そのセーラー服にはナイフで刺された跡が残っていたが、穴が開いているはずの両手は綺麗な白い手に戻っていた。それでも、走っていたときには息切れしていたし、今も、息切れして、そして眠たい。

 壁にもたれて身と傘を抱くように小さくなった。今が何時なのか、二十四時間営業のコンビニをちらと見たときの時計のよると、二時の終わりごろだったはずだ。あと数時間で朝が来る。しばらく様子を見て、あの男が来ないようであれば、とりあえず、このまま眠りについてしまおう。

Q.吸血鬼=ナイフ?なんで?

A.主にジョジョ三部の影響です。


しかしこの吸血鬼、下手するとロリコンで、しかも妙な性癖をもつ変態に見えますね。あ、そんなことを言うから見えるのかかか。

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