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NecroRomans -3

幽霊少女にであってしまった由理はとりあえず疲れたのであった。

 ただいまとため息混じりに言いながら、由理は帰ってきた。玄関で靴を脱ぎながら、そういえば、この幽霊らしき少女にあったことは他の人に話すべきなのだろうかと思いついた。だが、話したところで誰が信じてくれよう。そもそも、話す意味はあるのか。黒いローファーを下駄箱に片付けつて、そんなことを考えながらすたすたと自分の部屋を目指した。部屋に入ると、とりあえず机にカバンを置いて、そしてそのままベットに倒れこんだ。ぼふっと乾いた音を立てて、ベッドは由理の体を受け入れて沈みこんだ。このままだと眠ってしまいそうな気がして、すぐに上体を起こした。しかし、そのままぼうっとしばらく座り込んでいた。

 幽霊かぁ。声に出して呟いてみると、何とも信じがたい気持ちが一層強くなった。あの少女は姿をさっと消したが、よくよく考えてみれば、由理が気付かなかっただけで、案外近くに隠れていたのかもしれない。しかし、もし幽霊なら、一体なぜ、そんなものがこの世に存在するのだろうか。幽霊がいるのなら死後の世界もあるのだろうか。こういう馬鹿げた疑問は、父に相談すれば、哲学的な何がしで説明してくれるだろう。だが、そんな答えはいらない。そんな哲学的な解釈をつきつけられて、何か得があるとは思えなかった。そもそも、理解できないだろうし。

 携帯を取り出して、メールをうつ。折角だから、この人にも奇妙な噂をおすそ分けしてやろう。メールの相手は桜庭夕季だ。もっとも、この夕季なら、そんな非現実な話、簡単に吹き飛ばしてしまいそうだが。

「ねぇ、夕季。幽霊の噂って知ってる?」

 こういう一文から始まったメールのやりとりは、なぜかとてもやる気の無い夕季の宿題しろよというような一言でさっさと終わってしまった。あれー?と何かしら胸にわだかまりを感じながらも、言われたとおりに宿題をこなした。そしてそのまま、時間は過ぎ行き、窓の外の景色は流れないながらも一瞬でそのグラデーションを黒に到達させ、由理も気がつけば風呂から出て夕食を食べ、パジャマ姿でベッドの上にいた。眠気を時折あくびにして吐き出すのだが、しかし吐き出す以上の速度で増殖する眠気に襲われ、目をつむった。さあ、夜が降りてくる。


 ところで、夜は危険である。つまり、夜が降りてきて地上を照らすものが星くらいしか無いというようなそんな夜のことであるが、少し変わった人々が這い出してくるのがこの時間であると言うことだ。明りが少ないこの時間、人を殺しても見つからないかもしれない。明りが少ないこの時間、たまたま通りかかる女性を好き勝手しても見つからず、顔も見られないかもしれない。いや、どちらも見つからない可能性のほうが高い。だがしかし、それよりも厄介なことがある。知っているか。いいや知らないと思うが、夜は妖怪と悪魔の闊歩する時間である。人が出てくる隙間はないのだ。妖怪や悪魔たちは、普段隠している怪しい心と力、悪しい力と心を思う存分解放して飛び回っているものだ。だから、夜、不用意に外に出ると、人よりも厄介な存在に出会うだろう。その命をもてあそばれて、下手をすれば死ぬかもしれない。嘘だと思うなら、少し顔をあげてみろ。あれは何だ。

 今や珍しい瓦屋根の上を音も立てず、駆け抜ける輝く灰色の髪。その後ろを真っ黒で夜に溶ける服で全身を包み、わずかに見える白い顔の男が追いかける。男のほうが速い。あと一メートルと少しの距離に近づくと一気に飛び掛った。灰色髪のほうはそれを見ていたかのようなタイミングでさっと振り返る。振り返るとき、灰色の髪に隠れていたその幼い輪郭があらわになった。右手を逆手に古ぼけた傘を持っているが、それを背に隠すようにして、右足を振り上げた。男は不吉な笑みをその白い顔にたたえながら、少女のハイキックをいとも容易く払いのけた。払いのけられたはずみですべるように後退する少女の首に、男の右腕が伸びる。か細い首を掴むと、払いのける間もなく、男のほうへ引き寄せた。少女のバランスが崩れ、男の胸に飛び込むようなかたちになる。男は狙いをつけて、少女の右肩と首の境界のあたりに顔をうずめる。それよりも速く少女の左腕が男の首を打った。

「やるじゃないか」

男の言葉に少女は答えようとせず、拘束を振り払って、距離をとる。呼吸がわずかに乱れている。

「だが、いつまでも逃げられるわけは無い。分かるだろう?」

「いつまでも逃げなければならないわけじゃない」

そういうと少女は左手人差し指をぴんと立てて空を指した。

「だって、君は、太陽が出てると出てこれない」

男は薄く笑った。

「今は夜だ。小さな小さな家出少女を助けてくれるお日様はどこにも見当たらないな。しばらく、付き合ってもらうぞ」

一気に距離をつけようとする男に対し、少女は屋根から飛び降りて逃げ出した。付き合う?お断りだそんなこと。灰色の長髪を翻して走り出した。

痛快娯楽的空想推理戦小説なので、頭を使わない純粋な力と力の勝負、みたいなのもあります。

しかし、一章で空気だったせいか、由理さんがんばりますね。二章に入ってから、主人公ズからは由理さんしか出てきてません。

でも、活躍してません。あらら。

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